日本代協は、代理店が日々の営業活動によって蓄積した顧客情報等は、「満期所有権」と言わずに「代理店の営業権」とする意思表示を保険会社に通知した。




花子
まず、ネット上の情報記事を整理して紹介することにしたいと思います。

http://logsoku.com/thread/society.2ch.net/hoken/1068895304/





平成16年4月28日 
 第04−31号(L−5)
 

損害保険株式会社
 
取締役社長 様
 
(写)代理店業務担当部長 様
 

社団法人 日本損害保険代理業協会
 
会 長  佐 藤 貞一朗
 


満期所有権について
 


拝啓 時下ますますご清栄のこととお慶び申し上げます。
 
弊会業務につきましては、日頃格別のご支援ご高配をいただき、
 
誠に有難く厚くお礼申し上げます。
 
さて、わが国においていわゆる「満期所有権」を実現させることが
 
弊会会員を含め、わが国の代理店の強い願望(夢)でありますことは、
従前からご理解いただいているところです。 


弊会はこの「満期所有権」の実現のため長い間努力を続けて参りました。
 
例えば、昭和55年当時、損保協会の募集制度委員会と代理店委託契約書の
改定問題を協議しておりましたが、その協議の中で、弊会から
 
「保険契約の満期所有権は代理店が有する」という提案をいたしました。
 
募集制度委員会は弊会の提案を真摯にうけとめていただき、
 
満期所有権につきアメリカ、フランス、西ドイツ、イタリアの制度についてまで
 
研究され、昭和55年11月に次のような見解をまとめられました。
 


募集制度の実態や売買の実態が異なることから、 
わが国に外国の制度を
そのまま導入することはできないが、代理店が自ら開拓し、 
取扱った契約に関し、何らかの権利、例えば財産的権利または
記録・情報を保有する権利を認めてほしいとの要求にはそれなりの
 
理由がある。
 
他の業界の代表例としては越中富山の訪問売薬方式における
 
顧客リストがあげられる。
 
また、巷間見られる「暖簾」に与えられる価値に似た点があり、
 
保険会社においても契約の取扱権利を売買の対象とする実例(29例)
 
もみられる。
 
しかしながら、米国等における独立した所有権を認められるほどの、
 
確たる慣行は存在しないが、何らかのそれらしい徴候はみられる。
 
満期所有権を日本に導入する場合には、日本の法制、募集制度等を
 
十分ふまえ多角的な検討を加えたうえ、そのあり方ならびに概念作りを
 
する必要があると考えられる。
 


弊会としては当時の募集制度委員会の代理店業務に対する深い理解と 
あたたかさに対し、敬服と感謝の気持ちを抱き、引き続き一緒に検討を
 
続けたいと考えていましたが、残念ながら種々の事情により、
 
満期所有権の検討は中断されたままとなっております。
 
弊会としても、この問題をさらに深く検討したいと思いながらも、
 
長い間、諸種の事情から未検討の状態が続いておりましたが、
 
このほど弊会の法制研究会が1年有余をかけ、また早稲田大学法学部
 
大塚教授のご指導をうけて、検討した結果「満期所有権について」
 
という報告書をまとめました。
 
本報告書はさる4月の常任理事会に付議され、全員一致で承認されました。
 


本報告書の結論を要約すれば次の2点に集約できます。
 


1.米国で一般的に認められている満期所有権という考え方は、 
将来はともかく物権法定主義をとっている現在のわが国においては
 
なじまない。
 
2.わが国においては、代理店の営業活動の成果を営業権と認識し、
 
この営業権が侵害される場合、その侵害を排除するという形で代理店の
 
営業権の保護を図っていくべきである。
 


換言すれば、代理店の営業権とは、代理店が自らの営業活動によって蓄積した
 
顧客の情報、顧客との信頼関係、保険技術、リスクマネジメント、契約の維持、
 
契約の更改にかかわる代理店手数料の期待利益等、customers origin
 
の財産権であり、直接契約の募集をしない保険会社には帰属しない
 
代理店の排他的(他の代理店に対しても)財産権である。
 


代理店業務に理解ある貴社にとっても上記の考え方は十分 
ご理解いただけるものと思料いたします。
 
従いまして、以後弊会といたしましては「満期所有権」
 
なる言葉は使わず「代理店の営業権」を主張し、
 
代理店の営業権を侵害する行為に対しましては、
 
営業権を守るため必要な行動を起す所存であります。
 
弊会としては「代理店の営業権」を侵害する行為とは、
 
例えば「恣意的な廃業誘導」や「不当な合併強要」などが該当する
 
ものと考えておりますので、貴社におかれましても慎重な対応を
 
お願い申し上げます。
 


ご参考までに、弊会の法制研究会の報告書と早稲田大学法学部
 
大塚英明教授の意見書を添付申し上げます。
 


時節柄、尊台のますますのご健勝と貴社の一層のご発展をお祈り申し上げます。
 

                            敬具
 


送付先
 
あいおい損害保険株式会社、朝日火災海上保険株式会社、共栄火災海上保険
 
株式会社、セコム損害保険株式会社、株式会社損害保険ジャパン、
 
大同火災海上保険株式会社、東京海上火災保険株式会社、日動火災海上保険
 
株式会社、日新火災海上保険株式会社、ニッセイ同和損害保険株式会社、
 
日本興亜損害保険株式会社、富士火災海上保険株式会社、三井住友海上火災
 
保険株式会社、AIU保険会社 以上14社
 






太郎
いい資料を見つけてきましたね。
このような資料が存在すること自体、代協会員以外の代理店はもとよりのこと、会員であってもこの満期所有権について関心をもたない代理店は、知る余地とてないでしょうね。


花子
今から7年前、代協から満期所有権に関する意思表示が保険会社各社に通知されていたんですね。
でも、意地悪な考え方をすれば、少なくとも代協に所属する代理店に、日々の営業活動によって獲得蓄積された顧客情報等は代理店固有の財産権であると意思表示したにもかかわらず、7年の間ただの一度も裁判所の判断に持ち込まれたケ-スがなかったのでしょうか。
代理店が権利意識に目覚めないほど保険会社との関係が友好的に継続されていたとは、代理店である私の実感としては、とてもそうは思えないのですが…。


太郎
私の調べた限りでは、一つの判例も存在していないようなので、この顧客情報等の財産権をめぐって保険会社と争った代理店は過去に存在しないということですね。


花子
太郎さんに確認の意味で改めて質問しますが、代協が顧客情報等の財産権を「満期所有権」と呼ばずに「代理店の営業権」と呼ぶことにする、という意思表示を保険会社に通知した理由は何だったのでしょうか。


太郎
代理店が日々の保険募集営業活動によって獲得蓄積した顧客情報等は「有体物」ではないということは容易に理解できますよね。これらの情報等は、「人間の知的精神活動によって創り出された創造物としての内容そのもの」ですから「無体物」ということになります。このことも容易に理解可能と思います。

そうすると、民法175条の規定が問題となってくるわけです。
175条は次のように規定しています。「物権は、この法律その他の法律に定めるもののほか、創設することができない。」
そして、「物権を創設することができない」とは、「法律で認められていない新しい種類の物権を作り出すことができないばかりでなく、法律で認められている物権を、法律で定められた内容と違った内容にすることもできない」(自由国民社刊・「口語民法」)ことを意味するとされていることから、民法206条の所有権の規定、「所有者は、法令の範囲内において、自由にその所有物の使用、収益及び処分をする権利を有する。」。そしてさらに、民法85条の規定、「この法律において『物』とは、有体物をいう」。
以上の各条文の規定から、所有権の対象となる所有「物」は有体物でなければならないことになり、人間の知的精神活動創造物なる「無体物」に対する所有権を認めることは、175条の物権法定主義に反することになるから認められないという結論が導き出されることになります。

だから、代協が顧客情報等の無体物に対する所有権を認めたような表現である「満期所有権」という用語は適切でないと判断したのだと思います。
問題は、この満期所有権に代わる用語として代協が主張している「営業権」です。

この代理店の営業権について、代協は次のようにその内容を説明しています。いわく、、代理店が自らの営業活動によって蓄積した顧客の情報、顧客との信頼関係、保険技術、リスクマネジメント、契約の維持、契約の更改にかかわる代理店手数料の期待利益等、customers origin の財産権」。ここに用いられている
customers origin。この横文字、どこから引用してきたのか分かりませんし、日本語でどう表記するのかもよく分かりません。保険会社への通知書の中で用いられているだけに、しっかりとした日本語表記が必要だった思います。


花子
代協は保険会社への通知書の中で、「代理店の営業権」は「財産権」であるとしていますが、そもそも、営業権とか財産権といった用語は頭の中でどのように整理しておけばいいのでしょうか。


太郎
営業権とは、そもそも無体物に対する権利であることをしっかりと頭の中に入れておいて、あとは代協が通知書の中で説明している内容だと理解しておけば十分でしょう。 

次に財産権。法律学小辞典(有斐閣)によれば、「経済的取引の客体を目的とする権利の総称」と説明されています。経済的取引の対象となる物、即ち交換価値のある物を自らに引き寄せている法的な力即ち権利を財産権というのですから、有体物を引き寄せている権利(物権)、特定の人に何かをさせること<債務関係>を引き寄せている権利(債権)、人の知的・精神活動によって創り出されたもの<無体物>を引き寄せている権利(無体財産権)などを総称して「財産権」と呼ぶのだと理解しておけば十分です、

ところで、花子さんが偶然にも見つけ出した、
平成16年4月28日社団法人 日本損害保険代理業協会が「満期所有権について」という表題で損害保険会社14社に出した通知文書。私がここで問題にしたいのは、この文書で述べているようにわが国においていわゆる『満期所有権』を実現させることが 弊会会員を含め、わが国の代理店の強い願望(夢)でありますが真に目指すところであるのなら、何故、開設している自らのホ-ムペ-ジに積極的に掲載して啓蒙活動を行なってこなかったのかということです。


花子
よく分からない代協の存在は別として、各保険会社がこの通知書を契機として当面一番恐れたことは何だったのでしょうか。ただ、無視するだけでいいのだったのでしょうか。


太郎
今現在もそうでしょうがやはり裁判です。この権利に目覚めた代理店から訴訟を起こされることだと思います。保険会社にとっては、顧客情報等が所有権の対象となろうが営業権の対象となろうが、そんなことはどちらであってもいいことであって、民法709条の規定する「権利」ないしは「法律上保護される利益」を侵害されたとして、代理店から損害賠償請求の訴えを起こされることです。

そして裁判の結果、代理店固有の排他的財産権として確定されたらとしたら、一体どういうことになるのでしょうか。代理店委託契約書は真っ先に全面的改定を余儀なくされ、その規定条文の中に、顧客情報等は代理店固有の財産権であることを明記せざるを得なくなるということです。また、その結果がもたらす影響として、ある意味革命的変革を保険会社に強要することになるということです。もちろん、変革が起こるのは代理店も同様です。保険会社の強い従属性から開放される結果、主体性に裏付けられた自負心と独立心にあふれた営業活動が展開されることになり、その効果は保険契約者の利益保護の拡大に波及していくにちがいありません。


花子
顧客情報等を代理店の財産権として確立することは、すばらしい効果があるんですね。
だからその反対に、保険会社側にとっては、絶対に認めさせたくない権利ということになるでしょうね。
この満期所有権の問題。調べれば調べるほど奥の深いテ-マであることがよく分かりました。
本日は勉強になりました。太郎さん、ありがとうございました。(2011.3.20)