とっても、とっても暑い日。
父上の使いで、外に出た。

綱手様宛ての書状を届けるため、火影様のお屋敷へと向かう。
父上の名代だけれど、ホントは違うって、わかってる。

今日はネジ兄さんが稽古に来る日。
ハナビは家に残って、私は使いへ出された。

しょうがないよね。
宗家の嫡子が、従兄や妹よりも弱いって、一族のみんなに知られるのは、都合が悪いもの。

ちょっと泣きそうになりながら、汗を拭くフリをして、服の袖で顔をこする。
そうして、道を歩いていたら――。

「ええーっ、釣りが出ねーって?!」

えっ? ナルトくん?!
駄菓子屋さんの前で、店のおばあさんと話してる。
でも、大声を出して……いったい、どうしたんだろう。

「まいったなー、オレってば、小銭持ってねーし……」

手にしているカエルの財布を振りながら……何だか、弱ってるみたい。

「ナ、ナルトくん!」

意を決して、話しかけた。
私には珍しく、積極的。

でも……。

「おう! ヒナタ!」

ニコッと笑いかけられただけなのに、その場で固まりそうになる。
地面に視線を落とし、
「どうしたの?」
と、声にするのがやっとだった。

「うーん。この天気だろ? アイス買おうと思ったんだけどさー」

小銭を持ち合わせてなくて、紙幣を出したら、そんなにたくさん、こまかいお釣りは出せない――そう、店のおばあさんにいわれたって、打ち明けられた。

「一楽でラーメン喰ったあとだから、冷たいモン、口に入れたかったんだけどなあ!」

朝からラーメン?
この炎天下に?!

ちょっとビックリしたけど――ニコニコと話すナルトくんを見ていると、そういうのもアリかなー、と思っちゃうから、不思議。

「あ、あの……私、小銭持ってるから!」

えっ? と、少し驚いたみたいにいう、ナルトくんを見ないまま、
「おばあさん、いくらですか?」
と財布を取り出して、たずねると、いわれた金額を払った。

店先の小さな箱から取り出された、棒のアイスを、おばあさんから受け取り、
「は、はい!」
と、ナルトくんへ差し出す。

きれいな水色の、いかにも冷たそうな、真ん中でぱきんと割れる、棒が二本付いたアイス……。

「ヒナタ、いいのか……?」
「い、いいの! 食べて!」
「だったら、半分コにするってばよ!」
「えっ?」

ナルトくんはすっと道端に寄り、地べたへ座り込むと、私から受け取ったアイスを、二つに割った。

「ほら、早くしねーと、溶けちまう!」
「あ……うん!」

差し出されたアイスの片割れを受け取り、私もナルトくんの隣に座った。

こんなの初めて。
買い食いって、いうのかな。
お店で買って、そのまま外で――道のはしっこに座って、食べるなんて。

しかも、隣には――。

緊張しながら、そっとアイスに歯を立てる。
さくっと冷たくて甘い氷の塊が、舌の上を転がり、喉へと落ちて行く……。

美味しい、とついつい笑っちゃう。
でも、のんびりしてたら、あっという間に溶けてしまうから、どんどん食べなきゃ。

頭がきーんとして、でも、お腹の中がすうっと冷たくなって。
食べ終わった時、暑さが遠のいて、ほうっと息を吐いた。

すると……。

「ヒナタ!」

ナルトくんに横から顔をのぞき込まれ、どきりとした。

とっくに食べ終わってたみたいで、
「すっげー、美味そうに食うのな! アイス、好きか?」
と、何だかとっても嬉しそうに聞いてくる。

うん、と返事をして、顔が熱くなった。
アイス、美味しかったよ。
冷たくて、甘くて……ナルトくんと並んで、食べたんだもの。

「好き……」
と、声にして、頭が爆発しそうになる。

好きなのは、アイス! 好きなのは、アイス! と、心の中で、自分にいい聞かせた。

「そっか! 暑い日は、アイスに限るってばよ!」

食べ終えたあとに残った、アイスの棒を、ナルトくんは、私の手から抜き取った。
棒をつまんでいた指先に、彼の指が触れて――。

胸がドキドキした。

そんな私の隣で、ナルトくんは立ち上がり、駄菓子屋の店先へと走る。
そして、軒下のゴミ箱へアイスの棒を二本、ぽんと捨てて、
「あっ!」
と、声を上げた。

「シカマル!」
「おう、ナルト。何やってんだ?」
「アイス、食ってたんだってばよ!」

道の向こうから来たシカマル君へ、ナルトくんが走り寄り、二人は並んで、歩き出す。

私はそっと、目を伏せた。

「シカマルは?」
「ん? 五代目んトコへ行く途中だよ。面倒クセーけど、報告書を出さなきゃなんねーんだ」
「へへへ、オレもだってばよ!」

ナルトくんが目の前を通り過ぎて行く。
私は、彼の足もとを盗み見て――。

実は、私も火影様のお屋敷へ行くの。
あの、だから、一緒に……。

「ヒナタ!」

いい出す前に、ナルトくんから名前を呼ばれ、慌てて顔を上げた。

「今度、オレがアイス、おごるってばよ!」

元気に右手を振り、大きな声を出すナルトくんへ、右手を振り返す。

ありがとなっ! と立ち去る彼の後ろ姿を、道端に座って膝を抱えたまま、見送った。

追いかけることも出来ず、ため息と共に、空を仰ぐだけ。

まぶしい太陽。
真っ青な空。
白い雲。

とっても、とっても、暑い日。

ナルトくんに会えて、嬉しかった。
でも……。

ちょっぴり寂しいのは、何でかな。
だから、声を出さずに、つぶやいた。

アイス、本当に美味しかったよ。
こちらこそ、ありがとう。ナルトくん――。