うつし世

 

女は憂鬱だった

上の空で月日を数えていた


一方、男は女の白い頸を

裸として見ていた


  ……そこはまばゆく、甘く

  あだっぽさの滴り落ちて

  無限の裸体へとひろがっていく

  が、ある段階で、どうしても闇となる……


女は憂鬱だった

男と話す気にはなれなかった


静けさの耳鳴りがさやめいて

女の頭の中の空洞で

傷ついたフィルムが回りはじめた


  ……赤い雲がたなびく

  山百合の揺れる細道を

  少女はパラソル片手に歩いていく


  小川の流れを飛びこえて

  猫の仮睡をからかって

  野鳩の頸も伸びている


  街の、焼けたミルクホールから

  折れ曲がったレコードの変拍子が

  風に乗って


  賛美歌が沈める太陽を

  丘の上から、丸い目をして覘いている

  ただ放熱を冷ますように、涙あふれて


  頭上一面に星宿がひらいたら

  手燭でおりる死神と

  少女は優雅に踊るのさ


  ステッキがわりのパラソルで

  喉に音符が詰まるまで

  少女は愉快に踊るのさ……


女は憂鬱だった

突発的に、鼻歌を唄ってしまうほどに


が、男はそれにも気づかぬほど

落ち着きのない様子で

また別の、空想をしているようだった。