落下会
落下会
頭蓋骨の中で膨らむ
不穏な気持ちの風船ガム
空はただれたマーブル模様
禍々しい陽光の、
毒々しい着色料を浴びながら
落下会が集いはじめる
その集団は千の色彩と
甘い香りに包まれている
彼らは一種の儀式のように
パンの耳を捨てて歩く
バターのたっぷり塗られた、
やわらかい部分のみを
食べていきたいから
瞳に貼りついた白い輝点が
クラゲのように泳ぎだす
彼らは導かれるままに
ビルの階段を上っていく
途切れそうにない靴音のソナタ
落下会の長い列は静かに進んでいく
屋上からの風景は
明るさ過剰のディスプレイ
現実はキューブの瓦礫と化している
彼らは増殖する分割画面のように密集し
エレキ的に動く虹色の残像を描いて
パラノイドなダンスを繰り返す
ミラーボールを吐きだす怪獣や
ロボトミーとソフト・マシーンの恋愛悲劇
網膜のスクリーンには
色の洪水があふれ続けている
眩暈して百花咲きたる目玉裏
眼動脈に蝶々もつれし…
枝も葉もない花びらだけの森が
鉄柵の向こう側に浮かび上がる
落下会は屋上からこぼれ落ちるように
次々と身を投げていく
鮮血に染まる彼ら自身が花びらとなって
地面に降り積もっているのだ
中には発狂し流言で会員を惑わす女もいた
「美少年には生理があるの…
満月の夜に丘の上の古城に集い
涙を浮かべてお尻から血を流すのよ」
彼女は屋上で落下会により処刑された
落下会を乗せた旅客機が
ビルの真上を過ぎていく
窓からは大量のパンの耳が
撒き捨てられている
ギラギラ光る機体はバターまみれ
溶かしバターが垂れ落ちて
そして、人間の雨が降ってくる
マーブル模様の空では
誰もいなくなった旅客機が
いつまでも旋廻し続けている。