公園の風穴
公園の風穴
平日の昼間
彼は神の力に逆らい
時間を止める努力をしていた
狭い公園で、若い女を意識しつつ
誰にも見つからないように
眼前に、蝶がひらひらと落ちてきた
彼は力を入れ、力こぶをつくった
蝶は紙屑のように風に運ばれ
やがて灼けた砂にまみれてゴミと化した
彼にはやるべきことが何も残されていなかった
誰かの夢を分けてさえもらっていなかった
弟は言っていた
「スロ打っとお時が、いっちゃん幸せやの」
しかし、彼には何もなかった
公園の中央、光の溜まる場所では
野良犬が鼻で土をめくっている
卑しそうに、何かを食べているようだ
彼はあの犬を持ち帰ることを想像した
餌を与え、散髪をしてやり、共に寝てじゃれあう
悪くなかった、輝きに満ち満ちた世界に思えた
だが、いつか犬に裏切られることも想像し
うんざりして嫌になった
足下には、蟻が列をつくっている
先頭の蟻が真珠のようなきらきらした液体を運んでいる
後ろの方で、女が泣いていた
ブランコに座りスカートを風に揺らして
両手で顔を覆い尽くしている
彼は悲しみを、熱中して悲しむことも上手ではなかった
風船を飛ばすように、独り言を風に乗せた
「君の絶望をおれにも分けてくれ」
女はひくつきながらその場を去った
時間がとめどなく流れている
風がきりきりと身体をしめつけ、圧迫している
一秒刻みで背後に重い扉が連なっていく、そんな気がした
ずしずしと何枚も増えていき
戻りたい場所に戻れなくなっていた
無数の扉に押し運ばれ、気づくと全然知らない場所で
ぼんやりと、空気を見つめているしかなかった
いつしか、陽が落ちはじめていた
依然として、何をしていいのかさっぱりわからなかった
何故、自分が公園にいるのか、それもわからなかった
これはまるで、今産まれたばかりのようだと感じた
この公園に見知らぬ世界に、たった今産み落とされたのだ
(どうしようもない状況だ
だが、リードしている
並の赤ん坊よりも…)
彼はゆっくりと、風に向かって歩きはじめた
足に筋肉を感じて、オレンジの顔で、流れる雲見上げて。