岸の家

高潮がとどかない

岸の家

朝霧につつまれて

素描のようにかすれている


ざわめきがとどかない

途切れた鉄路、廃石の丘

みすてられた彼岸に

まぼろしめいて建って


此岸の水面のかがやきも

あちらでふいに失せていく

遠くの空ゆれてずれて

ひっそり切りはなされていく


はぐれた雲の葬列が

屋根の上いかめしく停滞し

誰もしらない局地的な雨で

時折、けぶっている様子


偏屈な場所に建てて

あの家族は出かけられないでいる

窓に貼りついた人影

音のない声があわぶいて


「人影のある窓」が複製されていく

壁一面から道ばた、岸辺まであふれて

花つみや水浴びの子らは

無邪気にふみちらしているだろう。