鉄の

 

空間が音を立てて、凝固する

見るものすべて鉄

触るものすべて壁

 

  きみがどういう人か、

  いくら知らされても

  上手に覚えられないようだ

  ぼくは失格だネ

 

鉄の部屋が、足許の海に沈んでいく

それは緩やかで厳かな動き

メロウな不可逆性を帯びた、

揺らぎのなかの暮らし

 

  でも、きみはぼくのことを何も知らないだろう?

  ぼくは何もいえなかった

  大切なことを思い出しても

  きみのことを見ていたかったんだよ

 

憂いのフォルムを湛えて

鉄の部屋は、静かに下りる

気球が上るように、下りる

深海の呼ぶ、その声を聞きながら

 

  ぼくは自分のなかに

  “狭い”という苦しみを見つけたんだ

  とてもここから出られそうにないよ

  何事も理解できそうにないネ

 

鉄の部屋がもうひとつ、

追いかけるように下降してくる

丸窓から、横顔をのぞかせる

泡立ちに紛れて、魚影が横切っていく

 

別々にやり過ごす

ひとつの冷たい海のなか

永遠に、わかりあうことはない。