冷たい花

 

1.

静かな西の空の窓辺で

女は何気なく、ただ陽気に

細い花瓶に咲く一輪の花に触れた

すると、女の顔はとたんに青ざめ

得体の知れない恐怖にうち震えた。


2.

女のおかしな様子を見て

男はすぐさま駆け寄り、女を落ち着かせようと

包むように優しく肩を抱き寄せた

「どうしたんだい?」

「花が冷たかったの、この前よりもずっと…」


3.

女の言葉に半ば安心した男は

「大丈夫だよ、枯れやしないさ」

と云い、何気なくその花弁に指を触れた

すると、刺すような冷たさが皮膚に走り

男の内にも恐怖の感情が沸き起こった。


4.

男と女は恐怖から逃れるように

固く抱き合って、お互いの身体を守りあった

「何も心配することはない、ずっとこうしていれば…」

西の空の窓辺の冷たい花は、二人の傍らで

より冷ややかに咲いているように見えた。


5.

永遠の愛を意識し始めた「男」と「女」は

お互いを急激に強く強く求め合う

しかし、その強さは壊れそうな危うさの恐怖を内包している

永遠の美しさを閉じ込めようとした

凍てついた花のように。