千鳥格子
千鳥格子
高架線に区切られた太陽が
古道具屋のトタン屋根に呑み込まれていく
重くぬるい風がカーテンを膨らませ
窓辺の花器が虹彩を放つ時、
頭の奥で火薬がちりちりし始めて
数秒後に我が身が消滅するのを待つ心境で
日清キャノーラ油のCMを見ていた
アパートのドアは開けっ放し
遠ざかるツッカケの音に振り向きもしない
紐を引いたら舌を出す唐人形が
違い棚の高い位置から部屋を見下ろしている
くの字になって粉々の蕎麦殻枕をいだき
ちゃぶ台の裏側を足先でくすぐり続ける主
消滅どころか独りきりで生きている
腹が減ったと気分を損ねても
怒る相手が出ていった
芋ようかんに紅茶を出された不始末、
餃子の裏側全部黒コゲの惨事等々思い起こし
何も食わぬとヘソを曲げあぐらをかいて空気吸う
胃のねじれのように暗い部屋までねじれて見える
重い腰上げ夢遊のようにふらついて
流し台の手元灯に辿りつく
豚の形の計量カップや菜の花模様の鍋つかみ、
冷蔵庫のこそげ落ちたハム太郎のシール等々
間の抜けた物ばかりが溢れる有様にため息漏らし
千鳥格子のエプロンに残香探して夜が更ける
ああ、曇り窓、街の灯りの一つかな。