二十歳の原点ノート
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とちぎ文学地図
高野悦子「二十歳の原点」ゆかりの地の一つが、彼女の地元・栃木県である。
その栃木県で現在、入手できる資料の一つに「とちぎ文学地図~文学に描かれた栃木~」がある。
この地図は栃木県教育委員会や地元の書店関係者らでつくる「とちぎ学」普及委員会が2010年、県民にふるさと栃木の魅力に改めて親しんでもらえるよう「古典編」と「近現代編」それぞれ25,000部ずつを作った。県内の図書館や観光案内所などで配布されている。
このうち「近現代編」には栃木県が舞台となっている明治時代以降の166作品が掲載されている。栃木県内の各市町教育委員会が推薦した中から、図書館等で借りることができるものを条件に選ばれた。
地図では市町ごとに書名・著者名が並べられ、作品にちなむ場所が地図上でわかるようになっている。
栃木県ゆかりの文学作品といっても、重要な舞台となっているものだけでなく、少しだけ登場しているものまで含まれている。
ジャンルも古くは純文学の幸田露伴や国木田独歩にはじまり、栃木弁で思い出す立松和平、さらに片岡義男「スローなブギにしてくれ」や西村京太郎「日光・鬼怒川殺人ルート」まで幅広くカバーしている。リストには“この作品も栃木県が関係していたのか”という書名もあり、興味深い。やはり日光や宇都宮に関するものが多い。
高野悦子「二十歳の原点」は、那須塩原市(旧・西那須野町)と宇都宮市を舞台とする昭和の作品として登場している。旧・西那須野町が舞台の文学作品はこれだけになっている。
高野悦子関係ではあと、日記で記述している宮本百合子「伸子」が那須町の項目に出てきている。
☞二十歳の原点序章1968年3月29日「『伸子』はやっとよみ終り」
ここまで内容を伝えてきたが、この「とちぎ文学地図」は、観光地図としてみると、もの足りないと言わざるをえない。
書名・著者名を各市町の行政区分に並べているだけで、どうみてもこの地図をきっかけに各地を巡ってみようという気にならないのである。
文学のゆかりの地というものは、その市町村の位置や雰囲気といった漠然としたものではなく、具体的でピンポイントなものでないとイメージが湧いてこない。
著者の描いた場所とまさに同じ所に読者が立ち、空気の匂いや空間の広さ、そして時の経過などを実感することで初めて共通体験として意味をもつのである。
本ホームページが「西那須野で」と「宇都宮で」の2章で彼女の地元ゆかりの地を詳細に紹介したのはその意味も込めている。
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西那須野・宇都宮で
栃木県の魅力を広く知らせるためには、資料掲載のうち少なくとも有名作品に登場する特徴的な場所を個別に選んで重点的に紹介していくことも必要ではないかと思う。県教育委員会のサイトには「とちぎ ふるさと学習」と名付けた子どもに研究を促す項目はあるが、内容も工夫も足りない。
一層の充実が望まれる。
なお一般書で栃木県の文学ゆかりの地を紹介したものとして「栃木県の文学散歩」(月刊さつき研究所、1979年)、「ふるさとの散歩道─栃木ゆかりの文学を訪ねて」(下野新聞社、2002年)などがある。
また豊富な写真や図版で栃木県の文学史を一覧できる「栃木県近代文学アルバム」(栃木文化協会、2000年)も出色である。