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これまので活動

2013年9月18日(水)乳がん学習会レポート

乳がん学習会レポート(中井薫作成、田中文子編集)
講師:鈴間孝臣先生(乳腺専門医、古梅記念病院・上富田クリニック・串本有田病院等で勤務)
会場:和歌山ビッグ愛 9階会議室A

『遺伝子が先かタンパク質が先か』

*先生は独特の考え方で、専門医にアクセスしにくい患者の為に広範囲での診察を行っています (自己紹介より)。

・私たちの身体は遺伝子の指令を受けたタンパク質が様々な動きを担っている。
・細胞の活動は主にタンパク質合成で行われている。
・すべての細胞はタンパク質を合成している。
・歴史をさかのぼると、バクテリアが42億年前にできて、人間の細胞とあまり違うわけではない。遺伝子などもよく似た活動をしている。バクテリアから魚や恐竜、マンモスと進化し現在のわれわれ人間、ホモサピエンスに至る。
・例えば大腸菌もグルタミンの指令を受けてタンパク質を合成し、細胞分裂する。グルタミンの指令で鞭毛が動き泳いで移動する。乳腺細胞も同じで、エストロゲンタンパクの指令を受け、タンパク質合成して細胞分裂し、増殖する。
・乳がんに関係するタンパク質にはエストロゲンタンパク、プロゲステロンタンパク、HER2タンパクなどがある。
・HER2+(プラス)の人は細胞の表面の膜上に、HER2タンパクがたくさんあり、それが何かの指令を受け、突然増殖しはじめて止まらなくなる。したがって、そのレセプターを封じ込めばがん細胞の分裂が活発に出来なくなる。
→ハーセプチンを投与。これがHER2+の症例になる。
・正常細胞の場合は少ないのだが、エストロゲンという物質が直接DNAの核の中にあるエストロゲンレセプターとくっつくと、分裂し 色々なタンパク質を作り出す。
・エストロゲンレセプターがプラスでプロゲステロンレセプターもプラスという方がいますが、そういう方はエストロゲンレセプターが作られ、さらにプロゲステロンレセプターが作られるのです。
要するに分化度の高い細胞ということになる。
・その場合エストロゲンを少なくすると細胞の増殖は止まる。

・正常細胞だと、エストロゲンが核の中にあるエストロゲンレセプターとくっつくと、核のDNA(遺伝子情報)がRNA(遺伝子情報から転写)を作り、それが核から外へ飛び出してタンパク質とアミノ酸をたくさんつけて作り出す。
・タンパク質は8000種類ほどあり、そのタンパク質が細胞を飛び出して他の細胞に影響を与えたり、あるいは核の中にもう一度入り、核分裂を助けたりする。
・細胞のコピー時、DNAがRNAを作り、更にタンパク質を作る。このタンパク質がRNAにもDNAの複製にも影響を及ぼす。このようにお互いに影響を与えている。
・そのように考えるとDNAが先かタンパク質が先かわからないが、とにかくお互いに影響を及ぼしあい、上手く生きていくためにコントロールされているのである。


さて、ここまで分かりましたか?難しいですね。遺伝子が先かタンパク質が先か? 卵が先か鶏が先か?…次は『エストロゲンはどこで作られるのか』です。頑張って読んでね!

・閉経前は視床下部から刺激ホルモンが出て、脳下垂体から 卵胞刺激ホルモンと黄体ホルモンが出て卵巣を刺激してエストロゲンが出る。
・なので、このエストロゲンをタモキシフェン(エストロゲンと同じ構造を持っているのだが作用が少ない)薬を使う。
・もうひとつは、LH-RHレセプターにつく刺激ホルモンを下げてしまう薬(リューブリン、ゾラデックス)を使う。
・閉経後は副腎でアンドロイド(男性ホルモン)が作られ、それが 各脂肪組織にあるアロマターゼタンパク質の触媒作用で、ア ロマターゼタンパク質の触媒作用でアンドロイドがエストロゲンにかわってがんを増殖する。
・だからアロマターゼを防ぐ薬を用いると経路がなくなり、エストロゲンが下がるので、がんがエストロゲンを必要としている場合、閉経後はうまく効く。
・閉経前はエストロゲンの量が多いので、このアロマターゼ阻害剤では抑えられない。


あなたは閉経前?閉経後?それによって薬が違ってきますね。
次は『エストロゲンが生み出す生理作用』です。頑張って読んでね!

エストロゲンが生み出すタンパクの生理作用
*乳腺細胞の増殖促進
*卵巣排卵制御
*脂質代謝制御
*インスリン作用
*血液凝固作用
*中枢神経(意識)作用
*女性化
*破骨細胞制御
*善玉コレステロールの増加による動脈硬化制御などである。


長いホルモン療法中、実際にどんな影響があるのかな?頑張って読んでね!

・アロマターゼ阻害剤を服用すると、前項のエストロゲン作用とすべて逆の作用をおこす。
・質問の中にも「薬を服用して記憶障害になる」というのがあったが、エストロゲンは自身が意識に関係しているホルモン、あるいは、これを作ったタンパクが関係しているので、エストロゲンが少なくなると、中枢神経の意識に関わるところが少し障害されることがある。
・破骨細胞の抑制が効かなくなると、骨を溶かしやすくするため、骨粗鬆症になることがある。
・善玉コレステロールの増加にかかわって動脈硬化をおこしにくくしているが、その作用がなくなると動脈硬化が進み血圧が上がることがある。
・インスリン作用も低下し、脂質代謝制御も低下するので太りやすくなることがある。
そのほか、血圧が上昇したり、コレステロール値が高くなることもある。

なるほど、そういう理屈でしたか。
ただし色々な症状も出る人と出ない人があります。
次も頑張って読んでね!

・正常な乳腺細胞もタンパクを合成して増殖するが、がん細胞もタンパクを合成して増殖する。正常細胞はきちんとお互いにコーディネートされて組織という形を保ってくれるが、がん細胞はどんどん増殖してコントロールが効かなくなる。
・がん細胞が増殖してタンパクを合成する時に、ファクター(要素)であるKi-67タンパク、エストロゲンタンパク、プロゲステロンタンパク、HER2タンパク、がん抑制タンパクがエストロゲンの刺激や外からの刺激によって、たくさん出てくる。そのことが、がんの増殖をとまらなくしてしまう。
・がん抑制遺伝子には、現在遺伝子検査でいわれている、BRCA1(がんになりそうな細胞を排除してくれる、あるいはDNAが傷つくと、それ以上傷つかないよう修復してくれるタンパク)等がある。

ミクロの世界は複雑!次は『乳がん治療の変遷』です。頑張って読んでね!

・がんの悪性度は〜1995年では大きさや転移の有無によって予後が悪いかどうか決められていたが、2013年、ザンクトガレンの学会発表によると、本当はどんな遺伝子が発現して悪いことをしているのかみたいのだが、この検査は高額で時間もかかるので、研究者(発表者)たちは、そのいくつかから出来たタンパク(エストロゲン、プロゲステロン、Ki-67、HER2)を組織で染色して遺伝子を予測したいと思っている。
・未来は「あなたの遺伝子はこうだから、こんな抗がん剤がいいかもしれません」という時代がくるかもしれない。


サブタイプってなあに?治療の目安はドンドンかわっています。
頑張って読んでね!


(参考)

エストロゲン受容体のある人

(ER+)

エストロゲン受容体のない人

(ER−)

ハーツープラス(HER2+)

ルミナール ハーツー

(Luminal HER2)

ハーツー

(HER2)

ハーツーマイナス(HER2−)

ルミナールA

(Luminal A)

ルミナールB

(Luminal B)

トリプルネガティブ

(Triple negative)

(注)ルミナールとは?ルミナールA=本当にやさしい、ルミナールB=本当はやさしくない

・ルミナールAの中には、「グレード3だったら化学療法はどうするか」という時、「念のためにする」ということがあった。
・ルミナールAの中には念のため、ではなくホルモン療法以外にも治療が必要な症例があるのではないか。
・リンパ節転移4個以上だと、放射線療法をすることがある。では1〜3個だと、どうか?
・その場合遺伝子検査(Ki-67、HER2)をして判断する時がある。
・発症年齢が35歳以下なら、ルミナールAでも予後が良くないので、他の治療もする。またはスコアが良いのでやらなくても良い、と意見が分かれる。
・しかし35歳以下で乳がんになる人は、家族性、遺伝性(がん抑制遺伝子に何か悪いことがおこっている可能性がある)の疑いもある。
・ERがマイナスでPRがプラスの場合はアーチフェクト(検査などにおける偽所見)である。


・以前はリンパ節転移があるのは悪いと言われていた。
・リンパ節転移が3個位までなら化学療法は要らないと言われていた。
・〃3個までなら放射線をあてておきましょう。
 今は腫瘍のタイプやサブタイプ(ルミナール)を重視する。

(参考:がんサポートより 乳がんの大まかなサブタイプ別分類)


サブタイプ

ホルモン受容体

HER2受容体

薬物療法

ルミナールA

陽性

陰性

ホルモン療法

ルミナールB

陽性

陰性

ホルモン療法+化学療法

陽性

ホルモン療法+化学療法+分子標的薬(ハーセプチン)

HER2

陰性

陽性

化学療法+分子標的薬(ハーセプチン)

トリプルネガティブ

陰性

陰性

化学療法


最後に『遺伝性乳がんについて』さあラストです!頑張ったね!

・日本では、遺伝性乳がん、卵巣がんを調べるために、本人を含む第2度近親内に、40未満で罹患した人がいる、両側性乳がんに罹患した人がいる、卵巣がんに罹患した人がいる、この条件を満たす人がいれば、全体の5〜10%位存在する。
・全乳がん患者の2%くらいである。
・BRCA1/BACA2  38%〜46%
【参考】乳がんや卵巣がんが多く見られる家系について調べた研究によって、乳がんや卵巣がんの発症と関連している類の遺伝子が同定され、それぞれ、BRCA1遺伝子(BRCA1)、BRCA2遺伝子(BRCA2)と名付けられました。これらの遺伝子のどちらかに、生まれつき病的変異があると、乳がんや卵巣がんを発症するリスクが高くなることが分かっており、「遺伝性乳がん・卵巣がん症候群」と診断されます。遺伝性乳がん・卵巣がん症候群は、HBOC (英語名称のereditary Breast and Ovarian Cancer Syndromeの略称)とも呼ばれます。
また、病的変異のある遺伝子は、親から子へ1/2(50%)の確率で受け継がれます。
よって、家族(血縁者)の中に乳がんや卵巣がんを発症した方が複数見られることがあります。(FALCO HPより)
・トリプルネガティブの5〜18%のみが変異BRACA1遺伝子を持っている。したがってトリプルネガティブの人が皆遺伝性でがんになるとは限らない。


・遺伝性乳がんかどうか調べる方法:潟tァルコバイオシステムズ(京都市)で調べられるが、まず遺伝カウンセリング外来へ行くようです。残念ながら和歌山県内にはありませんが、大阪、奈良、兵庫、京都などでありますので、インターネットでファルコのHPhttp://www.familial-brca.jp/index.html遺伝カウンセリングを提供できる施設一覧http://www.familial-brca.jp/where/index.html 等でお調べ下さい。(予算30〜40万円)

乳がん学習会の内容、理解できましたか?患者として何が大切なのでしょうか?やみくもに乳がんを恐れるのではなく、かといって安易に考えるのでもなく、教えていただけることはきちんと学び、乳がんと向き合い、日々の生活を前向きに明るく過ごすことだと私は思います。
丁寧に教えて下さった鈴間先生に感謝し、レポート作成の中井さんに感謝します。
インターネットやがんサポート誌等参考にしながら多少の解説を加え作成しました。間違っている箇所等あれば教えていただければ幸いです。(田中文子)