七夕の思い出

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日めくりカレンダーを一枚めくるとそこには七月七日と書いてあった
(そっか、今日は七夕か・・・・)
俺は今日が七夕だったのをすっかり忘れてしまっていた
(そう言えば去年の今ごろはまだ学生だったっけな・・・・・・)
なんとなく昔を思い出してしまった。
(そう、あれは去年の今ごろだったっけな〜・・・・・)

「なあ、みんなで泊りがけでどっか旅行にでも行かないか?」
突然の誘いにその場の全員が驚いてしまった。
そう、何を隠そう今その話題で盛り上がっていたのだった。
「海か〜・・・良いね〜」
「俺敵には山が良いな」
「温泉に入りたい〜」
色々な意見が飛び交ってきた。
「まっまあ、みんな色々な意見があるみたいだしな〜。おい、秀人はどこに行きたい?」
「俺か?俺はどっちかって言うと山だな。キャンプにでも行かないか?星がきれいに見えそうだ」
そう答えていたのは橘秀人。
一見存在感がないように見えるが彼の発言はいつも周りの人間をまとめていた。
「ねえ、ねえ、旅行の計画してんの?だったらあたし達も入れてよ♪」
同じクラスの女子数名も加わって、最終的には八名もの人数になった。
行き先は秀人の意見どおり山に決定していた。
「キャンプ楽しみだね。秀人君はどうやっていくの?」
そう話し掛けてきたのは同じクラスの倉田美穂だった
「俺か?俺は自分の車を出すよ。最近直ってきたしな。ちょうど慣らしをしようかと思ってたんだ」
「へえ〜そうなんだ。ああ〜!慣らしがしたくて山にしたわね」
秀人が山にしようと言った真意を美穂が気づいた。
「ふっふっふ、今ごろ気づいたのか?俺的にはかなり良いタイミングだったぜ
 そういや、お前はどうやって行くんだ?なんなら乗せてってやるぞ?」
秀人がそう提案した。
美穂は待ってましたとばかりに嬉しそうに喜んでいる。
「そうそう、その言葉を待ってたんだ〜♪これでますます楽しみになったな」
秀人は美穂の笑顔を見るのが好きだった。
なんとなく自分の楽しい気分になれるようなそんな不思議な笑顔だと秀人はいつも思っていたのだった。
「なっなによ〜。あんまり見ないでよ〜恥ずかしいよ・・・・」
ついまじまじと見詰めていた自分に気づいて慌てて秀人は目をそらしたのだった

色々と細かい調整などがあったが何とか無事にクリアし、いよいよ明日がキャンプという所まできていた
「ねえねえ、何時頃どの辺りで待ち合わせする〜♪」
「俺の方もちゃんと拾ってくれよ」
結局秀人の車には美穂と実が乗る事になったのだった。
美穂と秀人は家が近いのですぐにあえるのだが実の家は少し離れているのだった。
もっとも、キャンプ場までの通り道なのでたいして苦にはならなかった。
待ち合わせの場所なども決まって秀人と美穂は一緒に帰っていった。
「あの二人って付き合ってるのかな〜・・・・」
「秀人が鈍いからまだなんじゃねえのか?」
「このキャンプで美穂の気持ちに気づかせてあげないとね」
「よし!みんながんばろうぜ!」
全員が頷いていた。
秀人と美穂の関係を何とかするのが他の面子の目的だった。

「ねえ、秀人君・・・・あたし・・・・」
「うん?何?良く聞こえなかったんだけど?」
美穂の声が良く聞こえかったらしく秀人はきき返していた。
「うっううん何でもないんだ。キャンプ楽しみだね」
「??ああそうだな。晴れるといいな♪」
「・・・・・・ばか
美穂の小さな呟きはもちろん秀人には聞こえるはずもなかった。
次の日、外はあいにく曇ってしまったが秀人は元気に出かけていった。
美穂の家の前にきた時クラクションを一回鳴らした。
その音を聞いた途端に美穂が荷物を持って飛び出してきた。
「もう!二分の遅刻だよ♪」
「二分って・・・・まあ、いっか乗れよ。実を拾いに行くぞ」
荷物をトランクに入れた美穂はすばやく助手席に座った。
「さあ、早く行こう♪」
うきうきとしているのが秀人にもすぐにわかった。
程なくして実もしっかりと拾いながら目的地に着いた。
他の面子はもう既に到着していたらしく既にテントが張り終わっていた。
「遅いぞ秀人!約二分の遅刻だ!」
ここでもたった二分の遅刻についておこられた。
「・・・・なあ、二分の遅刻って重要なのか?」
秀人はひそひそと美穂に聞いた。
「重要だよ♪カップラーメンを食べるの二分遅刻すると麺がのびちゃうでしょ?」
「なっなるほど。確かに」
変な説明を聞かされながらもなんとなく納得した秀人であった。
「あれで納得するとは・・・・秀人おそるべし・・・・」
周りの連中が全員一致で驚いていた。
テントの準備や夕食の用意などであっという間に夜になってしまった。
テントの中では待ってましたとばかりに飲み会がはじまっていた。
「あれ?おい!秀人はどこ行ったんだ?」
秀人がいなくなっているのを実がいち早く気づいた。
「ああ、秀人ならさっき酔いを覚ましてくるとか言って外に行ったぞ」
仲間の一人がそう答えた。
「あっそ、まあ良いやまだ酒はあるしな。今日はのみまくるぞ〜♪」
実はうきうきしながらビールを飲みはじめた。
(そっか、秀人君は外か・・・・)
密かに秀人を探していた美穂はそっと、テントから出ていった。
「おい、ついに美穂も行ったな。」
「ああ、結果が楽しみだ」
「実君、なかなか上手だったわよ♪」
「だろ?やっぱり俺って役者に向いてるのかな〜」
「都合良いわね〜。」
残った面々は口々に上手くいったと喜んでいた。

「ふ〜、酒はどうも苦手だな〜・・・・しっかし、星がすごくきれいに見えるんだな〜」
秀人は周りを散歩しているうちに、大きな広場に出ていた。
そこは、キャンプファイアーなどをするための広場らしく、夜空の星が沢山見える所だった。
「こうして、星を見るのも何年ぶりかな〜」
「二人で星を見るのは10年ぶりだね」
秀人はいきなり後ろから声をかけらてびっくりした。
振り返るとそこには美穂が立っていた。
「なっなんだ美穂かよ、びっくりした」
「ふふふ、ごめんね、ねえ、となり良い?」
「え?ああ、良いよ」
すこし照れながら秀人のとなりに美穂が座った。
秀人の方も恥ずかしいのかうつむいたままになってしまった。
しばらくして、うつむいている秀人に気づいた美穂が急に笑い出した。
「なにがおかしいんだよ」
「だって、星を見にきてるのにうつむいてるんだもん。星は下じゃなくて上にあるんだよ?」
「そっそんなのわかってるさ。たっただ、その・・・」
変にもじもじしながら秀人はそう答え、空を見つめた。
「ほんと、きれいよね。ねえ、今日は七夕だって知ってた?」
「もちろん。その為に山に来たんだからな」
二人は静かに星空を見つめていた。
その様子をそっと気の影から実達が覗いていた。
(なかなか上手くいかないな〜・・・・)
(秀人の鈍感は筋金入りだからな)
(ねえ、ねえ、これからどうするのよ〜)
ひそひそと話していると、秀人達が動いた。
(お!動くらしいぞ!)
実達もしっかりと後をつけるのだった。

秀人と美穂はしばらく黙々と歩きつづけた。
そして、先ほどの広場よりも開けた場所に到着した。
「うわ〜、星がとってもきれい。」
「ああ、さっき散歩してた時に見つけたんだ。どうしても君に見せたかったんだ」
「え?」
秀人の急な言葉に美穂はどきっとした。
「俺、君の事が・・・・・好きだ・・・・」
秀人はやっとの思いでそれだけを言った。
その言葉を聞いた途端に美穂の瞳から涙が零れた。
秀人は慌ててハンカチを差し出した。
「ありがとう、秀人君やっと、やっと気づいてくれたんだね・・・・私・・・・私」
美穂は涙を拭きながらそう答えた。
秀人はどうして良いのか解らずにただ立ち尽くしていた。
「秀人君・・・・・」
美穂が秀人の胸に飛び込んできた。
秀人は、少しの時間固まっていたがすぐに美穂を抱きしめていた。
「織姫と彦星みたいに一年に一回じゃなくて毎日会おうな」
秀人の優しい言葉に美穂は静かに頷いていた。

「やれやれ、やっと旨くいったか。ああ〜疲れた」
そう言って実達が気の影からぞろぞろと出てきた。
「みっ実?!なんでここに!?」
「やっやだ、みんないたの」
慌てて離れる秀人と美穂を見て全員が笑い出した。
「いや〜ごめんごめん。今回の旅行の第一目的はお前らを何とかする事だったんだ
 悪く思わないでくれよな。いや〜、まさか、お前があんなきざな事言うとはな〜」
実達が口々に冷やかしてきた。
「お前ら〜・・・・・」
秀人がふるふると震えているのを見て実達は一歩後退した。
「まっまあ、秀人君押さえて、押さえて」
「そっそうよ、私たちもやきもきしてたんだからね」
「じゃっじゃあこの辺で邪魔物は消えるという事で」
「そっそうね、じゃね〜」
秀人と美穂を除く全ての者が一目散に逃げていった。
「くっそ〜!覚えてろよ」
秀人が悔しそうに叫んだ。
だが、美穂は楽しそうな笑顔を見せていた。
「なんで、笑顔になってんだよ!」
「え?だって私の気持ちがようやく伝わったんだな〜と思ってね♪」
「え?あっああ、そっそうなのか」
さっきまでの悔しい気持ちが美穂の笑顔によって消えてしまった。
「そうだな、あいつらのおかげかもしれないな」
ふと空を見上げるときれいな天の川が見に写った。
「来年も見にこような。今度は二人だけで」
「うん♪約束だよ」
二人は手をつなぎながらテントに戻っていった。
「おい、おいあんまり見せつけないでくれよな」
実の冷やかしも二人だけの世界に入っていた秀人達には聞こえていないようだった

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