笑顔の向こうに

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(なんとなく怪しいな。やはり帰るとしよう)
私にはこの空間がどうも怪しく感じられて仕方なかった。
直感的に帰った方が良いと判断したのであった。
そう、帰らないと大切なものを無くしてしまいそうなそんな予感があったのだった。
「ほっほっほ、そうか帰りなさるか。では、気をつけての」
老人と青年は闇の空間に消えてしまった。
(これは夢なんだな…そうだ、きっとそうに違いない)
私は自分でそう思いこんで帰りのドアを開けた。

朝の日差しが私の顔を照らしていた。
小鳥の鳴き声も聞こえてきて今日は快晴なんだな〜と思わせるような感じであった。
(う〜ん、やけに変な夢だったな〜)
どたどたどた ばたん!
「ああ〜!もう、いつまで寝てるのよ〜朝ご飯食べに行こうよ〜」
友美がすごい勢いで私の部屋に飛び込んできた。
「…ったく、朝からうるせえ奴だな〜。俺は昨日ちょっと飲みすぎたんで寝るのが遅かったんだ」
健二は無理矢理おこされたのがよっぽど不満だったらしく朝から不機嫌であった。
「うっさいわね〜誰もあんたを誘ってないわよ!どうぞゆっくり寝てて下さい。
 ってあれ?小十郎熱でもあるの今日は変だよ?」
「えっ?そうかな〜。いつもどおりだけど?」
私は笑顔でそう答えていた。
「ええ〜!!」
「おいおい真剣かよ?」
私の答えを聞いて健二と友美が同じに驚いた。
「いつもだったらここで、怒るじゃないの〜!どっどうしたのよ〜」
(えらい言われようだな〜)
私は少し苦笑してしまった。
たしかに、今迄の私ならすぐに怒っていたはずだった。
だが、こんな毎日も良いなと思ってしまうようになった。
「そうか、そうか。ついにそうなったか〜。これも毎日のように鍛えてやった俺様のおかげだな感謝しろよ」
「………そうだな。感謝するよ友美。健二には感謝しないけど」
「なんでだ?」
「…覗きをする度に怒られていた私の立場を考えた事があったか?」
私のその一言で健二は黙り込んでしまった。
「ああ!!そう言えば今朝私の下着がなくなってたのよ。ま・さ・かあんたじゃないでしょうね!」
友美のものすごい剣幕に健二はおずおずと持っていた下着を出した。
「………すまん。昨夜ついな…まっまて、話せばわかる!おっおい小十郎!見てないで何とかしろ。
 いっ痛…わっわかった。俺が悪かった。謝るからな?このとおり…小十郎〜!助けてくれ〜!!」
健二と友美はそのまま廊下をばたばた走りまわっていた。
私はその光景をにこにこしながら見ていたと思う。
なぜか、そんな光景がとても楽しかったのだ。
しばらくして宿の主人が二人を捕まえて怒っていた。
あれだけ騒げば無理も無い話であった。
「やれ、やれ。助け船を出しますか」
いつものように私が間に入る。そして、次の日にはまた同じ事を繰り返す。
こんな旅なら複数で旅するより面白いと感じる私がそこにいたのであった。
「さて、二人とも。朝飯を食べに行きますか。それから今日の行き先を決めような」

「なんじゃなんじゃこの展開は!わしの出番はどうしたのじゃ!!」
目の前に写った画面を見ながら志朗は文句を言っていた。
「これでは、『時空の案内人』たるわしの立場が無いではないか!」
「まあ、まあ志朗様次回作もある事ですし。それに別の選択肢の方で登場したのですから良いではないですか」
カインが必死になだめていた。
実際の所志朗よりもカインの方が文句を言いたかった。
(自分には台詞がまったく無いというのに)
「そっそうじゃな、次回作に期待でもするか。じゃがこのままではわしの気が収まらん。
 おい作者!わしを青年バージョンに戻せ〜」
志朗の絶叫がこだました時志朗に向けて雷が落ちてきた。
「ぎゃ〜〜〜〜〜〜〜〜」
志朗は確かに青年バージョンにはなっていたがなぜか真っ黒にこげていた。
「作者をあんまり刺激するからですよ…なるべく俺にも台詞下さいね」
くろこげの志朗を見下ろしながらカインはそうつぶやいた。
その時、カインの手に一通の手紙が現れた。
「なになに。『君に台詞をつけると話が作りづらいから無理!これからも寡黙な男を演じてくれ By作者』」
カインはその場に固まってしまった。
持っていた手紙はカインの手から力無く落ちていった。
動けなくなった二人の前では、健二が友美が、そして小十郎が幸せそうに朝食を食べていた。
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