時空の旅人

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「面白そうだし、少しなら爺さんの話に付き合ってやるよ」
私は目の前にあった椅子に腰掛け、老人の話をまった。
「ほっほっほ、では、自己紹介をしよう。わしの名は志朗じゃ。そして、こっちがわしの付き人のカインじゃ。
 わしの役目は、この時空の案内人。全ての可能性を実現させる手伝いをしておるものじゃよ。」
志朗と名乗った老人の話は私には理解できなかった。
(可能性って何だ?一体この人たちは何を言ってるんだ?)
「まあ、いきなりこんな事を言われて混乱しない方が珍しいからの。おぬしの疑問ももっともじゃ。
 簡単に説明すると、過去におぬしがおこなったあらゆる選択をもう一度やりなおせるという事じゃな。」
私の中で再び疑問が生まれた。
(選択をやり直す?つまり歴史を変えるということか?それってまずいんじゃ?)
「ほっ、そなたはなかなか鋭いの〜。さよう、歴史を変える事になる。じゃが、大きな流れは変えられんのじゃよ。
 あくまで一個人のレベルでの変化じゃ。よって、大きな問題にはならんのじゃよ」
私はよくわからないがなんとなく理解したようなそんな不思議な感覚を味わっていた。
「さて、そなたはどのような選択をやり直すのじゃ?ちなみに言い忘れたが変えた未来を見る事は出来んぞ。
 未来は知らない方が面白いからの〜」
志朗の問いに対する答えは最初から私の中に浮かんでいた。
「私は一人旅がしたいんだ。だから今一緒にいる二人がついてこないような旅がしたい」
私の答えを聞いて満足したのか志朗はこくこくと頷いていた。
「そなたの望みはわかった。では、このドアをくぐるがよい。このドアの向こうにはそなたの望んだ世界が待っているじゃろう」
  志朗がそう言った時、私と志朗の間に一つのドアが現れた。
私は迷わずにドアを開けその扉を潜り抜けた。
眩い光が私の視界を奪っていった。
「ここでの記憶は代償にもらっていくぞ。では、さらばじゃ!」

光が収まると、そこには志朗とカインの二人だけが立っていた。
二人のいる空間は先ほどの光が完全に消え闇に覆われていた。
「良い環境に居ながらそれに気づかないとはの〜。下手に恵まれているとそれに気づかないものなのかも知れんな」
志朗の姿は先ほどの老人のものではなくカインと同い年の青年の姿をしていた。
「しっ志朗様?そのお姿は?」
「ああ、そう言えばまだ言ってなかったな。私は姿を変えられるのだよ。
 まあ、この姿になるのは一仕事終えてからというのがいつものパターンだがな。
 普段の老人の姿の方が『時空案内人』に合ってるだろうという作者の勝手な思い込みだな♪」
志朗は青年バージョンで大笑いしていた。
普段の志朗と感じが違うのでカインは戸惑っていた。
「はっはっは、カインよ。今回は私たちの出番が終わったのに結構長々と話してるよな。
 作者が話をまとめられてない証拠だな」
何の事か分らなさそうにカインは首をひねっていた。
「はっはは、まあ良いや、さて、次回の奴はどんなやつか今から楽しみだな」
大声で笑いながら志朗とカインは闇の中に消えていった。

朝の日差しが私の顔を照らしていた。
小鳥の鳴き声も聞こえてきて今日は快晴なんだな〜と思わせるような感じであった。
一人旅をはじめてから早、三年の月日が経っていた。
(いつもの朝なのになにか物足りない…)
私は、なにか足りないようなそんな不思議な気分になっていた。
最初に一年はとても楽しかったのを覚えている。
だが、後の二年はなにか物足りなさを感じながらの旅だった。
「こんなものなのかもしれないな。そろそろ親父の後でも継ぐ為に戻るか」
私は、旅に見切りをつけ家に戻る決心をした。
帰り道の途中で二年前に泊まった宿の前でふと足が止まった。
(なんだろう。なにか忘れては行けないものをここにおいてきたような気がする)
しばらく宿を見ていたが、何も思い出す事が出来なかった。
(このままここにいてもしょうがない。…早く帰るとしよう)
後日、私は再びこの宿を訪れる事があったがやはりあの旅で無くしたものは見つからないままだった。

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