闇が明ける時
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深い闇の中、彼女の耳元で誰かがささやいている。
(だれ?)
彼女はその誰とも知らぬ相手を確かめようと目を開けようとする。
だが、両の瞼は硬く閉じられており、開けることが出来ない。
ならば手を動かそうと試みるが手も動かない。それどころか体がまったく言うことを聞いてくれない。
必死に動かそうとしているのだが体は動かず、眼も開けることが出来ず。
彼女の意識に広がるのは闇だけだった。
(何も見えない)
闇の中を漂う彼女の意識もまた闇と同化していくのだった。



その建物はどこか懐かしい感じを放っていた。
(そう・・・私は以前ここに・・・)
無事に学校に潜入できた一人の剣士が校舎を見上げながら懐かしさを覚えていた。
「ばかな、私はこんな所に来たことは無い!」
自分の感じている気持ちを振り切るように首を左右に力強く振る。
(でも、私はここを知っている。そうだ、あの場所に・・・)
体が無意識に動き出す。
道を曲がるタイミング。
目的の場所までの道順。
歩く位置取り。
歩幅のタイミング。
全てが無意識に、しかし、どこか懐かしいような気持ちで体が動いていく。
「なに?この感じは。なんだか知っている気がする。そう、あの道を曲がればたしか・・・」
自分の言ったとおり道を曲がると剣士の目に目的の建物があったのだった。



「ふぃー、ふぃー!・・・まさか・・・アロン!」
「・・・四天王が一人、アロンは御そばに控えております。シオン様」
部屋の隅の闇の中から静かに現れる一人の騎士
四天王の一人、鉄壁アロンであった。
四天王随一の防御力を誇り、如何なる刃も彼の前ではただの棒と化す。
さらに彼の鎧には対魔法防御の効果が付与されており、魔法で彼を倒すことは不可能であった。
「アロン。魔法学校に急ぎ向かえ!恐らくふぃーが潜入したはずだ。彼女を急ぎ連れ戻してくるのだ」
「はっ!では我が騎士団の総力を持って魔法学校を落として参ります。吉報をお待ちください」
現れた時と同じようにアロンは闇の中に音も立てずに消えていくのであった。
「・・・ラーナ」
「すでの御そばに・・・」
先ほどアロンが現れた場所の反対側に今度は一人の魔術師が現れる。
彼女は魔法士ラーナ。
四天王の一人にして、シオンの参謀をも勤めている魔軍師である。
その智謀は100人の兵を持って3万の軍勢に勝利するなど、まさに神算鬼謀。
また、本人の魔力も絶大であり、彼女一人で一国をも滅ぼすと言われたほどである。
「ラーナ、お前はアロンの影となれ。勝っている時は表に出ず、負けそうなら援護しろ。
 ただし、向こうに遥風がいるらしい・・・接触はするなよ」
「わかりました」
彼女もアロンと同じように音も無く消えていくのであった。
「・・・うかつだった。ふぃーならやりかねない行動だ。間に合えばいいが・・・」
彼が何にあせっているのかは不明ではあるが、焦りの色を隠しきれないシオンであった。



目覚め時は夜だった。
妙に頭が重い。
ついでになんだか重い。
というか、苦しい
「う、う〜ん、重いわねって・・・なんでポポが私の上に?え?ええ??」
しるくぅに覆いかぶさるようにポポエットが。
さらにしるくぅの足の上にはシュークが、そのシュークの隣にはチロが静かに横たわっていた。
「えと、あ!そうだ晋くんは!それにここは?というかおも〜い!ポポ!どいてよ〜(;;)」
しるくぅの叫びが天に届いたのか、それとも単にそろそろ起きる頃だったのが、
タイミングよくポポエットは目を覚ますのだった。
「え?あれ?ここは?晋さんは?あれ?なんか柔らかいものが下にあるようなって!ゆら!!え?なんで??」
「ポポ。重いわ」
なぜか妙に色っぽいしるくぅであった。
その後、ポポエットが慌てて退け、足に乗ってる騎士をあいてる足で蹴り起こし、
幸せそうに寝ているチロに対して頬を叩く等の行為で文字通り叩き起こし、
全員を無事(?)に起こしたのであった。
「さて、蒼さんいないし晋さんもいない。どこに行ったと思う?」
「魔法学校だよ。・・・意識がはっきりしていたわけじゃないから断言しずらいけど恐らく」
「どうしてそう思うのポポ?」
「晋さんがギターを弾き始めたと同時に眠りの魔法が展開されてたんだ。で、少しだけ抵抗してみた
 まあ、最終的には抵抗し切れなかったけどね」
「私も気づいてたよ〜でも無理っぽかったからさくっと諦めたけどね〜」
「チロは相変わらずだね。でも僕は何にも気づけなかったから今回は何も言えないです」
「なるほど、じゃあ行って見ますかね。しっかり寝たから夜でもいけるでしょ?準備も整ってるし
 すぐ出発するわ」
ぞろぞろと夜のうちに出立するエンジュの面々であった。
もちろん何事も無く朝には無事に着いていたのは言うまでも無い。



闇の世界にちょっとした変化がおきた
遠くに光の点が見える。
(あれ?なんだろう。え?見える?私、目を開けなかったんじゃ・・・)
視界から入る情報が全て闇だったため、目を開いているにも関わらず開いていないような錯覚を感じていたのであった。
そこに光という情報が加わり、視覚のみならず五感全てが正常に働きだしたようである。
「何か気になるわね。行ってみましょう」
一面の闇の中に見えたただ一つの点・・・
それを目指して剣士は歩き出したのであった。



「知ってる。私・・・この場所を知ってるわ」
剣士の前にある懐かしい建物
それは何のことはない何処にでもある普通の喫茶店であるが、魔法学校の生徒の間ではちょと有名な喫茶店ではある。
この店で告白したカップルは幸せになれるというまあ、何処にでもある話しではある。
「私、この店で・・・ぅぅ・・・そんな事はありえない!私は・・・私は!!」
「そうね、以前あなたはここで私を騙してポポエットと引き合わせてくれたわね」
「そうそう、あの時は俺も焦ったさ。結局うわさでしかなかったあのジンクスを確定っぽくしたのりりちゃんだしね」
「僕がチロと付き合えたのもこの店のおかげですよ。あれから随分だったけどお店は繁盛してるみたいですね」
「私とシュークの話があった後随分と増えたみたいよそういったカップル」
いつの間にか剣士を中心にエンジュの面々が懐かしそうに喫茶店を見つめていた。
みな学生時代に起こった出来事を思い出しているようである。
「くぅお姉ちゃん・・・だ、だまれ!お、お前らいつのまに・・・!」
とっさに囲みを突破しすぐに臨戦態勢をとる剣士フィリア。
「りり。そろそろ戻ってきなさい。みんな心配してるのよ?」
優しい笑顔でしるくぅが手を差し伸べる。
その手を支えるように
ポポエトが、
シュークが、
チロが、
笑顔で答えを待っている。
「・・・く、くるな・・・この体は私の物。私は自由になったんだ・・・もう、もう一人は嫌だ!」



(この光・・・そうかこの子の心なのね。あなたは誰?)
『・・・あなたは良いわね。こんなにも沢山の人に必要とされていて。私は誰にも必要とされなかった
 必要としてくれたのはシオン様だけ。あの方だけが私を必要と言ってくれた』
(・・・そう。でも、ごめんなさいこの体をあなたにあげる事は出来ないの)
『嫌!これは私の者よ!!あなたシオン様を裏切ったんでしょう?ならもういらないじゃない!!』
(・・・ごめんなさい。なんと言われてもこの体を渡すわけには行かないの!
私を待っててくれている人たちの為にも!そして、シオンのためにも!)
『シオン様のため?いまさら何を言っているの?貴方がいなくなって、あの方がどれだけ苦しんだか貴方はわかっているの?』
(・・・)
『わかるはずがないわ!貴方なんかにわかるはずがない!!』
(あの時の事は今でも覚えているわ。あの時私も残れば良かった・・・いいえ!残りたかったのよ!!
でも、シオンが許してくれなかった。私は急いでみんなを連れて戻った。けどそこには何も無かった・・・
彼の姿どころか何も無かったのよ。私だって、私だってどれだけ苦しんだか貴方にわかって?)
『・・・』
(・・・こうしましょう。私と一緒に彼を、シオンを助けに行きましょう!しるくぅ姉さまなら。みんなと一緒ならそれも出来るはず。ううんきっと出来る!私がしてみせる!!)
『・・・』
(あなたの力があればきっと出来る!だから、一緒にシオンを助けましょう)
『・・・強いのね貴方は・・・わかったわ』
(ありがとう)
『でも、今はまだ協力できない。貴方の思いが。強さがそれにふさわしいと思ったら私は力を貸すわ。
 それまではあなたの中で眠らせてもらう』
(わかったわ)
『・・・シオン様をよろしくね』
フィリアの中にあったもう一人の意識が急速に薄れていく。
それと同時に小さな点でしかなかった光が急速に広がりはじめ、やがてあたりを全て覆っていた。
(さあ、戻ろう。みんなの所へ。そして・・・)



目を開けると昔よく見た天井が見えた。
(魔法学校の医務室か・・・よくお世話になったな〜そういえば遥風さんは元気かな〜)
そこは魔法学校の医務室であった。
実践訓練などが行われた後は決まって満員になるベトの一番奥はフィリアの指定席であった。
(いつも一番最初に倒れてたからな〜私)
そんな懐かしい記憶を思い出しながらはたと気づく。
自分の意識で手が動く。
自分の思い通りに足が動く。
視界が自由に変えられる。
言葉を話すことが出来る。
「動く・・・見える・・・話せる・・・戻れたんだ私」
ベットの上で戻れたことを実感する。
と、その直後不意に視界が真っ暗になる。
顔の上に枕を押し付けられたようだ。
「りり、戻ってくるって言った割には戻れたのねってのはどういうこと?」
「く、くぅお姉ちゃん!ま、まってこれには非常〜に深いわけが!!!」
「フィリアさん、僕たちに黙って言っちゃうなんてひどいですよ」
「そうそう、くぅがもう大暴走で大変だったんだよ?」
「おかえり。りりちゃん」
そっと枕を横にずらすとエンジュのみんなが出迎えてくれているのが見えた。
さらに医務室の入り口では蒼さんと晋さん、それに遥風が様子を見るようにたたずんでいた。
それらの人々に少し恥ずかしそうにフィリアが答える。
「えと、た、ただいま」
フィリアがエンジュに戻ってきた瞬間であった。
「さて、無事に戻ってきたところを確認できた所でみんなに話があるんだ」
蒼が医務室内の全員に声をかける。
「私と遥風と晋の三人はこれから別行動をとろうと思う。今回の事件、裏の存在が少し気になるからね
 何かわかったら連絡するよ。それと、みんながピンチの時は駆けつけるから。無茶しないでねみんな」
続いて遥風が一歩前に出る。
「フィリアさん、無理しちゃだめですよ?貴方は学生の時から無茶ばかりするんですから。
 まあ、彼氏を助けたいって気持ちもわかるけど。ほどほどにしなさいね♪」
意味ありげなウィンクをしてみせるとさっと蒼の隣へ移動する。
最後に晋の字が同じように一歩前に。
「僕も蒼さんと一緒に行きます。しるくぅさん達は独自の調査をお願いします。
 まあ、無理にしなくても厄介ごとは向こうからやってきますよ」
またも意味深な言葉を残す面々であった。
「じゃ、みんな元気でね。これからちょ〜っと大変だろうけど、みんななら大丈夫だと思うから
 まあ、試練だと思ってがんばってよ♪」
何のことだかさっぱりわからないしるくぅ達をよそに、フィリアだけは状況を把握していた。
遠くでバイルの気勢が動いている。
しかも、この魔法学校目指して・・・
(敵がせまってる・・・しかもこの気はアロン!まずい、蒼さんほどの剣技の人なら彼の鎧をやぶれるけど私の腕では・・・)
不安な視線を蒼に送るも、蒼は見てみぬ振りをしている。
隣で遥風も涼しい顔をしている。
(・・・私達で何とかできると判断したんですね。蒼さんの判断ならきっとやり方しだいで何とかなるのかもしれない)
「くぅお姉ちゃん、急いで守りを固めましょう。敵の気勢がこちらに向かってるの恐らく後三日くらいでここに到着するはずだよ」
「え?敵?しかも三日後??それに気勢って・・・」
突然の話にしるくぅはうろたえる。
気勢などと言われてもしるくぅには何のことかわからないし、敵がくるということに少なからず動揺してしまっていた。
ポポエットやシューク、チロにいたってもそれは同じようであり、どうして良いかわからずにただ、呆然としていた。
そんな雰囲気を壊したのは蒼、遥風、晋の字の三人の拍手の音だった。
「いや、フィリアさん。お見事です。敵が来る時間まで正確に把握するとは」
遥風が褒める。この人に褒められることは今まで一度も無かったフィリアにとっては正直に嬉しかった。
「しかも、さっきの様子だと敵の正体もわかっているようだね」
「はい、恐らく四天王の一人鉄壁アロンです」
「なるほど、それでさっき私に視線を送ってきたのね。確かにあいつの鎧は固いからね〜」
なるほど〜とうなずく蒼。
「しかも、魔法も聞きませんからね。正直つらいでしょうね」
その横から付け足すように情報を展開してくる晋の字
しかも、その情報はかなり重いものであった。
剣も魔法もだめ・・・
では、どうやって倒せばいいの?
「まあ、なんとかなるって。じゃ、私達はそろそろ行くね。がんばってね〜」
全員の疑問に答えることもせずにその場から風のように消えていくのであった。
「こら〜蒼〜!どうやって倒せば良いのよそんなやつ!」
「ゆら、別に倒す必要はないだろう?俺達はこの学校を守れば良い。それだけのことじゃないか?」
「ええ、私達はここを守りきれば良いんです。彼を相手する必要はありませんよ。さあ防戦の準備をしましょう
 時間はあまりないですよ」
ベットから飛び降り、元気いっぱいで走っていくフィリアを追い、シュークとチロが飛び出していく。
その姿をうらやましそうに見つめながらポポエットに寄り添い、
「若いって良いわよね〜あんなに元気で」
とつぶやくしるくぅであった。
「ゆらだって若いじゃないか。さあ、急ごうやることは色々あるはずだ」
「そうね、急ぎましょう」
シオンの軍勢が押し寄せるまで後3日・・・
守り切ることができるのであろうか?
一同の不安を抱えたまま時はゆっくりと、しかし確実に流れていくのであった。

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あとがき
エンジュ活動日記第8話目です。長らくお待たせいたしました。
この8話、何回か書き直してるんですよね。
そのせいで、作りかけの話とかと混ざっちゃったような雰囲気の場面がちらほらと・・・
まあそれも作者の私にとってみればこんなの考えてたな〜と思い出せる展開で面白いのですがね(^^;
半分くらいまでは結構しっかり作ってた気がするんだけど、後半の文章ぼろぼろ・・・
でも、これも勉強ですってことであえて色々手直しせず公開しております。

今回の話はいくつかの場面毎に話を展開させるというようなことをやってみました。
いつもやっていることですが、今回はそれをさらに極端にしてみたつもりです。
そのせいで話の場面がころころ変わってしまって読み難かったかもしれません。
でも、何度か読むとなんかわかってきて場面が想像できるかな〜と思ってます。

しかし、なんとも難しい展開になっちゃっいました(^^;
なんと言っても蒼さん、遥風さん、晋の字さんの三人が強する!
おかげで他のみんなとのバランスが取れなくなっちゃって・・・
一緒に防衛線やってみたものの、バランス悪すぎで結局話がまとまらなかった・・・
とまあそんなわけで、今回このような手段をとらせて貰いました。
今回の話も前回に負けず劣らず長いです。
その割りに時間的にはあまり進まず、未だにシオン君の軍は攻め寄せてきていません。

次回はシオン君の四天王二人を相手にしての魔法学校防衛線を予定しております。
しるくぅ達は無事に魔法学校を守りきれるのか?
次回もお楽しみに〜♪