暗転
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そこは暗い部屋だった。
明かりとなるものが一切無く、視界に写るものはすべて闇・・・
自分の前にいるであろうシオンの姿すらフィリアには見えていなかった。
「何も見えないわね」
その言葉に反応したかのように二人の周囲に青い炎が出現し、辺りを青く染め上げていった。
「さあ、疲れたろ?今日はゆっくり休んでくれ」
シオンが指を鳴らすと、何処からか食事とベットが現れる。
だが、フィリアは首を横に振りそれらを拒否する。
「シオン・・・貴方が好きだった・・・でも、私は貴方を倒さないといけない・・・ごめんなさいシオン」
もう一度シオンが指を鳴らすと先ほどまであった食事とベットが消える。
変わりに現れたのは一本のワイン。
それは、フィリアが好んで飲んでいたワインであった。
「フィーはいつもこれだったっけな」
以前と同じさわやかな笑顔を浮かべながらコルクを抜き、グラスに注ぐ。
この笑顔が見たくてフィリアはシオンと一緒に旅をしていたとっても良い。
だが、今は・・・
「・・・やっぱり違う!私の好きなシオンはそんな顔しない!貴方はだれ?誰なの!?」
「僕はシオンだよ。君と一緒に旅をしていた剣士さ。そして、あの時交わした約束どおり、君を守るために来た」
ワインを入れたグラスを持ちながらフィリアのそばに歩み寄る。
「さあ、乾杯といこうか」
「シオン・・・どうしてなの」
「言ったろ?君を守るために来たんだと。あのお方には誰も逆らえない・・・世界は終わるんだよフィー」
暗い・・・そして冷たい響きのする言葉がフィリアの中に染み込んでいく。
この場所から今すぐに立ち去りたい気持ちと、目の前の人、以前自分が好きだった人、この人を倒さなくてはという気持ちが交互に湧き上がり、フィリアは動けなかった。
気持ちだけが焦っていく・・・のどがからからに渇いていた。
先ほど手渡されたワイン・・・彼とよく一緒に飲んでいたもの・・・
(シオン!私は貴方を止めてみせる・・・たとえ、貴方を倒すことになっても!)
意を決したようにワインを口にする。
(あの時と同じ味・・・でも、私たちはあの時と同じじゃないのね・・・あれっ?)
がしゃーん!
ワインを一口飲んだその時、持っていたワイングラスを床に落としてしまった。
手が思うように動いてくれない。
足の力が抜けえていく。
意識が徐々に遠のいていく。
「だから、僕はあのお方と取引をした。君を助ける替わりに僕はあの方の為に動くと」
薄れいく意識の中でシオンがいつもの笑顔を見せてくれていた。
「シ・・・オ・・ン」
それだけを言うのがやっとだった。もう意識が保てない。
ばたっと床に倒れこむ。
「あの方ははっきりと言ってくれたよ。『お前の愛するものも一緒に連れてくるが良い』って
 さあ、これで僕と君はずっと一緒だよ」
「ええ、シオン。私は貴方のものです」
シオンの声に反応するかのようにフィリアは起き上がりそう言った。
闇の雰囲気を身にまとい、青い炎をその瞳に宿した剣士
それは明らかに今までのフィリアではなかった。
「気分はどうだい?」
「悪くないわね、いつもより体が軽いわ」
手にしていた剣を振りながら体の調子を確かめる。
普段よりも数倍鋭い振り、普段よりも早く動ける体、普段のフィリアからは考えもつかないほどの力であった。
「君に部下もあげるよ。きたれ!」
闇の中より現れた二人の人物は、フィリアの前に跪く。
「・・・実力は?」
「君ほどじゃないさ。でも、使えるよ」
「そう、でももう一人くらい欲しいわね・・・ふふ、そうだわ、あの子を連れてきましょう。
 いくわよ」
無言でフィリアに付き従う二人の人物をつれ、フィリアは闇を纏いながらすーっと消えていくのだった。



「りり・・・絶対に帰ってくるのよ・・・」
フィリアが消えた空間を見つめながらしるくぅが呟く。
「大丈夫だよ、あの子は強い子だ・・・そろそろ戻ろう、ここは少し冷えるからな」
「・・・ええ、そうね。戻りましょう」
エリムの街中を酒場に向かって歩き始めるしるくぅとポポエット。
その横をまるで突風のように走り抜ける人影が・・・
「・・・ぉぉぉおさけ〜ぇぇぇ・・・」
すごい勢いでしるくぅの横を通り抜けたかと思った次の瞬間には、はるか遠くに走り去っているという・・・まさに人の力を超えた速さである。
「いっいまのゆう・・・よね?」
「・・・そう見えた・・・ね・・・」
目指す先にあるのはマデリン!
幻の酒を目当てに走り去るゆうであった。
「なんだろう・・・気になる単語を発していたわね」
ゆうに負けず劣らずしるくぅも大の酒好きである。
「ああ・・・そういえば明日か〜あれの発売日」
「あれって?」
「んと、蒼ちゃんに聞いたんだけど、明日マデリンで限定物の銘酒が発売されるんだよ。なんでも一年に10本?だったかな??それくらいしか作らない幻の銘酒なんだってさ」
「幻の銘酒!?なんで黙ってたのよ〜!!!!!!!」
「りりの件もあったろ?」
「ぅぅぅぅ!!!!」
恨めしそうにぽぽえっとを睨みつけるしるくぅであった。
「馬車使えばまだまにあうんじゃないか?どうする?りりの事なら俺がまっててやるから大丈夫だぞ?」
「ぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!!!」
しばらく、悩んでいたしるくぅであったが、
「気にはなるし欲しいけど今はりりの方が心配だわ」
「そうだな、よし、酒場に戻ろう」
名残惜しそうにマデリンの方をちらっとみるしるくぅであった。
その二人の姿を木陰から見守る人物がいたことをしるくぅとポポエットは気づいていない。
(まずいですね。フィリアさんまで向こうに付いてしまうと手の出しようが・・・さて、どうしましょう)
音も無く、動いた気配すらも無くその人物はエリムの街の中へと消えていくのであった。
一方その頃、ゆうが爆走した直後の酒場では・・・
「でわ、私はお先に失礼しますね。お二人の邪魔はしませんから〜♪」
そういって、蒼さんこと蒼き殺戮が宿へと戻っていった。
酒場にはちろとシュークの二人のみ。
急に静かになった酒場の様子に二人とも少し緊張しているようである。
「あ、えっと・・・なんか急に静かになったね」
「そ、そうだね」
妙に気まずい二人・・・
二人きりの時間は久しぶりだったようである。
「えと・・その・・・」
「はい・・・」
正確にはマスターもいるので二人っきりではないのだが・・・
彼らにはそんなことは関係ないようであった。
・・・・
無言の時間が続く
その静寂を破ったのは意外な人物であった。
「ねえ、シュー君・・・KISSしよっか」
「え!ええ!!!って・・・ふぃーさん何の冗談?」
シュークの隣にはいつの間にかフィリアが座っていた。
しかも、ご丁寧に声色まで使って冗談を言うというおまけ付。
「ちぇ、ばれちゃったか〜つまんないの〜」
少し拗ねたフリをするフィリア・・・
「あれ?チロは?」
今まで隣にいたチロの姿が何処にも無いことにシュークは気づいた。
「ん?私が来た時はすでにいなかったけど?そ・れ・よ・り〜飲も!」
ぐいっと大ジョッキを元気一杯に空にしていく。
「ぷは〜。はい!次はシュー君の番だよ」
あまりの飲みっぷりに少し圧倒されながらもシュークはジョッキを受け取ろうと手を伸ばした。
と、その時、突如酒場に鳴り響くギターの音!
「シュー君!それを飲んじゃいけない」
突如現れた謎の僧侶(芸人?)がシュークの手にあったジョッキを粉砕する。
すると、床にこぼれたビールから黒い煙が立ち昇りだしたのだった。
「な!なに?なんだこれ??」
「ちぇ!邪魔が入っちゃったか・・・誰?貴方、どうして私のとが分かったの?」
ギターを背負った僧侶(芸人?)に鋭い視線を向けるフィリア。
その視線をさらっと流し、悠然とその場に立つ僧侶(芸人?)
「し、晋の字さん!!どうしてここに?」
「闇の気配を感じてね、大丈夫だったかい?」
にっこりとシュークに微笑みかける。
彼こそ、修行のために旅に出ていた僧侶(芸人?)の晋の字であった。
なぜにギター?という突っ込みを入れたくなるのだが、それは彼の趣味である。
「そう・・・あなたでしたか・・・貴方にならばれても仕方ないですわね」
「フィリアさんに加えてシュー君まで渡すわけにはいかないからね」
「ふふ、相変わらずですわね。まあ良いでしょう。今回はチロさんだけで良しとしますわ
 それに、そろそろくぅ姉様がこちらにくるでしょうから。今見つかると面倒なのでね」
フィリアの体が空間に溶け込むように消えていく。
「チロさんならすでに保護したさ。君の部下二人には悪いけど消えてもらったよ」
「・・・使えない部下でしたわね。シオンに文句を言いたい気分ですわよ。
 ・・・時間のようですね。でわ、私はこの辺で失礼しますわ」
酒場からフィリアの姿が完全に消え去った。
空間に溶け込んだという方が適切かもしれない。
「ふ〜・・・久しぶりシュー君。大丈夫だった?」
状況が飲み込めずに呆然と一部始終を見ているだけだったシュークがやっと現実に戻ってきたようである。
「あ、えと・・・晋の字さん今のはふぃーさんだよね?それに修行はどうしたの??それに、それに・・・」
堰を切ったように次から次から次へと質問を投げる。
「あ〜ちょっと待って待って。みんながきたら説明するから。どうしても皆の力が必要になるからね。それに君は心配する人がいるでしょうが」
「そう!そうだよ!!チロはどうしたの?どこ??大丈夫なの??」
「ん、ぎりぎりセーフだったかな。ちょっと毒入っちゃってるから今は眠ってるけどね。
 クレンジングで毒も抜いたから明日には動けるようになるよ」
シュークがほっとしたと同時にしるくぅとぽぽえっとが酒場に戻ってきた。
「あや!晋君じゃない。久しぶりだね〜修行はどうしたの?」
「お久しぶりです。しるくぅさんぽぽさん」
「久しぶり、晋さん相変わらずギター背負ってるんだね」
「これだけは手放せませんよ。でわ、再開を祝して一曲披露しましょう。
 修行の成果をお聞きくださいな」
一体何の修行をしてきたのであろうかと、全員が同じ疑問をもったのだが、披露された曲は見事なものであった。
こうして、再開を祝した宴で長い夜はあけて行くのであった。

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あとがき
という訳でエンジュ活動日記第5話目をお届けいたします。
いや〜4話を公開してから5まで長かった〜
見事にスランプに陥りまして・・・(にゃはは^^;
と言うのも、構想ばかりが広がってしまってどうやって収集しようかと悩んでおりました。
結果、今回のこの第6話になったのですが、なかなかどうして・・・
本人満足しております。
でわ、恒例の内容解説にでもいきますかw
今回の話は実は最初は分岐物で行こうと考えていました。
と言うのも、分岐に使える出来事を前回作っていたからです。
ですが、分岐ネタは以前やったので・・・(^^;
本編を進めていきましょうということにしました。
本編の方でも、最初はチロさん拉致されて、シュー君は人質取られて仕方なく協力して〜といった話を予定していたのですが・・・
晋の字さんをかっこよくしたかったので、急遽路線を変更してみました。
(そのせいで、名前すら出てこなかったフィリアの部下二人)
読み直してみても結構良い感じにまとまったな〜と自画自賛状態です(良いんです。自己満足の世界なのです)

さて、今後の活動日記はどうなっていくのでしょう。
晋の字さんの正体は?
(しかも、なぜにギター?)
チロさん捕獲に失敗したフィリアの次の手は?
そして、晋の字さんが語る話の内容とは?
そして!これが一番重要で
作者は続きを書けるのか!!!
次回もお楽しみに〜♪