豊かさとエネルギーの関係はどうなっているのでしょうか?

 これまで人間社会を動かすのはおカネであると考えられてきました(いまも多くの人はそう思っていることでしょう)。 しかし、この考え方が導く社会は本質的に富の偏在(一極集中)する格差社会です。 富の偏在を避け、格差の拡大を緩和して豊かな社会を構築するのは、政治による分配機能です。 このため、再チャレンジシステムとかセーフティネットなどが考えられていますが、少数の勝ち組の人達から税金を徴収して、大多数の負け組の人たちのために分配するこのシステムは、税金を取りすぎると、納税者が国外に逃げてしまうことになります。 しかし、低所得の人達から徴収すると、不平感が拡大するため十分な実施が難しくなり、結局、お座なりのものになる可能性が高いようです。

 すでに述べたように、われわれが享受している豊かな生活は、たっぷりとエネルギーを使って作り出した豊富な”もの”によって支えられています。”もの”を産み出すエネルギーが十分にあれば豊かな生活は実現できると思われます。 おカネはこのエネルギーを使って作り上げた豊かさを流通させる手段に過ぎません。 極言すれば、おカネがあってもエネルギーがなければ飛行機は飛ばないと言うことです。

 このことに気づくと豊かで、安全、かつ安定した社会生活を築くには、おカネよりまず、エネルギーを確保することが重要と言えます。
 このエネルギーも輸入するタイプのものではなく、国産のものが望ましいことは言うまでもありません。 しかし、一方では地球環境の悪化が進み、原因は(化石燃料)エネルギーの使い過ぎにあることが指摘されています。 地球環境が破壊されてしまうと豊かな生活どころではありませんから、われわれは、エネルギーの浪費を抑制し、かつ、できるだけ環境を破壊しない「自前のエネルギー源」に切り替えることが大切だと言えます。さらに安定した社会生活のためには、食糧や水資源を確保することも必要ですが、食糧生産も農耕機械や肥料・農薬などエネルギーに負う所が大きく、水も貯水ダムや廃水処理などエネルギーに依存しています。

1)エネルギーは豊かさの尺度の一つです?

残念ながら、人間の欲望には際限がないようです。 動物は必要な分のみ充足すると満足するそうですが、人間はあらゆるものを貪欲に欲しがります。  この人間による豊かさの追求を具現するために発展してきたのが経済学(専門家の方々にお叱りを受けるかもしれませんが)であり、その目的は欲望を充足するためにおカネをいかに獲得し、豊かな生活を実現するかにあります。  しかし、度重なる不況と、多くの専門家の誤った予測や経済政策の例が示すように、この経済学も必ずしも人類の繁栄への正しい道しるべを与えてくれるものではないように思われてなりません。  経済学の前提にもいろいろあるようですが、結局は

1人当たりエネルギー消費

としているようです。 このことから考えると、経済学は資源やエネルギーの争奪を経済的な手段のみを使って行うことを前提にしていて、複雑な国際紛争や地球環境問題を解決する手段を提供するものではないように思われます。 さらに批判を恐れずに言えば、最近の金融危機に見るように、経済社会の対象が資源やエネルギーの分配から、これらの交換手段であったはずの”おカネ”に向かっていて、ミンスキーの金融不安定性仮説6に指摘されているような経済危機を繰り返す体質に変化しつつあることが心配です。

 ここでは、まず、豊かさとエネルギーの関係をもう少し眺めてみます。 図は各国の一人あたりの年間エネルギー消費量(石油換算)を示したものです。
 ”豊か”と考えられている先進国では1人あたりのエネルギー消費量が大きく、豊かさがエネルギー消費量と関係していることがうかがわれます。

その昔、人類が現在のように化石燃料エネルギー源を持たない頃、豊かさは奴隷や家畜の数で表されたことを考えると納得できるでしょう。

計算5

 次の図は日本で消費している最終エネルギーを示しています。 数値は実際に使用されたエネルギーを表し、運輸、民生、産業の3部門に分けて示されています。 いま、2003年に着目して個人が使っているエネルギー量を計算してみます。

 また、われわれが使うエネルギーはそれが使えるエネルギーになるまでには多くの損失があり、実際に家庭で使うエネルギーとして最終的に使うエネルギーだけを対象とするのは不公平です。そこで、ここでは使用エネルギー量には1次エネルギー量を使い、消費の割合は最終エネルギー量で決まるとします。

 すなわち、日本人は一人一人がそれぞれ6.6人のお手伝いさんを使っていることになります。

もし、本当に、これだけのお手伝いさんを使っていたら、その活動源となる食糧を確保するのが大変で、食糧危機になったかもしれません。しかし、実際には化石燃料などのエネルギー資源を利用しているので今日の豊かさを実現できたとも言えます。
また、別の見方として人間が食物エネルギーを摂取して仕事をする機械と考えると、食物のエネルギーが全て仕事に変わったとして

計算3
     となり、人間は出力約100W(=0.1kW)の機械と考えることができます。 したがって、先の結果から日本人1人は約0.7kWの機械を使って豊かな生活を営んでいると言えます。 これは約1馬力に相当しますから、かなり役に立ちそうだと納得できるでしょう。
 さらに人間は短時間であれば頑張って1人が1kW近くの仕事もできますから、実際にはかなりのことが可能です。 このような計算は他にもあります。 ただ、消費するエネルギー量すべてが豊かさのために有効に使われているかどうか?豊かさとはどのようなものか?については、21世紀の課題として考えてゆくべきテーマです。

 化石燃料エネルギーは、主に燃料の燃焼を利用します。したがって、このエネルギー消費の増加に伴って硫黄酸化物、窒素酸化物および大量の炭酸ガスが大気中に排出され、これが地球環境を破壊寸前に追い込んだと考えられています。 人間1人が年間に排出している炭酸ガスの量は炭素換算で図のようになっています。 なお、マウスを図の上に載せて以前のデータとも比較してみてください。

大気中の炭酸ガスの総量は7000億トン(炭素換算)と推算されていますが、われわれが排出している炭酸ガスは、現在、毎年70億トン(炭素換算)を越え、さらに年々増加しています。 これは、地球大気中の全炭酸ガス量の約1%に相当し、地球環境の悪化は避けられない状況です。

 「個人的な見解ですが、人為的に生産される物理量が地球の物理量の1%に近い値になることは地球のバランスに変化を生じさせる可能性があると言えそうです。」

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2)エネルギー消費量と経済活動には関連があります

計算5
 

 豊かさは、エネルギー消費量と関係しているだけではなく、経済活動の結果でもあります。 図はこの経済成長の指標である実質GDP*とエネルギー消費の関係を示したものです。 エネルギー消費量の増加率とGDPの増加率の比をエネルギー弾性値**といい、省エネルギーの程度に関連した指標とされています。

(*:GDPは国内総生産と呼ばれ、一定期間内に国内で産み出された付加価値の総額であり、経済を総合的に把握する指標の一つです。**:エネルギー弾性値はGDPを1%押し上げる経済成長に必要なエネルギーの増加率をいいます。)
図からエネルギー消費量と経済成長はほぼ比例しています。

豊かさとGDP

さらに豊かさと経済活動の関係を考えるために、各国の1人当たりのエネルギー消費量と1人当たりのGDPを比較して示しました。 図を見ると、ロシアやカナダがGDPの割にエネルギー消費量が多いことと、日本がGDPの割にエネルギー消費量が少ないことが目立ちます。 これはロシアやカナダは寒冷地であるために暖房エネルギーの消費が大きいこと、日本はオイルショックのときに進めた省エネルギーの影響が大きいためと考えられます。 これらを総合的に判断すると、国民所得(GDP)とエネルギー消費量はおおむね比例していると考えてよいのではないでしょうか? これらの例から、このホームページでは豊かさの指標としてGDPを使うことがあります。  注意すべきことは、エネルギーが関係するのは豊かさの象徴である工業だけではなく、人口や食糧などあらゆる経済活動と関連していることです。

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3)エネルギーは紛争の種になりそうです

 世界の争いの歴史は古く、原因は宗教や民族に関わるものもありますが、典型的な例はより豊かな国を目指して他国を侵略するケースです。 17世紀の植民地政策は、ヨーロッパ諸国がより豊かになるために資源と市場を確保したものといえます。 第二次世界大戦は、後発で植民地を持たない日本やドイツがエネルギーや資源を確保するために先進国の中に割り込んだことによって発生した軋轢です。 昔は金や胡椒や陶器や奴隷などが確保したい資源でしたが産業革命以降、人類は石炭などの化石燃料エネルギー資源が豊かさを支えるようになってからはエネルギー・資源が争いの原因になってきています。 韓国との間の竹島問題やロシアとの北方領土問題は漁業資源と関係があり、中国との尖閣列島問題はまさにエネルギー資源が争いの火種になっています。

 一方、われわれ人類が消費するエネルギーは、年間100億トン超(102億トン[石油換算]2004年)と言う膨大な量に達し、しかも石油、天然ガス、石炭などの化石燃料資源を主として利用していることが問題を生じさせています。 一つには、これらの資源が地球上に偏在するため、資源を持たない国の間で奪い合う可能性が高まってきました。 また、化石燃料資源の主成分は炭素、水素、酸素(その他、少量の硫黄などの不純物)で構成されていますが、エネルギーとして利用するときは、殆どの場合(約90%)燃焼を伴います。 その結果、温暖化の原因物質である炭酸ガスを大量に発生し、硫黄などの不純物は酸性雨のもとになる硫黄酸化物や窒素酸化物となって地球の自然環境を破壊する原因になっています。

 このように考えると、化石燃料以外の代替エネルギーの開発を急ぎ、とにかく自前のエネルギーの割合を増やすことは、エネルギーに関する紛争に巻き込まれる可能性を減らし、地球環境を守ることにもつながりそうです。 逆に今の状態を続けると、もともと自国にないエネルギーを奪い合うのですから、資源が枯渇に近づいてくると消費量が多いほど、厳しい争いに巻き込まれることになります。 日本をどのような国にして行くかは、憲法改正を議論する前に考えるべきことでしょう。

では、この私達の豊かさを支えるエネルギーの状況を次に見てみましょう。

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 主な参考資料
1)「家庭生活のライフサイクルエネルギー」,(社)資源協会(平成9年)
2)内山洋司:「私たちのエネルギー」,培風館(1998)
3)エネルギー白書(2006)
4)平成21年版環境白書(2009)
5)小西誠一:「地球の破産」(1994)
6)金子勝:「閉塞経済」金融資本主義のゆくえ,筑摩書房(2008)

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