N邸設計主旨




与件
老朽化したアパートを取り壊し、施主夫婦のための住居と
2戸の賃貸住居を包有する長屋に建てかえるというもの。
オーナー住戸においては、グラフィックデザイナーである施主の仕事場と
将来のための子供部屋、さらに家相への配慮などが求められ、
「和の要素」を含んだイメージが写真などによって提示された。
また人を招く機会が多いと考えられるため、
それに見合う広いスペースが必要になると思われた。

立地
敷地は東京の湾岸近くに立地し、周囲に地盤高低差はなく住宅が密集している。
前面にある通路は法規上道路とはみなされず、事前に許可申請を取る必要があったほか、
搬入路が幅2メートル弱と狭く、さらに軟弱な地盤とクリアすべき課題は多かった。
隣接する親世帯との結接点として庭を設けた以外は、
許可条件や法規に求められる壁面の後退により、建築外形はほぼ自動的に決定された。

構成
この住宅の空間を秩序づけているのは、各住戸に挿入された一枚の壁である。
壁は施主住戸と賃貸住戸で90度振られて配されており、
前者においてはこの壁が大きな気積を持つパブリックな空間と、
機能的でプライベートな空間を区切る役割を果たしている。
パブリックスペースは、居間-多目的スペース-屋上デッキと
レベルを違えながら視覚的に連続させて配され、
各々のアクティビティが相乗効果をあげるように意図している。

構造
許可条件として準耐火構造物であることを求められたほか、
防水への配慮、さらにローコストである必要性から鉄骨造が選択された。
鉄骨のメンバーは最小なものとされ、室内への柱形の露出を避けている。

設備
隣接する畑への水まき用に雨水貯溜槽が設けられた。
また、居間が将来オーディオルームとして使用されるため、
必要な配管配線をあらかじめ引いている。
その他、各室にはLANケーブルが配線されている。

※その後、お宅を拝見したところ、プロジェクターや各種壁付スピーカーが
完璧に施工され、バーティカルブラインドをスクリーンとした巨大画面の
天井高4.3メートルのAVルームとなっていました。
LANについては結局、無線LANで飛ばしているようです。

材料
内装では挿入された壁をより強調するために、珪藻土ラフキャスト仕上を用い、
そのざっくりとした質感が、空間に生活というレベルを越えた強さを与えている。
なお色彩、テクスチュアの決定においては、施主の趣向も強く反映されている。

(00/07/20 h.taki)



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