S邸設計主旨




立地
敷地は近頃の世田谷には珍しく緑の多く残る一角にある.老朽化した木造平屋建ての旧宅を取り壊し,
隣接する日本家屋を母屋としてその北側に増築を行うというプログラムであった.増築の予定地は
鬱蒼とした雑木林で,思い切った伐採が必要だったが,大きく育ったクルミ,マツ,カエデの3本は
残すことなった.配置計画はこれらの樹木と母屋,西側のアパートを含めた全体の環境に配慮し,
光,風,景観,プライバシーとヴォリュームバランス,さらに将来的な環境変化の可能性を
検討しながら進められた.

与件
今回の増築部分の住まい手は親子2人の家族である.質実でローコストな建設が条件となった.要求の内容は
「表面的な合理性が生活を規定するような住宅ではなく,生活をつくり上げていくことができる箱」であり,
そのイメージの媒体として建主が提示したものは,曲のカセットと詩や評論のコピー,イメージ・ポスター
であった.ナチュラルでニュートラルな感じのものと,メタリックで近未来的な感じのものが相半ばしていた.

構成
面積的に小規模なこの住宅に豊かな質を付与する下地として,空間単位が相互に連携して全体のポテンシャルを
高めるプランニングを追求した.3室ある居室は,互いに緩やかに連続するようスキップしながら隣接しており,
螺旋状の動線でつながれている.眺望のよい2階は居間とし,平屋部分の屋上であるデッキに開かれている.
デッキは居間の延長であると共に,周辺環境へとつながる接点である.1階より半層スキップしたピロティ上の
個室は,天井を高く取ってそのまま居間に連続させた.ここは個室と居間の要素が交錯した場所として,
この住宅を特徴づける空間である.居間の下部の個室は就寝が主となるため,正方形の中庭と一体の静謐な
空間とした.中庭の上部はカエデの梢に半ば覆われ,デッキの空間と結びついている.各室の特性を生かすため
,外部との接点となる開口部の扱いには特に留意した.中でもピロティ上部の個室の開口は地窓とトップライト
による特殊な構成とし,建主から提示されたさまざまなイメージを反映することを目指した.

構造
基本的には木造在来工法であるが,天井面の意匠的な配慮から,屋根,床はツーバイフォ一部材と構造用合板を現しで
用いて固めている.壁は主に開口部の設けられている南北面を筋違で,閉ざされた東西面を構造用合板で構成した.

材料
周囲の緑地を対比的に強調するため,外装には建主の意向でもある金属系,セメント系の工業製品を使用した.
内装はほとんど木質系の材料を使用し,外装ともうひとつの対比をつくり出している.



(Sep 1997 h.taki,a.takeuchi)



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