easy edges (replica)





段ボール家具をつくってみる。

祖父の代から使われていた、自宅の籐の椅子がだいぶくたびれてきていたので、
ダイニング・チェアを買おうかと、いろいろ店をまわったりしたのですが、
白に塗装したクラシカルなダイニング・テーブルと合うものがなかなかなく、
どうしたものかと思っていたところ、ふと思い出したのが
アメリカの建築家、フランク.O.ゲーリーによるeasy edgesという
段ボールでつくられた椅子でした。(写真左)

段ボールなら自分でも作れるだろうし、材料費も安いだろうから、
ダメならあらためて市販のものを買えばいい、
と考えて、かなり安易に椅子制作がスタート。

この椅子、オリジナルは1969年発売で、いったん販売中止となったあと、
今はドイツのVitra社製作、日本ではhhstyleで販売されています。
現在はWiggle side chairと呼ばれるその製品の値段、なんと1脚、134400円!
しかし制作途中でいろいろ調べていくと、高価になる理由もわからなくはないのです。

デザインは5センチ厚の段ボールの一枚の板がうねりながら、
座面になったり背もたれにしていくという、極めてシンプルなもの。
椅子というよりオブジェのようなもので、他に類似したものを見たことがありません。
曲部の系寸法が統一されているなど、
この単純でありながらオリジナリティあふれるデザインが、
40年近く前に生み出されていたという事実には驚愕します。
とにかく実物を見て、座ってみたいと思わせる一品です。

で、まずは情報収集から。
all aboutで各部寸法など、詳細な記事が載っていたので参考にしました。
ただ椅子の幅が425ミリと大きめに書いてありましたが、
実際にその幅を見るとどんくさく、hhstyleの情報の幅340ミリの方を選択しました。

次に段ボールの発注。
ネットのサイトで即見積りができるところに決定し、
8ミリ厚クラフト段ボール、90センチ×60センチを100枚(最小発注枚数)で15960円(税込)。
値段は手ごろだったが、納品まで5日もかかった上、発注後からspamメールが来るようになり、
どうやらメールアドレスが漏れたようです。最悪…。
8ミリ厚50枚で幅400ミリ、のものを2脚と想定しましたが、実際は1脚39枚で足りました。

火曜日の午後に材料が届き、土曜日の段階までに1脚完成を目標として、
楽勝かと思いきや、実際は気が滅入るほど大変でした。

段ボールが思い通りに切れないのです。
円弧切断用にサークルカッターを購入したのですが、
段ボールの表面が弱くて、支点となる中心点が切っているうちにずれてしまいます。
仕方なくひとつ型板をつくって、それをなぞる形で1枚1枚、フリーハンドで切っていく。
もちろん直線部分は鉄定規を使えるのですが、それでも8ミリ厚の段ボールは
構造が2重になっていることもあり、1回では切りはなせません。
結局、1枚切り終えるのに20分以上かかりました。
それで50枚となると、もう気が遠くなってきます。

それでもなんとか金曜の夜に素材は揃い(自分も暇ですね…)深夜に張合せ。
普通の木工用ボンドの大瓶を使いました。
今販売されているものは、ノンホルム対応なのでにおいもなく安心です。
12時間養生してようやく完成!

今回制作したのは、段ボールのみの、いわば簡易バージョン。
製品として販売されているものはもっと手がこんでいて、
まず左右両端は段ボールではなく、木質系繊維版?とのこと。
さらに段ボールの中に鉄の芯が入っていて、構造を補強。
足元も床との取り合いで、木材をかませて長期使用に耐えるものとしています。
段ボール自体も目を互い違いにしているものを使っている模様。

確かに歴史ある家具メーカーはすぐダメになる仕様のものはOKを出さないでしょう。
ここまでやれば立派だと思いますが、しかし
もともとの作者のゲーリーは、製品となったものの価格の高さに落胆したそうで、
氏自身は一般市民にもポピュラーなものとなるように意図していたようです。
そういう意味では今回制作した簡易バージョンの方が、よりコンセプトに近いのかもしれません。

さて、その使い心地ですが、座って荷重がかかることによって、
曲線と曲線の間の10-20ミリのすき間が圧縮され、
その部分がクッションのような、柔らかな座り心地を実現しています。
座ったあとも前後にゆらゆら揺れて面白い。
段ボールの断面も案外強くて、座っても座面はほとんど変形しません。

あえて難点をあげるとすると、まず座面がだいぶ後方に傾斜しているので、
ダイニング・チェアとしてはあまり適当ではないかもしれません。
あとはやっぱり耐久性。
上記したクッションは、段ボールの面方向の粘り強さに頼っているのですが、
両脇の面材がすでにへたってきました。
この点では製品バージョンが正解ですね。
まあ、私はクッション性能なくなってもいいかなとは思っていますが。

以上大変でしたが、貴重な体験となりました。
あとはまだ段ボールが50枚残っているので、それをどうするか。
同じ作者がside chairというものもデザインしているので、それをつくるか。
でもそれだけの気力が残っている??
さて、どうしよう。


(05/06/05 h.taki)


side chair、つくりました。(写真右)
こちらは直線が多いので、切るのは少し楽でしたが、
つくっていて、「どうなるのだろう」というワクワク感が少なく、
だらだらと作業していました。
そのせいか、張合せ時に平面方向にちょっと歪んでしまって、やる気ないなあ。

wiggle side chairと違って、曲部に直線が入っていて、
1本の線が曲がっていくというコンセプトとのずれがあり、
むしろ板から型を切り抜いたという印象が強く、
また段ボールの靭性を生かす部分が少ないので、
シナベニアなどをすき間をあけて重ねたほうが、
しっくりくるのではないかと思いました。

しかし座った感じはwiggle side chairよりいいです。
特殊性が少なくて、日常生活での使用はこちらの方が適しているでしょう。
意外だったのは、背もたれがしなる点。
これは気持ちいいです。

総じて、うまくて受け入れられやすいが作品としての強度は落ちる、といったところでしょうか。
wiggle side chairの製品版を見て、そのバリエーションをつくったのが
side chairなのかもしれません。

これは作者、ゲーリー自邸の1期工事と2期工事の関係とよく似ています。
エスタブリッシュされたというか。
氏の建築作品でグッゲンハイム・ビルバオがよく評価されていますが、
初期の作品のスピラー邸やインディアナ・アヴェニュー・スダジオなどと比べると
きれいにまとまりすぎていて、個人的には物足りなく思っているのです。


(05/06/10 h.taki)



back