施主は若い夫婦である。
屋根のある駐車場と、環境のいい浴室をつくることが優先され、
敷地は66.13平米と狭小であるが、ローコストでできる限りの床面積確保に努めている。
前回の設計から間があいたこともあり、今まで無意識に設定していた設計課題を意識化した。
・空間をどう(変化をつけて)つなげていくか。
・外部に対して、どう開いて(もしくは閉じて)いくか。
・建物の持つ雑多な記号を、どう異化(もしくは単純化)させるか。
以上の課題に対する答えとして、今回は許容床面積が狭小であるが、
あえて床面を分割してレベルをずらしてスキップフロアとしており、
建物内に半地下を含めた5つの床レベルを設定している。
床のレベル差が視線を越えると、どうしても意識上、空間が切れてしまうが、
今回は最大レベル差1420ミリとして、相互に開口を多く設けることによって、
地下の秘められた寝室から、最上階の空に開放された浴室まで
光の変化を受けながら、全体がゆるやかにつながっていく
流動性のある空間をつくることができた。
立面で目を引く波型網入ガラスの裏は、バスコートとなっていて、
折戸を全開放すると浴室と一体化したひろびろとした空間になる。
このバスコートは、プライバシーが保たれた「光たまり」と位置付けられており、
浴室を介して洗面室、またリビングへの光の供給元ともなっている。
いわゆる空間は主にサイズ、プロポーションと開口(採光方法)で決定されるが、
今回は寸法関係の自由度に限りがあったため、地窓、天窓、コーナー窓等
開口形式を意識的に操作することで、従来の「住宅」の持つ記号を脱色し、非日常性を与えてみた。
スキップフロアを採用したことも、結果的にこの試みを強化している。
開口部の操作は外観にも反映され、容易には何がどこにあるのかわからない、
住宅というより、オブジェクトと表現するのが適切なような容貌をもたらしている。
長さ2.7メートルのキャンチレバーもこの印象を強化しているだろう。
この特殊な構造の当初の目的は、車の出し入れを容易にするためであり、
主要構造が木造となった段階で消滅しかけたが、坂根構造デザインの協力により実現化した。
その結果、4方向から見た形状がすべて異なる建物となっている。
建築設備としては床暖房、温水ラジエータ、ジャグジー、浴槽内照明などが採用されている。
(05/02/26 h.taki)