ルイス・カーンと篠原一男




先日久しぶりに東京工業大学百年記念館を訪れました。

百年記念館は東工大の教授だった篠原一男の62歳の時の作品で
自身が手がける当時最も大きな建物で、大学への置き土産になりました。

個人的にはとても良い建物だと評価しています。
ただ篠原はこの作品と大学退官を機にさらに飛躍を遂げるかと思いきや
これを越えるものは遂に生み出されませんでした。
氏は長いブランクのあと、81歳で亡くなっています。

一方、カーンは生まれたタイミングが悪く、世界恐慌や大戦を経験し
52歳のときに大学の非常勤講師をしていた縁でようやく傑作を残します。
彼はこのイエール大学アートギャラリーでデビューして以降、
73歳で没する直前まで建築界の巨匠として作品を生み出し続けました。

大学の施設という比較的自由度の高い建物を設計するチャンスを得て
しかしそれがふたりのその後の明暗を分けてしまったのは何だろう。
ふたりとも幾何形態を好み、内部空間を重視するという点では共通しています。

ぼくは百年記念館を訪れてみて、それは執着心の差だったのではないかと思いました。
イエール大学の建物にはRCのシリンダーに収められた有名な階段があります。
カーンはこの「たかが」階段に全力で取り組みました。

百年記念館にも実は同様のシリンダーの階段があるのはあまり知られていません。
ぼくは今回この階段を初めてのぼったのですが、いやひどい。
カーンのとは比べ物にもならない。特にディテールが。
上階の廊下の手摺もひどいですね。ほとんど投げやり。

実際に大きな建物のこんな詳細を考えるのはボスの役割ではなく、
若いスタッフの仕事です。ボスは指示を出し案をセレクトしていく。
篠原さんの元には有能なスタッフが残らなかったのでしょう。

ひとはいやがおうにも老います。いつまでも20代のような柔軟性や発想力、
素早い手の動きなどを保てるわけではありません。
その間にいかに有能なチームをつくりあげるかが晩年の成功の鍵となるのでしょう。

もう一点、ふたつの大学施設には大きな違いがあります。

カーンの建築はキャンパスの文脈に対し、極めて控えめに建てられているのに対し、
篠原の建築は文脈を断ち切って、ひとつのモニュメントたろうとしているように見えます。
この違いが後のクライアントの心証を左右したかもしれません。

カーンはイエール大学からその後、再度設計の依頼を受けます。
一方東工大はというと、困惑し、建築家に対し懐疑的になってしまったかもしれません。
実際、その後に別の建築家によって建てられた附属図書館は、既存の軸線を尊重し、
多くの部分を地中に埋めるなど、極端に消極的な姿勢を見せています。

正門の横にどーんと建てられたモニュメントは後進への圧力となっているかもしれません。
果たして教育者としてはそれで正しかったのか。疑問の残るところです。


(13/04/13 h.taki)



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