ヨーロッパからの8人




*ヨーロッパからの8人 /群馬県立近代美術館 現代美術棟
高崎市岩鼻町239 群馬の森内 /6月14日まで
-17:00(入場は-16:30)/900円(常設展含)

磯崎新の手がけた群馬県立近代美術館の、同設計者による増築のオープニングです。
天井高10.35メートルの大きな展示空間が特徴です。

群馬県立近代美術館に行くのはL.Kahn展以来だから6年ぶり。
以前からあった2階の展示室の横(美術館の裏手)に3つの部屋が増築されていました。
第1展示室と第3展示室が天井が高く、自然採光をしています。
第1展示室は正方形平面で第2、第3展示室は細長いです。
感じとしては水戸芸の展示室のピラミッドより向こうを
縦横ともにスケールを大きくした、といったところでしょうか。

第1展示室は少し間が抜けたような感じがするので、
私は第3展示室のほうが好きです。
その第3展示室の自然光と人工光のミックスはスケッチを見る限り
計画案で終わった磯崎のシュツットガルト現代美術館
(曽根裕氏が担当したらしい)で採用される予定だったもののようです。

今回の増築は磯崎にしてはまあまあといったところでしょうか。
カフェの増築は結構うまいことやっていました。
原美のも磯崎だし、カフェは得意なのかな。
テラスと水面が同レベルに揃えられ、水面上には宮脇愛子の「うつろひ」。
その向こうには群馬の森の緑が広がっていて、なかなかの雰囲気です。
紅茶とチョコレートケーキもおいしかったです。


で、展示ですが、なかなか「くせもの」が多かったように思いました。
わかりやすいのはカタリーナ・フリッチュのネズミくらいで。
それまで「近代」美術ばかり見ていた鑑賞者にはとっつきにくい企画かもしれません。
1階展示室の常設展示とのギャップはものすごいです。
特に、そこに描かれている、もしくは映されているものそのものには
比重が置かれていないであろう作品は解釈するのが難しいと思います。

シグマール・ポルケの裏の枠材が透けて見える透明ポリエステルに
木材を張ったり単線で車の絵を描いたりした巨大な絵画はそのひとつかと思います。
「絵画」と「物体」、「芸術」と「もの」といったあたりの
境界線への疑義なのかなと思いましたが、やはりわかりにくい。

ピーター・フィッシュリ/ダヴィッド・ヴァイスの
展示室内に幾つもモニターを置いて、それぞればらばらにホームビデオ(?)
をながしている作品もそうかと思います。
私は鑑賞者がばらばらに違ったシーンを見ている光景そのものを
現代社会になぞらえているのかなあと思いましたが、
パンフレットを見ると違う解釈が書いてありました。

彼らのもうひとつの展示もわかりづらいです。
展示室ではなく通路に展示工事のために使った資材のようなものが
放り出されており、しかしよく見ると全く同じものが同じように2つ置いてあり、
「資材」のセレクトやその配置が意図的なものであることがうかがえます。
「資材」は実はものそのものではなく、実物そっくりのポリウレタンの彫刻
らしいのですが、近くに寄って見てもよくわかりません。
きわめて凡庸なモチーフを美的でないように、
しかしあえて異なった素材で彫刻として制作するというあたりは
ポルケと同様、「芸術」へのひとつの疑義なのかと思いました。

もうひとりの「くせもの」フランツ・ウエストは
これはもうわかりませんでした。お手あげ。
鏡のテーブルやらスチールの椅子やら、石膏で作ったような歪んだ家具やら
妙な形の彫刻やら自らの展示のためのポスターやら…。
何かひとつ解釈をしたところで、次の展示で打ち消される。
昨年のミュンスターで少しわかった気がしたのですが、だめですね。
唯一、3台のビデオを使った偶発的なトリオは気に入りましたが。

ただ、まあわからないこともいいことなのかなとは思いました。
何もかもいっぺんでわかってしまったら案外つまらない。
時間をかけて少しずつ「発見」していくのもいいかもしれませんね。

カタリーナ・フリッチュはよかったです。
巨大な黒ネズミにのしかかられた男を見ていると、
なんだかおかしくなって笑みがこぼれてしまいます。
ただ、私はお金のハートマークの作品よりは、
「ネズミの王様」を模型ではなく実物大で見たかった。
彼女の作品は実物大で見てこそ意味があるように思います。

ニエーレ・トローニの作品はたぶん初めて見ましたが、興味深かったです。
ただ30センチ間隔でドットを手で描きいれるだけのものですが、
その背景や位置、画材などによってそのドットが様々な見え方をします。
たぶん手描きであるところがポイントなのでしょう。
同じ様な手法をとるビュレンヌと比べると、詩的な感じがします。
また、手描きにこだわるところは「絵画」のひとつの探究なのかもしれません。

マルレーネ・デュマスの作品も好きです。
4つの人体の作品と、無数の女性の顔の絵。
ひとつひとつの顔に対する冷静な観察眼と卓越した表現力には脱帽します。
凡庸さを凡庸さとしてそのまま受け止めるあたりは、
ジェフ・ウオールの肖像写真と通じるところがあるかもしれません。

ダグラス・ゴードンについてはとりあえず保留。
人指し指を黒く塗って異物の様に見せた写真はともかく、
やはり指を使った動きを映した3つのビデオを流した作品では
やや底が見えたような気がしました。



(98/06/10 h.taki)




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