ローコスト住宅のしくみ




建築家というのは夢を売る仕事です。
建築家は施主に建ものや生活のビジョンを図面、模型、実例、言葉などで語り、
「この家に住みたい」「これを実現させたい」「このひとにお願いしたい」という
意欲を持ってもらって夢を共有し、実現するものです。
ただこの夢には数千万円という膨大な費用が絡んでくるので、
何でも出来るわけではなく、夢とコストのバランスをとる必要があります。

昔は住宅建築を建築家に設計依頼するというのは金持ちの道楽のようなもので、
費用に関しても、「夢」を優先することで問題になることも少ないようでした。
今でもコストは度外視し、とにかく夢を売って引き付けておいて、
最後に費用の話を出して、施主の財布の紐を緩めるという手法をとる建築家は多いようです。

一方、当方に設計の打診があった場合で坪40万とか50万とか特殊な状況でないと実現できないような
予算を示されたケースでは、そうした事例の参考写真を幾つか見せるようにしていますが、
たいがいの人はそこで腰が引けて連絡がなくなります。
難波和彦さんの「箱の家」の第1作も当初、施主はかなり抵抗感を持ったようですが、
営業面から考えると、夢を売る前に現実を突きつけるというのはよくないのかもしれません。

しかし現在の住宅の施主は普通のサラリーマンだったりして、
現実的にはほいほいと追加のお金を出す余裕のない方も多いでしょう。
そこで当方としては建もののコストについて、あえて事実をお伝えします。
住宅という受注生産の単品を発注するにはそれなりの覚悟が必要なことをご理解下さい。

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ここのところめずらしく、住宅設計の依頼打診が続いていて、うち何組かと面談して思ったのですが、
特にコストに絡んで、設計、施工の契約形態や流れなどがよくわかっていない方が多いようなので、
一通りのことを説明してみます。

建築家に設計を依頼すると、施主と建築家でまず設計監理契約をとりかわします。
これによって、設計者は施主の意向を汲んで基本設計、続いて実施設計を行います。
その間約5か月。できあがった実施図面は主に施工者に見積りを依頼するために使われます。
(一部の図面は建築確認申請用にも使われます)
図面の枚数は住宅の構造規模にもよりますが、だいたいA3サイズで40-60枚程度。
住宅の各部サイズ、素材はもちろん、製品のメーカー、品番まで細かく指定します。
(あまり細かく書き過ぎると見積りが慎重になって高めで出てくるので、程度の調整はします)
それを施工業者(3社が多いです)に渡して、3週間程度で見積書を作ってもらいます。
こちらはA4サイズで50枚前後。(あまり薄い見積書だと会社の信頼性に疑問が湧きます)
各部材ごとに必要量を算出し、仕入単価をかけて工事金額を出してあります。

詳細に設計内容が決まっていて、正確な量を拾っているなら工事金額に大きな差は出ないと
思われがちですが、1000万円台後半の予算の住宅で400万程度(もっと?)の違いが出たりします。
なぜこんなに金額が変わってくるのか?真相は施工者にしかわかりませんが、
「とる気」の有無が大きく作用しているのは確かなようです。
施工者にとって比較的うまみのある仕事、例えばスケジュールが丁度あいている、
近くに現場があって職人の手配の調整が容易、設計者の住所が近くて今後のつながりが期待できる、
使用している製品の安い仕入れルートがあったり在庫をかかえている、
施工規模が大きい、今すぐに必要な金がある、現場が近く交通費等の経費が少なくて済む、等など、
そうした仕事には積極的に金額を絞るでしょう。
逆にそうでない話の場合、万一のために金額に保険をかけたり、会社としての経費をきっちり
とったりして、無理のない、しかしこれでとれたら儲けものみたいな金額になります。
一般に小規模住宅は施工者にとってもうまみが薄く、積極的にとる仕事ではありません。

出てきた各社の見積金額から施工者を絞っていき、仕様変更等で施主、設計者、施工者みんなで
頭を振り絞って、金額調整をしていきます。その間数ヵ月、時間と手間がかかります。
金額がどうしても合わない場合は、他社にまた見積依頼するケースも出てくるでしょう。
ローコスト住宅はここが大変です。覚悟しておいてください。

建築家に設計を依頼する場合は、工事契約は別途、施主と工事会社で結んでもらいます。
設計者は契約立会の署名はしますが、基本的に工事契約とは無関係です。
設計者と施工者の裏取引なんてものもありません。そんな余裕はないです。
(工事段階では施主の代理人として、設計通り工事が行われているか「監理」します)

さて、そこで注意して頂きたいのは、設計者は経験をもとに、予算に近い金額で設計をまとめますが、
(最初の見積出しの時は今後の金額調整用にとりあえず多めに指定している項目もあります)
最終的に施工業者がその金額で「やりましょう」と言わなければできない、ということです。
つまり設計段階での見積予測に「絶対」はないと思ってください。
特に基本設計程度の密度の概算であれば、業者に見積依頼しても、どんぶり勘定になってしまいます。

つまり建築家に設計を依頼をすれば、魔法のように安くていい家が建つ、それが約束される
というのは幻想だということです。世の中はやっぱり合理的に動いているのです。
条件が揃って、ラッキーな出会いがあって、施主、設計者、施工者がみんな努力して
はじめてローコスト住宅はできあがります。
施工者に金額を押し付ける施主もなかにはいるでしょうが、
アフターメンテナンス等を考えると、施工者には気持ちよく仕事をしてもらうほうがいいでしょう。

今の日本で建築家に設計依頼されている住宅のほとんどはローコストと言えるでしょう。
一昔前の「パトロン」のように「これだけ金があるから任せる」なんて話はもう聞かないですね。

安くていいもの、広い家はみんな欲しいのです。あなただけではありません。
安くするテクニックはあっても、魔法はありません。
それなりに身を削る覚悟は必要です。本当ですよ!

それならハウスメーカーみたいに、設計施工一括契約の方が楽ではないかと思う方もいるでしょう。
それはまあその通りで、コスト面でも規格部材を大量発注することや、工務店をたたく体質から
安く上がる場合も多いと思います。

ただ「すべてお任せ」は楽ですが、ブラックボックスが多く、施主の利益を守る味方はいません。
設計施工分離発注の場合、設計者は施主が納得できるように、できる限りのことをオープンにします。
施主は設計者の力を借りて、施工者と対等に話し合い、いっしょに家をつくりあげていきます。
「買う」のではなく「参画する」、そこに価値を見い出せば、家造りはもっと楽しくなるでしょう。


(05/06/19、05/12/16冒頭追加 h.taki)



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