『バレンタイン・ちょっぴり大人向け編』



今日は2月14日。
バレンタインデー。
男の子も女の子もうれしはずかしの日。
どいつもこいつもワクワクドキドキの日。
・・・そんなめでたい日にこんな顔をしてるのはオレくらいなものだろう。
朝一番、さくらからのチョコを期待したオレに投げられたのは

「チョコは後で小狼くんのお部屋に持っていくから。放課後まで待ってね」

という言葉だった。
女の子がバレンタインデーに自分の部屋に来る。
これに邪な期待を持たない男はこの世に存在しない。
もちろんオレも例外ではない。
ワクワクドキドキしながら部屋に戻ったオレを待っていたのは、ベッドの上に置かれた“バレンタインチョコらしき物体”だった。

さくらが先に来てチョコだけ置いて帰った・・・というのならばオレはこんな顔をしていない。
問題はこの“バレンタインチョコらしき物体”にある。
いや、これがバレンタインチョコであることはほぼ間違いない。
キレイなラッピングに可愛いリボン、それに部屋に漂うチョコの香り。
バレンタインチョコであることは確実だ。

ではオレが何を気にしているのかというと、それはこのバレンタインチョコの大きさである。
デカイ。
長さ約150cm、幅約50cm。
こんな大きいバレンタインチョコはどんな店にも売ってないだろう。
さらに言うと、形も非常に気になる。
バレンタインチョコの定番と言えばまずはハート型。次いで星型。
だけど、目の前のチョコの形はなんと言ったらいいのか。
全体的には細長く、ところどころ丸みを帯びて膨らんだ箇所があり・・・

なんて謎めかす必要なんぞそもそも全くないな。
ベッドの脇にたたまれた女子の制服と下着を見ればラッピングの中身がなんなのかは一目瞭然。
ようするにクリスマスの時と全く同じパターンなのである。
またか、と思うかもしれないけど、またか、なのだ。
だが、今回オレが困惑している理由はクリスマスの時とは少し違う。

オレを惑わせているもの。
それは、この“バレンタインチョコ”の反応だ。
オレが部屋に入った時、一瞬だけビクッと動いたので眠らされたり気絶してるのでないのはわかっている。
なのに、今は全く動いていない。
クリスマスの時と違って呻き声も聞こえてこない。
脱がれた服と下着を見れば、このラッピングの中身がどういう状態なのか容易に想像がつく。
そんな恥ずかしい格好で男の前にいるというのに“バレンタインチョコ”は何の反応も見せずに大人しくしている。
それはつまり、今の状況が“バレンタインチョコ”の望んだ状況であるということだ。

まあ、それは考えるまでもない。
このマンションはセキュリティ完備の上、オレが施した侵入者撃退用の結界もある。
オレの許可なくこの部屋に忍び込めるのはオレを凌ぐ尋常ならざる力の持ち主だけだ。
大道寺の権力をもってしてもこの部屋に忍び入ることはできまい。
それなのに、ここにチョコが置いてあるということは、さくらが自ら魔法を使って忍び込んだとしか思えないのだ。

可愛い彼女が身をはってバレンタインチョコになってくれている・・・
男にとってこんな嬉しいことはない。
オレだってもちろん嬉しいさ。
今すぐにでもこの“バレンタインチョコ”をいただいてしまいたいよ。
いただいてしまいたいんだけれど。
その、なんて言ったらいいのか。
オレが気にしてるのは

「さくらは一体、オレのことをどんな男だと思ってるんだ?」

という一点だ。
クリスマスの翌日の気まずい会話が頭をよぎりまくる。

『・・・・・・』
『さ、さくら。昨日のあれはその・・・』
『男の子って・・・やっぱりああいうのが好きなの?』
『ち、違う! オレにあんな趣味はないぞ! あれはあの部屋の媚香に・・・』
『わたしはいいよ。小狼くんが喜んでくれるんなら・・・わたし、どんな痛いのも我慢するから』
『だから、違うって!』

違う! 違うぞ、さくら!
オレはノーマルだ!
大道寺みたいなアヤシイ趣味はない!
必死でそう説明したんだけどなぁ。
今のこの状況を見る限りさくらには全然通じてない気がする。
多分、さくらの中のオレは女の子を歪めて悦ぶ嗜虐趣味の持ち主ってことになってるんだろうなあ・・・
これまで大道寺に嵌められたり、魔力が暴走したりでいろいろやりすぎてるんで言い訳できないところもあるんだけれど・・・

ぶっちゃけ、今もかなりヤバイ。
ラッピングの中身を想像しただけでオレの中の欲望は猛りまくりだ。
それに、大道寺。あいつが今回のこれに関わってるのはまず間違いない。
こんな大きなラッピングやリボンがそう簡単に手に入るはずはないからだ。
また媚薬やら何やらが仕込まれてるに違いない。
ここでラッピングを開けたらクリスマスの二の舞になるのは確実だ。
ここは冷静な理性を持って華麗にスルーしたい。
だけど、さくらからの“バレンタインチョコ”をスルーなんてできるわけがないし・・・
だけど、ここで開けたらまたオレの理性はプッツンしてしまって・・・

あぁ。
いったい、オレはどうしたらいいんだぁぁぁ〜〜〜!!

END


バレンタイン話・大。
実は最初はバレンタイン・小(小学生編)と大(ちょっぴり大人編)のセットで考えていたのですが、小学生編は企画サイト様へ投稿したので大のみ掲載です。

戻る