『通知表?』
・・・・・・とここで話が終わっていれば休暇前の恋人たちの甘い一時ですんだのだが、世の中そうそううまい話ばかりのはずもない。
「それよりさくら、お前の方はどうだったんだ」
「え、わたし?」
「さくらの通知表も見せてもらおうかな」
小狼の方から同じ要求を受けてしまったのだ。
これは当然だろう。
自分のを見られたら他人のも見たくなるのが人の性である。
「そ、そんな。しゃ、小狼くんに見せるほどのものじゃないよ」
「そう言われると余計見たくなるな。おれのは見せたろ。さくらのも見せてもらわないと不公平じゃないか」
「はぅぅ〜〜」
しまったぁぁ! と思ったがもう後の祭り。
こう言われては見せるしかない。
泣く泣く小狼に通知表を手渡す。
「どれどれ」
渡された通知表に目を通す小狼。
その表情が険しくなるまでにさほどの時間を要さなかった。
(うぅっ、小狼くん、こういうことには厳しいんだよね)
自分に厳しく、ついでに他人にも厳しい。
それが小狼という男の子である。
それは小学生の時からよく知っているし、カードを集めている時はそれに何度も助けられたものなのだけど。
今の状況でそれは大変にやばい。
案の定、通知表から顔を離した小狼の口から出たのは、先ほどまでの甘いセリフがウソかと思えるほどに厳しい尋問の言葉だった。
「さくら。“5”がないじゃないか」
「い、一個だけ・・・・・・」
「体育だろそれはッ! なるほど。これじゃあ見せたくないワケだ」
さくらのために一応弁護しておくが、さくらの成績はそんなに悪いわけではない。
ただ、ところどころにアヒルさんがいるだけである。
そんなに悪いわけではないのであるが・・・・・・小狼のものと比べると少し、いや、かな〜〜り見劣りしてしまうのは否定できない。
「理数系が特にヒドいな。さくら。この半年いったい、何をやってたんだ。最近は魔力も十分で眠くなったりしてないと聞いてるぞ」
「で、でも〜〜」
「でも、なんだ」
「え〜〜っとぉ〜〜。その〜〜」
「まさか“1”はとってない、とかじゃないだろうな」
「う・・・・・・」
「言うつもりだったのか・・・・・・。やれやれだ」
はぁ〜〜っと小狼の口から溜息が漏れる。
それからしばらく、小狼はあきれ果てたという感じでうつむいていた。
そして、再び顔を上げた時、その瞳には何やら強い決意の光が宿っていた。
(う・・・・・・。なんかいやな予感)
かつてはこの光を何よりも頼もしいと思っていたものなのだが・・・・・・。
今はイヤ〜〜な予感しかしない。
「あぁ、さくら。おれが悪かったよ。自分のことばかり気にしてお前にかまってやれなかったよ。ゴメンなさくら」
「しゃ、小狼くんが責任を感じることじゃないから。わたしのことだから」
「い〜〜や。おれにはお前を立派なレディに育てるという責任がある。これも母上との約束の一つだ」
「えぇ〜〜? なんなの、それ〜〜??」
「当然だろう。仮にも将来の李家当主夫人ともあろうものが落第とかじゃ笑い話にもならないからな。さくら、夏休みの予定は変更だ。おれがビッチリ補習をしてやる。覚悟しておけよ」
「そんなぁぁぁ〜〜〜〜」
後悔先に立たず。
まさに藪蛇である。
楽しい夏休み計画が一転、トンでもないことになってしまった。
(とほほほ。とんだヤブヘビだったよ〜〜〜〜)
やる気満々の小狼と対照的にず〜〜んと重い表情になってしまうさくら。
まあ、ビッチリ補習ということは夏休みの間、ずっと小狼と二人っきりでいられるということで悪いことばかりではないのですけど。
さくらがそれに気づくのはかなり先のことです。
めでたしめでたし?
END
通知表でした。
なんでこの時期に季節外れの通知表なんかを持ち出したのかというと、あるマンガに深い感銘を受けてしまったからです。
そのマンガとは
グラップラー刃牙外伝 『創面(きずづら)』。
規格外の超ヤクザ、ステゴロ日本一の侠、花山薫のこれまた規格外の学園生活を描いた快作!
その花山さんが成績の悪い通知表を見せたがらないというあまりにも愉快すぎる話に爆笑してしまったためです。
まあ、刃牙シリーズは漢と漢が肉と骨をぶつけ合う格闘マンガで、CCさくらファンには異次元くらい縁遠い作品・・・・・・と思っていたのですが書き終わってからあることに気がつき愕然としました。
グラップラー刃牙のアニメ版、花山さんの少年時代の声優はなんと小狼と同じくまいもとこさん!
なんとういう偶然!
いや、これはまさに必然!
・・・・・・なわけはないか。