『鶴の恩返し・山崎くん編』


日本迷作劇場その3改改改怪傀快隗 鶴の恩返し(山崎くん編)

キャスト
村の若者:山崎くん
鶴:千春ちゃん
講師:知世
生徒:さくら

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昔々のその昔。
ある村に一人の若者が住んでいました。
この若者は誰にでもやさしく、とても正直だったので村のみんなから慕われ……ているかどうかはちょっと微妙な感じでした。
正直なことは正直なのですけどねえ。
まあ、なんといいましょうか。
いらんことを言っちゃうタイプなわけです。
なので、いい青年なのだけどなあ、みたいな感じの青年でした。

そんなある日のこと。
若者が森を歩いていると1羽の鶴が罠にかかって動けなくなっているのを見つけました。

「つーっ、つーーっ」

鶴は悲しそうな声で若者に助けを求めます。

「あぁ、これは大変だ」

若者は罠を外して鶴を逃がしてやるのでした。
こういうところは本当によい青年なのですが。

「これで大丈夫だよ。もうこんな罠にかかっちゃダメだよ」
「つるーっ」
「そうそう、罠といえばね。昔の罠は自分から動いて獲物を捕まえにいってたんだよ〜〜」
「つ、つる?」
「そのうえね。獲物を捕まえたら自分で家まで獲物をひっぱってくるんだよ。昔の罠に捕まってたら今ごろ大変だったね〜〜。あははは〜〜〜〜」
「???」

この辺がこの若者があいつはちょっとなあ、と言われてしまう所以なわけです。
この若者、それこそ呼吸をするかのようにホラ話をかましてしまうのです。
あまりにも自然にホラ話をかますので、一瞬、信じてしまう人もいるほどです。
言っている内容があまりにもアホらしいのですぐ気づくわけですが、たまになかなか気づけない不憫な者もいます。
そういうアホ……もとい、純真な者がいるからこの若者も調子にのってしまうわけなのですが。
村でも際限がなくなるからあの二人は一緒にするな、いや、おもしろいからほっとけ、と意見の分かれるところです。

「あははは〜〜。それじゃあね〜〜」
「つるーっ」

若者のアホ話に面食らった様子の鶴でしたが、一声鳴いて空高くに飛び去っていきました。

「いやあ、いいことをした後は気持ちがいいなあ」

臆面もなくそういうことを口にできるのがこの若者らしいところですね。
良い若者なことは間違いないのですが。

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さて、その夜。

トントントン・・・

若者の家の戸を叩く音がします。

「こんな夜更けに誰だろう」

いぶかしみながらも戸を開けてみると、そこにいたのは三つ編みツインテールの可愛らしい少女でした。

「夜分遅くに申し訳ありません。旅の者ですがこの雪に難儀してしまいまして・・・」
「それはお困りでしょう」
「申し訳ありませんが一晩、お泊め願えないでしょうか」
「どうぞどうぞ。こんなあばら家でよろしければ」
「ありがとうございます」
「そうそう、雪といえばね。昔は……」
「は?」

初対面の女の子に向かってまたしょーもないホラ話をかましはじめる若者。
ある意味、大物かもしれません。

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こうして若者のところにやってきた女の子ですが、翌日になっても若者の家を出ようとはしません。

「なにかお手伝いできることない? 泊めてもらってそのままなんて悪いし」
「あははは〜〜。そんなこと気にしないでいいよ。一人暮らしも長いからね〜〜。たいていのことは自分でなんとかなるから」
「そうですか……」

なにやら恩返しする気満々な様子の女の子でしたが、若者はサラッと流してしまいます。
それでもめげずに恩返しの機会をねらって家に留まる女の子でしたが。

「山崎くん、洗濯ものはない?」
「あぁ、もう終わってるよ」
「そ、そう? それならお食事の用意を……」
「今日の晩御飯は満漢全席だよ! 千春ちゃんのために腕によりをかけて作るからね」
「そう……」

この若者、まったくつけいる隙がありません。
そうなのです。
この若者、モブキャラみたいな見た目に反して、料理、洗濯、お掃除、その他あれこれ、家事はなにをやっても完璧というまさに完璧超人。
完璧すぎて女の子のとりつくしまもないという、実はけっこうめんどくさいタイプの人だったのです。
いつしか名前で呼び合う仲になったのは女の子のがんばりの成果ではありましたが、やはりそれだけではちょっとというところでしょう。
とはいえ、男一人のやもめ暮らしのところに女の子が入ればもちろん、いろいろと変わりはあります。
若者も女の子のことを気に入っているようです。
あれこれ、女の子にプレゼントして女の子の気をひこうとしているのがわかります。

「そうそう満漢全席といえばね。あれの起源はねえ〜〜」
「はいはい!」

ボケとツッコミも板についてきたものです。
なんだかんだでなかなかいい感じにはなっていますが。
やはり恩返しができない女の子にはちょっぴり不満なところもあるようです。

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さてさて。
なんだかんだで女の子が若者の家に来てから半年も経ちましたが。
若者と女の子ももうすっかりうちとけて仲良くなってはいます。
ですが。
お互いの仲が近寄ればまた衝突も起こるというのが世の常。

「もう、山崎くん! なんべん言ったらわかるのよ!」
「あははは〜〜。千春ちゃんは怒った顔もかわいいな〜〜」
「もう!」

喧嘩をするほど仲が良いとはよく言います。
この二人の仲もそんな感じではあったのでしょう。
若者も女の子とのそんなやり取りは楽しんでいた節はあります。
女の子の方もそれは重々承知だったでしょう。

けれど、やはりいつまで経っても恩返しができないというところに思うところがあったのでしょうか。
はたまた、若者の悪ノリがちょっと過ぎてしまったのでしょうか。
この若者、ちょっと調子にのりやすいところがありますので。
ある日、とうとう女の子を大いに怒らせてしまいました。

「も〜〜いや! がまんできない!」
「ち、千春ちゃん、そんなに怒らないで」
「もうやってられないわ!」

ボン!

バァァァァ〜〜〜ン

光と演出っぽい煙に包まれた女の子にかわって現れたのは、大方の予想通りの鶴さんです。
この辺の演出も来る日にそなえて準備していたのでしょう。
準備のいいことですが、こうなっては完全に台無しです。

「ハイ、鶴! わたしの正体は鶴でした!」
「は!?」
「恩返しにきてたの! でも、もうしったこっちゃないわ! 山崎くんのバカ!」

バサッ、バサッ

涙声で叫んでバッサバッサと羽音高く飛び立つ鶴さん。
本来なら感動シーンのはずですがもう、なにがなにやら。

「え? え!? ちょ、千春ちゃん! 鶴なのはなんとなくわかってたけど。千春ちゃ〜〜ん」

あわてて追いかける若者。
これも感動シーンなはずなんですけど、どう見ても痴話喧嘩にしか見えなくなっちゃってますね〜〜

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「……とこのように喧嘩の勢いで正体をバラしてしまうケースがけっこうあります」
「ふ〜〜ん」
「こういうタイプほどあとからヨリを戻したがって面倒なので注意が必要です」
「そうなんだ〜〜。わたしも気をつけないと」
「おほほほ。さくらちゃんなら大丈夫だと思いますわ。さくらちゃんは意中のあの方とケンカなどなさらないでしょうから」
「えへへへ、そうかな〜〜。でも! 気をつけないと」
「その意気ですわさくらちゃん!」
「うん!」

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………

さてさて。
「あらゆる動物向け 鶴の恩返し育成講座」の様子はさておき。
この後、若者は四方八方手を尽くして鶴さんを探し出し、お得意の口八丁で鶴さんを口説き落として事なきを得たといいます。
まあ、それでこりたかというと、全然そんなことはなく、またいらんことを言って女の子にシメられるわけですが。

「もう、何べん言ったらわかるの!」
「あははは〜〜。千春ちゃん、痛い、痛いよ〜〜」

とりあえずメデタシメデタシ?

おわり


マチ姉さんの妄想おとぎ話ツアー、書籍化してくれないかな〜〜。

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