『鶴の恩返し・さくらいぬ編』


日本迷作劇場その3改改改怪傀快 鶴の恩返し(さくらいぬ編)

キャスト
村の若者:小狼
鶴?:さくらいぬ

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昔々のその昔。
ある村に一人の若者が住んでいました。
この若者は誰にでもやさしく、とても正直だったので村のみんなから慕われていました。

さて、そんなある日のこと。
若者が森に薪とりに行った時のことです。

「つるーっ、つるーーっ」

1羽の鶴が罠にかかって動けなくなっているのを見つけました。
1羽の鶴が……
鶴が……
……
え〜〜っと。
つる?
はたして鶴でいいんでしょうか。
たしかに白い羽と白いくちばしは見えています。
ですが、それはどう見ても被り物ですし、鶴の頭もあきらかに作り物です。
ばたばたやってる羽も羽を持ったお手手がばたばたやっているというありさまです。
ぶっちゃけた話、鶴のコスプレをしたワンコがじたばたやってるようにしか見えません。
困っている者を見たら助けずにはいられない若者でしたが、これにはまいりました。
助けてよいものかどうか咄嗟に判断しかねたのです。
あきらかに関わっちゃマズイやつだな感でいっぱいです。
この時、若者の頭に浮かんでいたのは隣村に住む目の細い友人の話でした。

「ねえねえ李くん、知ってる? 最近、動物たちの間で鶴の恩返しがブームなんだって。なんかみんな鶴の真似して恩返しを狙ってるんだって〜〜」

たしかそんな話でした。
日頃からしょーもないホラ話ばかりな友人ですので真偽のほどはイマイチ信用がありません。
この時も

「あ〜〜その顔は信じてないね。ウソじゃないよ。ホントだよ。この間、ぼくのところにもね……」

まで言いかけたところで後ろにいた女の子にチョーク・スリーパーで落とされてしまいました。
もっとも鶴?さんの様子はとうてい罠にかかったふりには見えません。
鶴のふりをして恩返しを狙ってたら本当に罠にひっかかってしまったのでは? という気でいっぱいの若者です。
そんな若者に気づいたのか。

「わ……つ、つるーっ、つるーーっ」

鶴?は若者に向けて悲痛な泣き声で助けを求めてきます。
迷った若者でしたが、やはり根が優しいのでしょう。
鶴?を罠から外してあげるのでした。

「これで大丈夫だ。もうこんな罠にかかるんじゃないぞ」
「つるーっ」

この期に及んでまだ鶴のふりとは見上げた根性ではあります。
ばたばたと作り物の羽を振り回しながら去る鶴?を見送りながらいいことをした……という満足感とは微妙に違う感想を抱きながら帰途へつく若者でした。

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さて、その夜のこと。

トントントン・・・

若者の家の戸を叩く音がします。

「こんな夜更けに誰だろう」

いぶかしみながらも戸を開けてみると、そこにいたのは栗色のショートカットの可愛らしい少女。

「こんな夜遅くに申し訳ないんだけどね。道に迷っちゃったの」
「それはそれは」
「それでね。申し訳ないんだけど一晩泊めてもらえないかな〜〜って思って。ダメ?」
「こんなあばら家でよければ」
「わ〜〜い、ありがとう!」

喜ぶ少女を家に迎える若者でしたが。
その顔にはこれまたなんともいえない微妙な表情が浮かんでいます。
それもそのはず。
この少女、見た目はなんとかそれらしくなってはいるのですが。
お頭にはいぬみみ、お尻には可愛いしっぽと正体もろばれ。
どう見てもさっき助けた鶴?です。
なにしに来たのかといったらやっぱり恩返しに来たのでしょう。
なんかかなり先が思いやられるところではあります。

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こうして若者のところにやってきた女の子ですが、翌日になっても若者の家を出ようとはしません。

「なにかお手伝いできることないかな。なんでもやるよ!」
「そうかい。それじゃあこれをお願いしようかな」

恩返しする気満々です。
実にわかりやすい鶴?さんです。
まあ、それはいいのですが。

ドッシ〜〜ン

「うわわわわ。うぅ、いたたた……」
「おいおい、大丈夫か」
「だ、大丈夫だよ。わん!」

どうやらこの鶴?さん、ドジっ娘属性持ちのようです。
その筋には絶大な人気を誇る属性ではありますが、恩返しにはこのうえなく向いていません。
それでもあきらめずに若者の家に居座り続ける鶴?さんでしたが

「わ、わぅぅぅ!」
「きゃん!」
「ふぇぇぇぇ〜〜〜〜ん」

まるっきりいいところなしです。

「うっ、ぐすっ、ぐすっ。また失敗しちゃったよ」
「やれやれ。さくらはおっちょこちょいだな」
「ふぇぇぇ〜〜ん。小狼く〜〜ん」

いつしか名前で呼び合う仲になったのだけが鶴?さんのがんばりの成果でしょうか。
恩返しにはまったくなっていませんが。

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さてさて。
そうこうするうちに鶴?さんが若者の家に来てから半年も経とうかというある日のこと。

「小狼くん。小狼くんに一つお願いがあるんだけどいいかな」
「お願い?」
「うん。あのね。わたしここに来てからずっと小狼くんのお世話になっているでしょ。お世話になってばかりじゃ悪いと思って」

今回の場合、まったくもってその通りなのですが、若者はそれをおくびにも出しません。
本当によくできた若者です。

「おれはそんなこと気にしてないよ。さくらはそんなこと気にしなくていいんだ」
「ううん、それじゃわたしの気が済まないの。だからね。小狼くんへのお礼に機を織ろうかと思うの。わたし、機織りはけっこう自身があるんだよ」
「そうか。それは楽しみだな。それじゃあ一つお願いしようか」
「ありがとう小狼くん。それでね。もう一つだけお願いがあるんだけど」
「なんだい?」
「わたしが機を織っている間は決して中を覗かないで欲しいの。これだけは約束して」
「覗かなければいいんだな。わかったよ」
「うん!それじゃあ、さっそく」

若者の承諾を得た少女はさっそく部屋にこもって機織りを始めます。

ガサゴソガサゴソ
ガサゴソガサゴソ
ガサゴソガサゴソ
ガサゴソ……

なにやらやり始めた音が聞こえてきした。
しばらくはお茶を飲んでその音を聞いていた若者ですが、お茶を飲み終えるとやおら立ち上がりました。
そのまま鶴?さんの篭った部屋に近寄りふすまに目をあてます。
どうやら鶴?さんとの約束ははなから守るつもりはなかったようです。
部屋を覗きます。
覗き込んだ若者の目に入ったのは。

「う〜〜、え、えぃ! う、いたたた……。う〜〜むずかしいよ〜〜」

バタバタ
ゴソゴソ
バタバタ
ゴソゴソ……

そこにはワンコの姿に戻ってしっぽの毛を抜き、それでなんとか機を織ろうとする鶴?さんの姿があるのでした。
優しい笑みを浮かべて若者はそっとふすまから目をはなします。
まったくもって想像通りの光景でしたので若者にはなにも言うことはありません。
またちゃぶ台に戻ってお茶をすすりはじめました。

「わ、わぅ!」

悪戦苦闘しているらしい鶴?さんの声を聞いていると、隣村の目の細い友人のしょーもない話が思い出されます。

「ねぇねぇ、李くん。鶴の恩返しの話を考えた人ってすごいと思わない?」
「なにがだ」
「だって、鶴の羽で布作るのはどうしたって無理でしょ?」
「それを言い出したらおとぎ話なんて無理しかないだろ」
「いや、やっぱり一番最初に羽で布織るの設定考えた人はすごいよ。普通、考えつかないよ」

そこで浮上する“その人鶴の姿をよく知らなかった説”、糸状の白い羽毛に器用な手足、ボクの考えた鶴はこうだ! も今ならありかな〜〜という気がする若者なのでした。

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こうしてかな〜〜りの時間をかけてようやく出来上がったのは白い反物……にあらぬ毛糸のマフラー。

「わ、わぅ……なんか予定してたのと違うのになっちゃったけど……」
「いや、さくらがおれのために作ってくれたのがうれしいよ。ありがとうな、さくら」
「わん!」

もちろん若者はそのマフラーを売ったりせず、大事に使い続けるのでした。
めでたしめでたし。

おわり。


入院中に呼んでた4コママンガ誌に鶴の恩返しのネタがあったので。
参考:マチ姉さんの妄想おとぎ話ツアー

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