『鶴の恩返し・黒小編』

※本作品は一応リクエスト作品です。
作者の趣味嗜好が反映されているわけではないことは強調しておこうかと思います。


日本迷作劇場その3改改改怪傀 鶴の恩返し(黒小編)

キャスト
村の若者:黒鋼
鶴:小狼

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昔々のその昔。
ある城下町に一人の若者が住んでいました。

「せいっ! ふん! はぁっ! とりゃぁっ!」

朝も早くから熱心に剣の修行に打ち込む若者。
その気合いの入り方は少し普通の人のそれとは違うように思えます。
それもそのはず。
この若者はただの若者ではありません。
この国を治める姫巫女、月詠様に仕える忍びの棟梁なのです。
その剣の腕はすでにこの国で右に出る者はいないとまでいわれています。

「はあぁっ! 地竜・陣円舞!」

気合と共に迸る一閃が大地を切り裂く!
その凄まじいこと、まさに一騎当千!
若者の剣の冴えが並みのものでないことが一目で見てとれます。
ただ、その強さゆえか、あるいは若者の偏執的なまでの強さへの渇望を恐れてなのか、若者の周りには人がよりつきませんでした。
若者が強さに固執するのは悲惨な過去が原因であり、町の者もそれを知ってはいるのですが、それでも若者には近寄りがたいようです。
また、若者の方も他者と関わることを好んでいないように見えます。
これもまた過去の悲壮な経験のためなのでしょうか。
愛する者を失うという耐え難い苦しみ。
愛があるからこそ人は苦しむ。
ならば、はじめから愛する者などいなければ苦しむことはない。
そう考えているのかもしれません・・・・・・

さて、そんなある日のこと。
若者が森を歩いていると1羽の鶴が罠にかかって動けなくなっているのを見つけました。

「くぁーーっ、くぁーーっ」

若者に気づいた鶴は悲しそうな声をあげて若者に助けを求めます。
溺れる者は藁をも掴むというところなのでしょうがこれは相手が悪すぎますね。
言うまでもありませんが、この若者には傷ついた弱者を助けるなどという思想はありません。
弱肉強食。弱者疾く失せるべし。それがこの若者の精神なのです。
鶴の鳴き声に一瞥もくれずに立ち去ろうとします。

「くぁぁーーっ、くぁぁっ・・・・・・」

鶴は立ち去る若者の背に向けて最後の力を振り絞ったかのような弱い鳴き声をあげます。
むろん、そんなものが若者の氷のような精神を動かすことはない・・・・・・かと思われたのですがこれはどういう風の吹き回しでしょうか。
若者の歩みが止まったではありませんか。
振り返り鶴の方に向けたその顔はやれやれしょうがないな、という感じの表情が浮かんでいます。
どうやら鶴を助ける気になったみたいです。
鶴に近寄ると足をはさんでいたトラバサミを外して鶴を解放してやるのでした。

「くぅぅ〜〜、くぁぁぁ〜〜〜〜!」

自由になった鶴は喜びの声をあげて空へ舞いあがると、若者へのお礼のつもりか何度か若者の頭上を旋回してから山の方へと飛び去って行きます。

「ふん。つまらねえことをしたぜ」

そう言う若者の頬に浮かぶかすかな笑み。
若者がこのような笑みを浮かべたのはいつ以来のことなのか。
若者自身も覚えていないでしょう。

さて、その夜。

トントントン・・・

若者の家の戸を叩く音がしました。

「こんな時分に誰だ?」

いぶかしみながらも戸を開けてみると、そこにいたのは栗色の髪をした一人の少年です。

「夜分遅くに申し訳ありません。旅の者ですがこの雪に難儀してしまいまして・・・・・・」
「そうか。で?」
「申し訳ありませんが一晩、お泊め願えないでしょうか」

懇願する少年の顔をめんどくさそうに眺めていた若者でしたが、

「まあいい。あがれ」
「ありがとうございます」

少年を家に招き入れるのでした。
他者との関わりを頑なに拒んできた若者にしては珍しいことです。
どうも今日の若者はいつもと少し調子が違うようですね。

さて、こうして若者の家にやってきた少年、名は小狼といいますが、1日たっても2日たっても若者の家を出ようとしません。
若者もそれを咎めることをしません。
そうして日々が過ぎていくうち、

「黒鋼さん。今晩のおかずは何にしましょうか」
「そうだな。久しぶりにサンマが食いたくなったところだ。そいつでお願いするか」
「サンマですね。わかりました。生きがよさそうなやつを買ってきますよ」
「頼むぜ。ま、小僧の腕前なら多少生きが悪くても問題ねえだろうがな」
「そんな。黒鋼さんに褒められると照れます」
「まあ、頼んだぜ」

少年は若者の生活に深く溶け込んでいくのでした。
これまで色彩のなかった若者の生活に新しい潤いが加わったかのようです。

さてさて。
少年が若者の家に来てから半年も経とうかというある日のこと。

「黒鋼さん。黒鋼さんに一つお願いしたいことがあるのですがいいでしょうか」
「お願い? なんだ」

少年が若者になにやらお願い事をしてきました。
これはちょっと珍しいことですね。
若者のところに来て以来、少年が若者に何かを求めてきたことはありませんでした。

「はい。おれ、ここに来てからずっと黒鋼さんのお世話になりっぱなしです。それじゃあ黒鋼さんに悪いと思いまして」
「そんなもんおれは気にしてねえよ。お前のおかげで毎日美味いもんも食えるしな」
「いえ、それではおれの気がすみません。それでおれ、黒鋼さんのために機を織ろうかと思うんです。おれ、機織りには結構自信があります」
「おれはどうでもいいんだがな。ま、小僧がそう言うなら一つお願いしてみるか」
「ありがとうございます。それと黒鋼さん。もう一つだけお願いがあるのですが」
「なんだ」
「おれが機を織っている間、決して部屋をのぞかないで欲しいんです。これだけは約束してくれませんか」
「部屋をのぞかなければいいんだな。わかったぜ」
「はい。それではさっそく」
「だが機を織るとなるとあの部屋じゃ少し手狭だな。ちょっと待ってろ。もう少し広い部屋を用意してやる」
「重ね重ねすいません」

少年の申し出を若者は快く引き受けます。
そして若者が用意してくれた機織り部屋にこもって少年は機織りを始めるのでした。

ぎったんばったん
ぎったんばったん
ぎったんばったん
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・
・・・・・・

部屋の外で機織り機の織り成す音を聞き入る若者の頬にはまたかすかな笑みが浮かんでいます。
それはまあいいんですけれど。
以前の笑みとはちょ〜〜っと違うように見えるのは気のせいでしょうか。
こうなんというか、邪というか淫靡というかそんな成分が混じっているような気がするのですが・・・・・・?

そうして翌朝出来上がった織物を手渡された若者は驚きに目を見張るのでした。
それは若者がこれまで見たこともないほどに素晴らしい織物だったのです。

「こいつは驚いた。まさかこれほどのものとはな」
「そんな大したものではありませんよ」
「いや、こいつはすごい。知世のところにもこれほどの織物はねえ。いや、大したもんだ。こいつは高く売れそうだぜ」
「黒鋼さんに喜んでいただけておれも嬉しいです」
「じゃ、ちょっくら街に行ってくるぜ」

本当に素晴らしい出来栄えの織物です。
羽のように軽く、柔らかく、織物自体がまるで不思議な輝きを放っているかのような見事な逸品です。
そう、まるで羽のように・・・・・・

若者の見込み通りその織物にはたいそうな値段が付き、若者はかなりの額のお金を手にすることができました。
多額の銭とそれで買ったらしいおみやげを手に意気揚々と若者は家に戻ります。

「小僧。今帰ったぜ」
「おかえりなさい黒鋼さん。織物はどうでしたか」
「ああ。いい値段で売れたぜ」
「それはよかった」

出迎えた少年に笑顔で応じる若者。
でも、やっぱりちょっと変な笑みですね。
少年を見る目もいつもと違います。
少年の方はそれに気づいていないようです。
そんな少年を見下ろしながら若者は話を続けます。

「おかげでいいオモチャも買えたしな」
「オモチャ? なんです?」
「そいつはあとのお楽しみだ。それよりまずはこいつを見てもらおうか」
「?」

いぶかしむ少年の前に若者が出してきたのは何かの端末でした。
スマフォか何かみたいですね。
わけがわからず困惑する少年をよそに若者はスマフォをピポピポと操作します。

「な・・・・・・!?」

やがて端末に映し出された映像を見て少年は声にならない驚きの呻きをあげるのでした。
そこに映っていたのは真の姿に戻って機を織る自分の姿だったからです。

「く、黒鋼さん!? こ、これはいったい・・・・・・?」
「これはも何もねえだろ。お前じゃねえか」
「な、なんでこんなものが」
「昨日、お前がこもった部屋にカメラをしかけておいたのよ。お前のことを話したらうちの姫様が愛用の盗撮カメラを貸してくれてな」

いやはや。
もうどこからどうツッコんだらいいのやら。
スマフォとか盗撮カメラとか時代設定はどうなってるんだ! とか
盗撮カメラを愛用しているお姫様ってなんなんだよ! とか
そんなやつに国を任せていいのか!
等々ツッコミどころが多すぎてわけわかりません。

「あれほどのぞかないでって約束したのに」
「約束をやぶったおぼえはないぜ。のぞいてはいないだろ。カメラを仕掛けといただけだぜ」
「そんな・・・・・・」

うわ〜〜、若者の方も言ってることが無茶苦茶です。
たしかにのぞいてはいませんけど〜〜。
それはズルい大人の論理ってやつですよ。
どうやら若者、早いうちから少年の正体に気がついてたっぽいですね。
恩返しは昔話の定番なんでパターンが読みやすいってところもあるんでしょうけど。
あるいは盗撮カメラを貸してくれたというお姫様の入れ知恵かもしれません。
どちらかというとそちらの可能性の方が高いような気がします。
盗撮カメラを常用するようなお姫様ですから。
その手の悪知恵が働くタイプなのでしょう。
狼狽する少年を若者は言葉でさらに責めたてます。

「そんなことより小僧、これはどういうことなんだ。ん? 命の恩人を欺くなんてずいぶんな真似をしてくれるじゃねえか」
「お、おれはただ黒鋼さんに恩返しがしたくて」
「その結果がこれか? ウソはよくねえよなあ。恩をウソで返すってか。あ〜〜ん?」
「そんなつもりは。おれは・・・・・・」
「ウソつきには罰を与えねえといけねえよなあ。そのための道具も用意してきたしな。くくっ、小僧。覚悟はいいか?」
「黒鋼さん・・・・・・」

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****** しばらくお待ちください ******

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「小僧、お前はどこにも行くな。ずっとここにいろ。おれがお前を守ってやる。ずっとだ」
「はい・・・・・・。黒鋼さん」

こうしてねんごろな仲となった若者と少年。
二人はこの町でいつまでも幸せに暮らしたそうです。
めでたしめでたし。

「おほほほ〜〜〜。また一つ素敵なコレクションが増えましたわ〜〜〜」

あ、ここにも幸せになってる人がいました。
若者のカメラはお姫様のところにもデータを転送していたようです。
白鷺城下は通信インフラもばっちりみたいですね。
なにはともあれめでたしめでたし。

今回の教訓:

「BLはなんでもあり」

おわり。


この話はリクエスト作品です。作者の趣味嗜好とは関係ありません。
・・・・・・と思いましたが、前にも黒小もの書いてましたっけ。
黒小も捨てがたいものはあるかと。
でも自分的にはツバサでのベストの組み合わせは小狼×龍王。

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