『トリックオアトリート』
「トリック・オア・トリート?なんだ、それ?」
「李くん、ハロウィン知らないんだ」
ここはお昼休みの友枝中学。
香港からの留学生、李小狼は小学生時代からの級友(悪友?)の山崎貴史からハロウィンについての講釈を受けていた。
もっとも、山崎の講釈はほぼ100%デタラメである。
いつもいつも小狼は山崎にだまされて酷い目にあうのだが、毎度毎度同じようにひっかかる。
子供のころから特殊な環境で育った小狼は「悪意」から発せられる嘘には敏感だ。
反面、山崎のように悪意も害意も無く発せられる嘘にはあっさりとひっかかってしまう。
今日も山崎の「悪ノリ」にコロリと乗せられてしまっていた。
「トリック・オア・トリートっていうのはね、『お菓子をくれなきゃイタズラするぞ』って意味だよ。ハロウィンの時は子供たちがこう言って大人にお菓子をせびるんだ」
「ふ〜ん。子供のためのお祭りか」
「(ニヤリ)子供たちはそうなんだよ。でもね〜。ハロウィンには大人の部もあるんだ」
「大人?大人もお菓子をせびるのか?」
「『お菓子をくれなきゃイタズラするぞ』でしょ?つまりお菓子をくれなかったらイタズラしていいってことなんだよ」
「いたずらって・・・いい年した大人がいたずらでも無いだろう?」
「やだなぁ〜李くん。『大人』の『イタズラ』だよ?」
「???」
「ニブいなあ、李くん。たとえば李くんが木之本さんに『トリック・オア・トリート!』て言ってお菓子をもらえなかったら、木之本さんに『イタズラ』していいってことだよ」
「イタズラって・・・?」
「そこまで僕に言わせるのかい?キスでも○×△でも×□●でもなんでもありだよ」
「(カァッ〜〜〜)そ、そんなことが許されるのか?」
「それがハロウィンのいいところさ。でもね、それを防ぐためにハロウィンではみんな、お菓子をたくさん持ち歩いてるんだよ。いつ『トリック・オア・トリート!』って言われてもいいようにね」
「そうなのか・・・」
「ところで李くん、こんなところにいていいの?」
「ん?どういう意味だ?」
「だって木之本さんにいつ、誰が『トリック・オア・トリート!』って言いに来るかわからないよ?木之本さん、そんなにお菓子用意してるのかな?」
「!!!」
だ〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!
一気にダッシュで走り去る小狼。
このスピードなら北京でメダルがねらえそうだ。
「あははははは〜〜〜がんばってね〜〜〜」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「知世ちゃん、今日の小狼くん少しおかしくない?」
「そうでしょうか?」
「なんかお昼休みが終わってからすっごい顔で他の男の子たちを睨みつけてるんだけど」
「いつものことですわ」
「そうかな?でも今日は特にすごい気がするけど」
「気のせいですわ(李くん・・・また山崎君に何か吹き込まれたのですね・・・)」
「(さくらは絶対オレが守る!誰にもイタズラなんかさせない!!!)」
その日、教室の一角は異様な雰囲気に包まれ、いつになく静かな午後になった・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
そして放課後。
小狼とさくらは二人仲良く家への道を急いでいた。
「(ふ〜〜〜。どうやら1日、さくらを守りきったみたいだな)」
小狼はさくらを無事に守り通したという充実感に包まれていた。
はたから見るとアホウでしかないのだが。
「うん?小狼くん何か言った?」
「な、なんでもない!」
「そう?あ、そうだ!小狼くん今日は『ハロウィン』だって知ってた?」
「!あ、あぁ、もちろん知ってるよ(だからこんなに頑張ってるんじゃないか!)」
「えへへ〜〜〜じゃあ小狼くん、『トリック・オア・トリート!』」
「え?」
え?
トリック・オア・トリート?
って言われたらお菓子あげないといけないんだっけ?
でもオレ、お菓子なんか持ってないけど。
お菓子をあげなかったら『イタズラ』されるんだよな。
イタズラ?
山崎の声が脳裏に蘇る。
「・・・キスでも○×△でも×□●でもなんでもありだよ・・・」
って、えぇぇっ!?
さ、さくら?まさかこんなところで!?えぇぇぇぇぇっ!!!
「ほえ?小狼くん?小狼くん???」
いきなりまっ赤になって硬直してしまった小狼。
お菓子か、ちょっとしたイタズラかと思っていたさくらは不思議そうな顔でこーちょくした小狼を見続けた・・・・・・
END
すいません、やっぱりバカギャグです。