『至高の愛・・・その果てにあるもの(小狼編)』



ざわ・・・ざわ・・・
ざわ・・・ざわ・・・

その日の夕刻、サッカー部の部室は異様な緊張に包まれていた。
部員達の視線がある一点に集まっている。
その視線の先にいるのは部のエース、李 小狼である。

これ自体は別に珍しいことではない。
小狼の着替えはいつでも部員達の注目の的だ。
鍛え抜かれた小狼の身体が汗で光る光景は芸術品と言っていい美しさだからだ。
その気のない男でも魅入ってしまう美しさである。
サッカー部に人気があるのは李と裸のお付き合いができるから、という噂もまんざらウソではない。

だが、今日注目を集めている理由はいつもとは違う。
彼らが注目しているもの・・・それは・・・


小狼の背に刻まれた赤い鞭の痕であった。


さくらにビシバシやられた痕がまだ消えていないのだ。
小狼も練習を始めるときは目立たないように隠れて着替えていたのだが、一汗かいていい気分になったら忘れてしまったらしい。

(なあ、あれってやっぱり、鞭の痕だよな?)
(お前にもそう見えるか)
(あぁ。それに李の手首にも何か痕がついてないか?)
(手首?そう言えばうっすらと何かの痕が・・・)
(あれは縄で縛られた痕じゃないか?)
(縄ぁ?鞭?)
(それはつまり・・・その・・・“えすえむ”ってやつの痕かぁ?)
(え、SM〜〜〜!!!???)

以前から小狼は何か「特別な存在」なのではないかという噂はあった。

外国の巨大企業の跡取り。
常人を遥かに超える身体能力。
教師たちですら舌を巻くほどの知力。
他者を圧倒する迫力。
なにもかも平凡な学生のそれとは違う。

彼は自分達とは違う、何か「特別な世界」に属する人間なのではないか?という噂は後をたたなかった。

だが、それがこういう意味で「特別な世界」だとは思いもよらなかった・・・

(そ、それにしても・・・その“えすえむ”の相手は一体、誰なんだ?)
(李の相手っていったら、木之本さんしかいないだろ?)
(木之本さん???まさか!木之本さんがあんな真似するはずないだろ!大道寺さんならわかるけど)
(いや、わからないぞ。オレ、前に聞いたことがあるんだ。木之本さんと大道寺さんて従姉妹同士なんだって。ひょっとしたらあの天使の笑顔の下には大道寺さんみたいな本性が隠されてるのかも・・・)
(あの木之本さんが・・・)


もやもやもや〜〜〜


☆・・・☆・・・☆・・・☆・・・☆・・・☆・・・☆・・・☆・・・☆・・・☆・・・☆・・・☆・・・☆・・・☆


『あはは〜〜〜。小狼く〜ん、情けない顔しちゃって可愛いよ〜〜。えい!』

ビシィッ!

『あぁっ!さくら様!』
『うふ、そうしてると小狼くん、狼さんって言うより子犬さんだね。えいっ!』

バシィッ!

『はい!わたしはさくら様の犬です!』
『あはははは〜〜〜。えい!えいっ!』

ビシィッ!バシィッ!

『あぅぅっ!さくら様!もっとこの卑しい犬を叩いてください!』


☆・・・☆・・・☆・・・☆・・・☆・・・☆・・・☆・・・☆・・・☆・・・☆・・・☆・・・☆・・・☆・・・☆


「みんな、どうしたんだ?急に前かがみになって」
「い、いや!なんでもない」
「そうか?まあ、いいや。先に上がるぞ」
「あぁ!お疲れ!」

級友達の熱視線に気づかず部室を去る小狼。
こうして学園最強カップルにまた新しい伝説が加わるのでした。

―――――――――――――――――――――――――――――――――

なお、その後小狼にはどう見ても男の字で書かれたラブレターが
さくらには『体力には自信があります!』『どんな責めにも耐えて見せます!』などという差出人不明の謎のラブレターが殺到したそうです。

END


ざわ・・・ざわ・・・
が書きたかった。
ただそれだけだったりします。

戻る