『わんこしゃおらん(小狼サイド)・その3』



こうしてオレは魔力を失ってしまった。
ホントにバカなことをしたもんだ。
こんなやつのために命にも等しい魔力を使い果たしてしまうなんて。
まったく、なんであんな馬鹿な真似をしてしまったのやら。
あの時のオレはどうにかしていたとしか思えない。

だけど、これだけは言える。
もしも、もう一度同じことが起きたとしたら。
あるいはあの時に戻れたとしたら。
オレは迷わずあの時と同じ行動をとっただろうということだ。
たとえその結果魔力を失うことがわかっていたとしてもだ。
これだけは間違いない。

なんでかだって?
そんなことオレに聞くな。
オレにもわからないんだから。
わからないけどオレはさくらを守る。
それがオレだ。
理由なんかない。

まあ、こんな風に考えられるようになったのも絶望的と思っていた魔力がある程度回復してきたせいもあるんだろうけど。
退院して戻ってきたさくらの生活には2つの新しい様式が追加された。
それがさっきの「ただいまの抱擁」とお出かけ前の「行ってきますの抱擁」だ。

「小狼くんの幸運をおすそ分けしてもらうんだから!」

だそうだ。
こっちとしては小っ恥ずかしいことこの上ないんだが、これがオレの魔力の回復につながったのだから世の中何が起きるかわからない。
強く純粋な魔力の持ち主であるさくらと直接肌をすり合わせることで、さくらの魔力が少しずつだがオレの中に流れ込んできたらしい。
さくらの魔力に刺激されてオレ自身の魔力も徐々にだが回復しつつある。
真の姿に戻るにはまだまだ足りないが、このままいけばいずれは元の力を取り戻せるだろう。
今もさくらの夢に侵入できるくらいには魔力が回復している。
もっとも侵入するのが精一杯でさくらを弄ぶところまでにはいってないのだが。
一度など侵入したのはいいものの逆にさくらの夢に取り込まれてしまい、一面のお花畑とお菓子の山の中でひたすらさくらとはしゃぎまくるという羽目になった。

「あははは〜〜小狼くん、こっちだよ〜〜」
「わ、わぅ! わぅわぅっ!」

あれは恥ずかしかったな。
女の子の世界は夢と恋と不安で出来てるなんて歌があったけど、こいつにはあてはまらないみたいだ。
こいつのおつむの中身はこんな能天気な成分でできてるのかと少し不安になったよ。

ふぁぁ〜〜ぁ。
それにしても眠いな。
魔力が足りないんで眠いったらありゃしない。
これももう少しの辛抱だ。
魔力さえ取り戻せばこっちのものだ。
またこいつを思う存分に弄んでやる。
今はしばしの休息の時だ。
オレは必ず復活する。
その時を楽しみに待ってろよ、さくら。

「小狼く〜〜ん。おねむですか〜〜」

あぁ、そうだよ。
眠いんだよ。
お前のせいでな。
だから静かに寝かせてくれ。

「ふふっ、小狼くんたら。わたしの膝の上、そんなに気持ちいい?」

あぁ。
とっても気持ちがいいぞ。
お前の膝の上は最高の寝床だ。
なんたって全ての魔力と引き換えに得た寝場所なんだからな。
あの事件で唯一オレが手にした報酬だ。
思う存分に堪能させてくれ。

「よしよし。ねんねんころりよ おころりよ〜〜」

だから子犬扱いするなって。
いいか。
オレはだな。
ふぁぁ〜〜ぁ。
むにゃむにゃ。
オレは代々、大陸の闇に覇を成してきた魔狼の一族の継承者でな。
だからお腹をなでなでするなって。
そんなので喜ぶのは子犬だけだって言ってるだろ。
気持ちいいけど。
むにゃむにゃ。
いかんいかん。
いいか、お前の出来の悪いお頭によく叩き込んでおけよ。
オレの名は小狼。
大陸の闇に代々、覇を成してきた魔狼の・・・・・・。

むにゃむにゃ。

魔狼の一族の後継者で・・・・・・

ふぁぁ〜〜。

お前ら人間なんか及びもつかない強大な・・・・・・・・・・・・

むにゃむにゃ。

強大な魔族の・・・・・・

すぅっ〜〜。
すぅ〜〜。
すぅ〜〜・・・・・・

「ふふっ。小狼くん寝ちゃったかな。やっぱり小狼くんは可愛いなあ」

END


しゃおらんいぬ、小狼サイドでした。
さくらサイドではやりたい放題の小狼でしたが、やはりさくらの掌の上で転がされる方が彼には似合いますね。

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