『真・白雪姫』 後編


世界迷作劇場その9 真・白雪姫 後編

キャスト
白雪姫:小狼
王妃様:山崎:
王妃様の付き人:千春、利佳、奈緒子
魔法の鏡:苺鈴
猟師:桃矢
7人の小人:知世
王子様:さくら

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「いててて。くそっ、まったく。なんでおれがこんな目にあわなきゃならないんだ」

なんとか一命をとりとめたものの誰もいない森の中に取り残されてしまった白雪姫は身に降りかかった不幸を嘆くのでした。
まあ、なんでかっていったらそういう星のもとに生まれてるからとしかいいようがないんですけど。
かわいそうな白雪姫です。
このままでは食べるものもみつけられず行き倒れになってしまいます。
なんとかしなければいけませんが、今までお城で暮らしてきた白雪姫がこんな森の中で自活できるわけもありません。
いくあてもなくよろよろとさまよう白雪姫でしたが、ついに力尽きてぱったりと倒れてしまいました。
白雪姫の運命もここまでか、と思われたその時。

「おや。こんなところにお人が」
「あら本当」
「しかも女の子ですわ」
「この辺は猟師もめったにいらっしゃいませんのに」
「いったい、どういうことなのでしょうか」

どこからともなく、わらわらと小人たちがあらわれたではありませんか。

「お、お前たちは?」
「わたしたちはこの森に住む小人ですわ。あなたこそどなたですの?」
「お、おれ、いやわたしは白雪姫だ」
「あら、あなたがあのお城の」
「おれのことを知っているのか?」
「ごぞんじですわ。お城にたいそう美しいお姫様がいると森でも話題になってますから」

これこそまさに天の助け。
行く場を失った白雪姫は事情を説明し小人たちに助けを求めます。

「そうでしたの。それは災難でしたわね」
「そういうことでしたらわたしたちの家にいらっしゃいな。かくまってさしあげますわ」
「あ、ありがたい」

こうして小人たちの家にひきとられた白雪姫ちゃん。
渡る世間に鬼はなし。
世の中、無情な人ばかりではありません。
……と言いたいところですが。

「白雪姫、こちらのお掃除はまだなの」
「は、はい。ただいま」
「白雪姫、今日のお昼はなにかしら」
「は、はい。今日のお昼は森のキノコのソテーです」
「白雪姫、肩がこりましたわ。ちょっと揉んでくださらない」
「はい、ただいま」
「白雪姫」
「白雪姫」
「白雪姫」
「は、はいっ!」

白雪姫をまっていたのはとんでもない重労働の日々なのでした。
小人さんたち、白雪姫をめっちゃこき使います。
それはもう、労働基準法があったら摘発間違いなしの厳しさです。
小人さんたちも白雪姫になんか含むところがあったんですかね〜〜。
時折、「わたしのさくらちゃんを……」とかいう声が聞こえたり聞こえなかったりするような。

まあ、それはともかく。
なんやかんやで白雪姫は一命をとりとめました。
それを知らない王妃様、また魔法の鏡を取り出して問いかけます。

「鏡や鏡、魔法のかかった不思議な鏡よ。世界で一番美しいのはだあれ?」

今度こそ自分が一番との答えを期待して待つ王妃様。
ですが、魔法の鏡の答えは。

「そんなの決まってるじゃない。小狼よ! 小狼こそ世界一の男の娘よ!」
「な、なんですって!?」

鏡の答えに王妃様はまたもビックリ仰天。
ここで王妃様は猟師が自分の言いつけを守らず、白雪姫が生き延びたことを知ってしまうのでした。

「くぅ〜〜、あの男〜〜。わたしをたばかったわね〜〜。やっぱり人任せじゃだめなようね。わたしがいかないと!」

そう言うと王妃様は黒いケープを頭からかぶり、手にはリンゴを入れた籠を持ってすっくと立ち上がるのでした。
いわゆるおとぎ話によく出てくる悪い魔女の恰好です。

「お〜っほっほほほほほ。今度こそ逃がさないわよ。覚悟おし白雪姫!」
(山崎くん、本当に魔女役が似あってるよね)
(うん、本当。やっぱりそういう気があるのかなあ。千春ちゃん、考え直した方がいいんじゃないの)
(だ、大丈夫、だよね?)

侍女たちの不安をよそに王妃様は意気揚々と森へと向かいます。
そしてたどり着いたのはひいこらいいながら水を汲む白雪姫のいる泉のほとり。
内心の殺意を巧妙な笑顔(いつも通りの糸目顔)に隠して白雪姫に話しかけます。

「ははは〜〜大変そうだね〜〜」
「大変なんてもんじゃないぞ。くそっ、大道寺のやつ無茶な要求ばかりしやがって」
「まあ、若いうちの苦労は買ってでもしろっていうからね〜〜」
「そんなのごめんだな。ところでお前は誰だ?」
「ぼく、いやわたしは旅のりんご売りだよ」
「りんご売り?」
「そう、りんご売りっていうのはね〜〜」

得意の話術で白雪姫の興味を惹きつける王妃様。
はたから聞いてると完全な駄法螺以外のなにものでもないのですけど、この白雪姫は人を疑うということを知りませんので。
真剣な顔で王妃様の話に聞き入っています。
なんというアホの子……いえ、純粋な心を持ったよい子なのでしょうか。

「というわけでね。昔から重労働の後はりんごってきまってるんだよ」
「そうだったんだ。知らなかった」
「で、ちょうどよくここにりんごがあるんだ。一つどう?」
「いいのか? 売り物なんだろう」
「一つくらいはいいよ。さ、どうぞどうぞ」
「悪いな。それじゃあ一つもらうかな」

ぱくっ!
むしゃむしゃ
ごっくん

「どう? お味の方は」
「ああ。とっても美味しいな」
「それはよかった。よく味わってね。……この世で最後の味をね!」
「最後? なんのこと……う、うっ!? な、なんだ? く、くるし……うぐっ!」

ばたっ

恐るべしは王妃様の毒りんご。
一口かじっただけで白雪姫はバッタリと倒れてしまいました。

「お〜〜ほっほっほ。とうとうやったわ! これで世界で一番の座はわたしのものよ! 女装No1も男の娘トップの座もみんなわたしのものよ! ほ〜〜ほっほっほ」

勝利の凱歌に酔いしれる王妃様。
なんかちょっと妙な願望が混じってる気がしますが。
やっぱり王妃様、その気があったんでしょうか。
千春ちゃんも大変ですね。

さて。
王妃様高笑いしながらが立ち去ってしばらくすると。

「白雪姫、白雪姫!」
「まったく、たかが水汲みにどれだけ時間をかけるつもりかしら。ほんとにとろい子ね」

いつまでも戻らない白雪姫を心配した(?)小人さんたちがやってまいりました。
そこで小人さんたちが目にしたのは泉のそばに倒れ伏す白雪姫の姿。

「白雪姫!」
「どうしたのです、白雪姫」
「まあ、大変! 白雪姫、脈がありませんわ」
「えぇっ」
「なんということでしょう」

非業な運命の凶弾に倒れた白雪姫を憐れんで、心優しい小人さんたちは悲しみの声を上げます。

「これは困りましたわね。ようやくいい丁稚を見つけたと思いましたのに」
「ほんとに困りますわ。明日からの水汲みはどういたしましょうか」
「白雪姫、力だけは一人前でしたからね」
「あら、お掃除も上手でしたわ」
「ほんとにいい下働きでしたのに。困りますわね」

……。
え〜〜っとですね。
こ、これはきっと深い悲しみを隠すための方便なんですよ。
心優しい小人さんたちのことですから、そうでもしないと悲しみにとらわれてしまうからなんですよ。
うん、きっとそうに違いない。
小人さんが労働力の低下だけを残念がってるように見えるのは気のせいだ!

まあ、そんな感じに小人さんたちが白雪姫の運命を嘆き悲しんでいるその時。
かっぽかっぽと足音高い馬に乗ってあらわれたのは隣の国の王子様。
これまた衣装の方はキリっときまっていますがお顔の方はなんとも可愛らしい王子様です。
白雪姫とはいい感じにつり合いがとれてるような気がします。
たおれた白雪姫をとり囲んでざわめく小人さんを不思議に思ったのか、王子様は小人さんんに声をかけるのでした。

「こんなところでなにをしてるの?」
「それが実は……」

小人さんは王子様にこれまでのことを話します。
と言っても、王妃様と白雪姫のやりとりを見てたわけではないので、水を汲みに出した白雪姫がバッタリ倒れていたというくらいの情報しかありませんが。
もちろん、白雪姫に課した重労働については話すはずもありません。
実にしたたかな小人さんです。

「ふ〜〜ん、そうなんだ〜〜」
「ほんとうに何があったんでしょうか。朝まではピンピンしてましたのに」
「最近は若い人の突然死が問題になってるとか新聞にものってたしね〜〜。こんなに可愛いのに、可哀想に……」

小人さんたちのそれと違って本当に悲しそうな声を上げる王子様です。
この王子様は本当に優しい心の持ち主で、見ず知らずの女の子の不幸にも悲しまずにはいられない子なのです。
腹黒い小人さんたちとは違って。とは言いませんが。

「ほんとにこんなに可愛いのに……」

王子様は倒れた白雪姫のお顔をさすりながら嘆きます。
どうやら、一目で白雪姫の美貌に心を奪われてしまったようです。
それほどに白雪姫は可愛いのです。
王子様の可愛さもこれも白雪姫に負けず劣らずの可愛さで、二人がこうしていると本当におとぎ話の世界から抜き出してきたかのような可愛らしい光景です。

「ほんとうになんて可愛いお姫様……」

横たわる白雪姫の頭に顔をよせていく王子様。
これにはポックリいったはずの白雪姫もドッキドキ。

(うぅっ、さくら、近い近い!)

恥ずかしそうにぎゅ〜〜っと目を閉じてますけど、これはもう、おとぎ話のお約束のアレを期待している顔です。
そう、例のアレ。
非業に倒れたお姫様が王子様のキスで目をさますってやつ。
じょじょに近づいていく二人のくちびる。
白雪姫の止まったはずの胸はドッキンドッキンしっぱなし。
二つのくちびるが触れ合うのももうあとわずか。

……と思われたその時。

「でも、こうなちゃったらもうしょうがないよね。みんなでお墓を作ってあげようよ」
「そうですね。そうしましょうか」
(え? え? えぇ〜〜っ!?!?!?)

実に常識的な提案をする王子様。
待ってましたと言わんばかりにお墓を彫りはじめる小人さんたち。

ざっく。
ざっく。
ざっく。

「さあ、王子様。穴が掘れましたわ」
「うん。じゃあ可哀想なお姫様。安らかに眠ってね。よいしょっと」
(や、やめろ〜〜! さ、さくら〜〜!!)

こうしてあっという間に埋葬されてしまった白雪姫。
ま、そりゃあそうですよね〜〜。
常識的に考えたらいくらキレイなお姫様だからって、ポックリいってる子にキスなんかしようとしませんよね〜〜。
普通は。
この王子様は変態目白押しのこの作品中で唯一の常識人とか言われている子ですから。
こうなるのもしかたないですね〜〜。

「あんなにキレイなお姫様だったのに残念だな〜〜」
「悲しんでいてもしかたありませんわ」
「そんなことよりも王子様、わたしたちの家にいらっしゃいませんか」
「美味しいお菓子がいっぱい用意してありますわ」
「ほんと? 行く、行く! うわ〜〜楽しみだな〜〜」
「でわ、まいりましょうか」
「うん!」
(ちょ、ちょっと待て〜〜!! さ、さくら〜〜、行かないでくれ〜〜)

………………………
………………
………

こうして哀れ、お星さまになってしまった白雪姫。
でも、そのおかげで王妃様の癇癪もおさまりましたし、王子様は小人さんたちという素敵なお友達にも出会えましたし、ぼちぼちというところでしょうか。
めでたし、めでたし?

END


ふぅ。
やっぱここのお話はこうでないとあかんな。
小僧が女装してえらい目にあう。
これぞまさにCLAMPの世界観を忠実に再現、ちゅうやつやな。
CC旧作でもツバサでも堀鍔でも小僧の女装はばっちしやったからなあ。
新作でも期待しとるで〜〜。

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