『わんこさくら物語・おまけ編』
おやすみの二人
「さて、どうしたものかな」
小狼くんはちょっと難しそうな顔で部屋の中を見回していました。
何かを探しているみたいですね。
一体、何を探しているのでしょう。
しばらく、部屋の中に視線をさまよわせていた小狼くん、あるところで目を止めると
「これにするか」
そう言いながら棚から一つの籠を取り出しました。
少し大きめの竹製の籠です。
取り出した籠の中に今度はタオルケットを敷き詰めます。
そして、最後に小さなクッションを置きました。枕のつもりでしょうか。
パッと見、ちょっとしたベッドのみたいな感じですね。
「こんなものか。これならさくらも気に入ってくれるかな」
そうです。
小狼くんが作っていたのはさくら用のベッドだったのです。
夜も遅くなってきたのでそろそろさくらを寝かせようかと思った小狼くん、そこではたと気がつきました。
さくらをどこで寝かせたらいいんだろう??
あの知世ちゃんのことです。
さくらを床でゴロ寝させてるとは思えません。
きちんとした寝床を用意しているはずです。
こちらもちゃんとした寝床を用意してあげたいところですが、ではどんな寝床がいいのかというと犬も猫も飼ったことのない小狼くん、サッパリ見当がつきません。
しばらく考えた末に辿り着いたのがこの籠ベッドなのでした。
思いつきで作ってみたのですが、けっこういい感じです。
大きさも丁度よさそうですし、何よりこの中でさくらが丸まって寝ているところを想像すると胸の奥にほんわかしたものが浮かんできます。
これなら、と思ってさくらを呼んでみた小狼くん。
「さあ、さくら、これが今夜のお前のベッドだよ」
「むぅぅ〜〜〜〜」
でも、さくらはあんまりお気に召していないみたいです。
手で(足で?)ツンツン籠をつつきはしますが、中に入ろうとはしません。
ちょっと不機嫌そうな顔をしています。
そして、時折、小狼くんの方に切なそうな視線を向けてくるのでした。
これには小狼くんも困ってしまいます。
一体、何が気に入らないのでしょうか。
「まいったな。一体、何が気に入らないんだ。大道寺はいつもお前をどんなところで寝かせてるんだ?」
と、知世ちゃんのことを考えたところで、小狼くんの頭の中にピーーンと閃くものがありました。
そうです。
さくらを溺愛してやまない知世ちゃんです。
あの知世ちゃんならばこんな時はおそらく・・・・・・
そう思ってさくらを抱き上げ、ヒョイッと自分のベッドの上に放してみます。
すると案の定。
「わん! わんわん! ♪♪〜〜♪〜〜」
大喜びでベッドの上をはしゃぎ回り始めました。
そして、ひとしきりはしゃぎ終わるとポテッと横になり、ペシペシと枕を叩いて小狼くんを催促します。
「わぅわぅ!(しゃおらんく〜〜ん、はやく、はやく〜〜。一緒に寝ようよ〜〜)」
「ハァ。やっぱりそうか。大道寺のやつ、お前を甘やかしすぎじゃないのか」
どうやら知世ちゃん、いつもさくらを抱っこしてオヤスミしているみたいですね。
小狼くんもここまで催促されては、そうしないわけにはいきません。
「しょうがないな。今晩だけだぞ」
「わぅ!」
やれやれ、といった感じで布団に入る小狼くん。
その肩にびったりとしがみつくさくら。
「わんわん!」
「こらこら。寝る時くらい大人しくしてろ」
「わぅ!」
布団の中で全身に、肩に自分とはちがう温もりを感じあう一人と一匹。
(しゃおらんくんの肩、知世ちゃんよりおっきくて、ゴツゴツしてる。でも、なんでかな。とっても安心できるよ・・・・・・不思議。知世ちゃんよりおっきいからなのかな・・・・・・)
(こいつ、あったかいな。仔犬だからか。あったかくて、ふわふわして、ちいさくて・・・・・・なんか不思議な感触だな)
やがて聞こえてくる二つの安らかな寝息。
すぅーーっ、すぅーーっ
すぅーーっ、すぅーーっ・・・・・・
今夜はとってもいい夢がみれそうです・・・・・・
おしまい
わんこさくら物語でした。
このお話はちょっと特殊な経緯がありまして、もとになっているのは拍手お礼用に書いた「花咲か爺さん」です。
それをプチオンリー用にキャストを変更した「愛・花咲か爺さん」を書いて他の2つの作品と一緒に発表しました。
でも、「愛・花咲か爺さん」だけプチオンリーでほとんど手にとってもらえなかったんですよね・・・・・・
タイトルがイロモノすぎたのがいけなかったのでしょうか。
ちょっと悲しかったので、設定を変更して書き直したのが今回のわんこさくら物語です。
プチオンリーで購入された方はどこが変わっているか見比べてみてください。