『小狼がんばる』
※注意
本作はパラレルものです。
小狼−高校生
さくら−小狼に拾われた子犬
という設定です。
本作はかけるんworld(翔様)の「さくらいぬ」シリーズより原案を頂いています。
読まれる前にかけるんworldのトップページ→いぬごや→おはなしから
さくらいぬシリーズの小説と翔様の描かれる『子犬のさくら』のイラストを
ご覧になることをお勧めします。
ある日の昼下がり。
山崎くんはデパートの本屋で見知った顔を発見しました。
同級生の李小狼くんです。
なにやら一生懸命本を探しています。
あんまり熱心に探しているようなので、気になって声をかけてみました。
「李くん。そんなに熱心にいったい何を探してるの?」
「山崎か。いや、ちょっとな」
「ちょっとってその本・・・『ペットのしつけ』?そういえば李くん犬を飼ってるんだっけ」
「あぁ。それでしつけの参考になりそうな本を探してたんだ」
「ふ〜ん。でも李くんが犬を拾ったのってずいぶん前の話だよね?なんで今さらそんな本を?」
「それがな・・・」
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李小狼は考える。
自分の部屋を眺めながら考える。
ボロボロになったカーテンの裾を。
原型をとどめていないティッシュケースを。
まき散らされたその中身を。
傷だらけになった椅子の足を。
その他もろもろの惨状を見ながら考える。
自分はさくらを甘やかしすぎたのではないかと・・・
ある雨の日、桜の木の下から拾ってきた子犬、さくら。
わがままで甘えん坊で、そのくせひどくさびしがり屋の子犬。
今では小狼にとってなくてはならない大事な家族、いやそれ以上の存在です。
さくらのご飯の用意をして、お風呂に入れてあげて、寝かせてあげて・・・なんでもない1つ1つのことが今の小狼には本当に楽しいのです。
さくらが来る前には考えられなかったことです。
さくらが来てから小狼自身も
「李くん、最近よく笑うようになったね」
などと山崎くんに言われるようになりました。
それほど小狼にとってさくらの存在は大きなものなのです。
・・・だからでしょうか。
どうもわんちゃんを飼う際には大事な「しつけ」の部分がおろそかになっていたようです。
なにしろさくらは初めて小狼のマンションに連れてこられた日から大暴れして小狼を苦笑させたほど元気いっぱいの子です。
ですので本来ならばきちっとしつけをしなければいけなかったのですが、これまで少しおろそかになっていました。
まあ、これにはいろいろと理由もあります。
まだ学生の小狼は平日の日中帯は家にいられません。
そのため、どうしてもさくら一人(一匹?)で家にいる時間が多くなります。
これまでは
「さくらも一人でお留守番で寂しいだろうからな。少しくらいは大目に見てあげないと」
と思って多少のいたずらには目をつぶってきました。
が、怒られないのをいいことにさくらの狼藉は次第にエスカレートしていきます。
その結果がごらんの通りの惨状です。
(これは・・・さすがにマズイな・・・)
というわけで冒頭のようにペットのしつけについての本を探すことになったのです。
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「なになに・・・わんちゃんが言うことを聞いたらちゃんとほめてあげましょう?逆に悪いことをした時はきっちりと叱らなければなりません?ふむふむ」
「物を壊したり、傷つけたりした時は壊した物の前で叱って二度と壊さないように教えなければいけません・・・」
「どうしても言うことを聞かない時にはキツイおしおきも必要です?・・・おしおきか・・・あまり気が進まないけど・・・いや、これもさくらのためだ!」
もともと勉強熱心な小狼くん、買ってきた本を隅から隅まで読んでわんちゃんのしつけについて学んだようです。
「よし、さっそく実践だ!さくら!こっちに来なさい!」
パタパタパタ〜〜〜
一声かけるとさくらは飛ぶようにして小狼の前にやって来ました。
(わ〜い、小狼くん、なに?なに?今日は何して遊ぶの?)
とお目々をキラキラさせて小狼を見つめます。
出ました!
さくらお得意の「無邪気なおねだり」攻撃です。
かつてこの攻撃の前に幾度敗れ去ったことでしょう。
(う・・・いや、今日こそはきちんとしつけなければダメだ!)
小狼くん、頭を振ってからくもこの攻撃をかわすことに成功しました。
「さくら!ティッシュケースで遊んじゃダメだって前にも言ったろう!いいか、もう二度とこれで遊んじゃダメだぞ。わかったか?」
(ほえ?なに?今日はそれで遊ぶの?わ〜いあそぼ〜!)
・・・馬耳(犬耳?)東風。
ぜんぜん聞いてません。
それどころか遊んじゃダメと言われたばかりのティッシュケースに飛びかかってガシガシ叩き始めました。
「あ、こら!さくら!ダメだって言ってるだろう!」
と言って取り上げると
(あ、小狼くんもそれで遊ぶの?さくらといっしょだ〜。わ〜い!)
とさらに飛びかかろうとする始末です。
(うっ・・・ダメだ全然聞いてない。こういう時は・・・)
―――どうしても言うことを聞かない時にはキツイおしおきも必要です―――
(おしおきか・・・気は進まないけど仕方ないな)
「さくら!」
意を決して怖い顔でさくらを睨みつけます。
そして
パシッ
軽く、ほんとうにごく軽くですがさくらのお尻を叩きました。
「いいか、さくら!これはさくらのオモチャじゃないんだ。もう二度とこれに悪さをしちゃいけないぞ。わかったか、さくら。・・・?さくら・・・?」
小狼に叩かれたさくらは、一瞬ポカンとした表情で小狼を見上げました。
(小狼くんに・・・ぶたれた?)
小狼に叩かれたことが信じられない、といった顔です。
それがやがて
(小狼くんが怖い顔して・・・さくらのことぶった・・・小狼くん、さくらのこと、もう嫌いになったの・・・?さくら、小狼くんに嫌われちゃったの・・・?)
という顔に変わりました。
可愛いお目々に大粒の涙が浮かびます。
それはあっという間にぽろぽろとこぼれ落ちていきました。
(小狼くんに嫌われた・・・もう小狼くんといっしょにいられない・・・小狼くんと・・・)
〜〜〜!!!
「無邪気なおねだり」攻撃のさらに上をいく「さくらの涙ぽろぽろ」攻撃。
さくら最強の必殺技が炸裂です。
これに小狼は・・・
(こ、ここで甘い顔をしたらしつけにならない・・・ここで甘い顔を・・・ここで・・・やっぱりダメだあぁ〜〜〜)
ガバッ!
「ごめんなさくら。痛かったろう。叩いてごめんな」
あえなくKO。
さくらを抱きしめて逆に謝ってしまいました。
ここは心を鬼にして悪いことは悪いと教えなければならないところなのですが・・・
・・・ダメ飼い主決定。
こうなるとさくらは
(ほえ?小狼くん・・・やっぱりさくらと遊びたいの?わ〜いわ〜い)
とまたもや小狼の手にあるティッシュケースに飛びかかってしまいました。
当然、怒られたことも叩かれたことも、小狼に抱きしめられた瞬間にキレイさっぱり忘れてます。
おつむが小さいのでしょうがないですね。
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1時間後、遊び疲れて気持ちよさそうに眠るさくらとさらにボロボロになった部屋を見つめてガックリと肩を落とす小狼の姿があるのでした。
(※わんちゃんを叱る時はわんちゃんが悪いことをしたその時に叱らなければダメだそうです。
小狼のように後になってから叱っても、わんちゃんは何を叱られてるのかわからないため意味がないそうです)
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翌日。
山崎くんはまた同じ場所で李くんを見つけました。
「李くん、なにやってんの?まだしつけの本を探してるの?」
「なになに・・・悪いことをした時には叩くことも必要です?ダメだダメだそんなのは。こっちの本は・・・え〜っと・・・わんちゃんには優しく接してあげましょう?ほめる時にはご褒美もいっしょにあげましょう?ふむふむ・・・」
「李くん・・・?」
小狼くんはまたしつけの本を探してるみたいです。
でも、どうやら判断基準が「いかにペットに優しいか」に変わってしまっているみたいですね。
さくらのしつけは当分無理そうです・・・
END
本作品はかけるんworld様の「さくらいぬ」シリーズより原案を頂いています。
翔様にリンクしていただいた記念に書き上げました。
翔様、ありがとうございました。