『さくら風邪をひく』


※注意
本作はパラレルものです。

小狼−高校生
さくら−小狼に拾われた子犬

という設定です。

本作はかけるんworld(翔様)の「さくらいぬ」シリーズより原案を頂いています。
読まれる前にかけるんworldのトップページ→いぬごや→おはなしから
さくらいぬシリーズの小説と翔様の描かれる『子犬のさくら』のイラストを
ご覧になることをお勧めします。



「じゃあ、行ってくるからな。・・・?さくら?」

玄関で振り返った小狼は後ろにさくらが来ていないことに気づきました。
いつもなら小狼が学校に行く時は必ずお見送りにきます。

『いってらっしゃ〜い。早く帰ってきてね!』

とでも言うように可愛いしっぽをふりふりしながら小狼を送り出すのがさくらの日課です。
でも、今日は見送りにきていません。

(おかしいな。・・・そういえば、朝ご飯もあんまり食べてなかったみたいだけど)

思い出してみると、昨日からあまり元気がなかったような気がしてきました。
朝ごはんもいつもはお皿まできれいに舐めとってしまうほどの食いしん坊ですが、今朝は半分以上残していたような気がします。
ひょっとしてどこか具合が悪いのでは・・・?
小狼は不安になってきました。

「さくら・・・?さくら!」

いつもなら小狼が呼びかければどこにいてもダッシュで駆け寄ってくるのに、今日はなんの返事もありません。
やはりなにか変です。
小狼はあわてて部屋に戻りました。

「さくら!」

いました。
さくらは台所の床にうずくまるようにして倒れていました。

「さくら!おい、さくら!どうした!」

小狼が抱き起こすとさくらは苦しそうに目をあけて、それから少しだけうれしそうな顔をしました。

「くぅん・・・」

小狼の腕に顔をこすりつけて甘えたような鳴き声をあげます。
でも、その顔はまっ赤です。
いつもはしっとり濡れているお鼻もカラカラに乾いてしまっています。
小さなおでこに手をあてるととても熱くなっていました。

「こんなに熱が!さくら、すぐに病院に連れて行ってやるからな!」


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「次の方、どうぞ〜」

小狼は大急ぎでさくらを『月城動物病院』まで連れてきました。
今日は学校で大事な試験があったのですが、そんなものにはかまっていられません。
苦しむさくらをおいて出かけるなど小狼には考えることもできないのです。
早くさくらを診てくれと願っているのですが、最近風邪がはやっているせいかなかなか順番が回ってきません。

(くそ!早くしてくれ!)

小狼は気が気ではありません。
少しでもさくらの苦しみをやわらげてあげたい・・・そう思って膝の上に抱えたさくらのお腹を優しくなでてあげながらひたすら順番を待っています。
一方、さくらは

(頭がいたいよ・・・気持ちわるいよ・・・でも・・・でも・・・)

(小狼くんがいっしょにいてくれるよ・・・・・・小狼くんの手あったかいよ・・・・・・)

頭が痛いことよりも、気持ち悪いことよりも、何よりも『小狼がいっしょにいてくれる』ことがうれしいみたいです。
いつも昼間、一人ぼっちでお留守番をしなければいけないのがよっぽどさみしかったのでしょう。


そうして30分も待ったころ、

「次は李さん、どうぞ〜」

ようやくさくらの順番が回ってきました。
診察室に入ると、眼鏡をかけた優しそうなお医者さんがさくらを診てくれました。
口の中を見たり、聴診器をあてたりして診察しています。

(神様・・・さくらを・・・さくらを助けてください!)

必死で祈り続ける小狼の頭の中では、これまでさくらと過ごした時間が浮かび上がっていました。

雨の中、桜の木の下で始めて出合った日。
お風呂に入れてあげた時のうれしそうな顔。
公園に連れて行ってあげた時のこと。

そんなさくらの姿が頭の中でグルグル回っています。
もしも、さくらがいなくなってしまったら・・・

(いやだ!オレにはそんなの耐えられない!)


「李さん」

どれくらい時間がたったのでしょうか。
診察が終わったようです。
お医者さんに呼びかけられて、小狼はハッとして顔をあげました。

「先生!さくらは大丈夫なんでしょうか」
「たいしたことはありません。ちょっと風邪をひいただけですよ」
「風邪・・・ですか」
「念のため注射をうっておきますがそれほど心配はいらないでしょう。あとはお薬を出しておきますので食事に混ぜて飲ませてあげてください」

たいしたことはない、と言われて小狼もようやく安心しました。
ですが、いつもは注射と聞いただけで大騒ぎをするさくらが、無抵抗で注射されているを見るとまた胸が痛くなってきます。
注射を嫌がるだけの元気も無いのか・・・そこまで具合が悪くなっていたのになんで気づかなかったんだ・・・そう自分を責めてしまうのです。


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(あれ?ここ、どこだろ?)
「さくら。気がついたのか」
(小狼くん!ほえ?わぁ・・・小狼くんのだっこだぁ・・・)

病院からの帰り道、さくらは小狼の腕の中で目をさましました。
注射が効いたのか、少し顔色もよくなってきたようです。
もっとも、『大好きな小狼くんのだっこ』よりもさくらに効くお薬はないでしょうが。

(小狼くんのだっこ、久しぶりだよ・・・)

最近はしつけのためか、小狼はあまりだっこしてくれません。
散歩の時もさくらを歩かせるようにしています。
なので久しぶりのだっこにうれしくなってしまい、ぎゅ〜っと小狼に抱きついてしまいました。
ですが、抱きつかれた小狼の方は

(こんなに強く抱きついて・・・かわいそうに、よっぽど辛いんだな・・・・・・)

と思ってしまいます。そのため、

「さくら、ゴメンな。お前の調子が悪いのに気づいてあげられなくて」

と謝ってしまうのでした。
そんな小狼とはうらはらに、

(小狼くんなんであやまるの?小狼くんは何もわるいことしてないよ。それに・・・今日はずっといっしょにいてくれたもん!)

小狼と一緒にいられる、ただそれだけで嬉しさいっぱいのさくらなのでした。


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(小狼くん、お腹へったよ〜〜〜ごはん、ごはん!)

夜になるとさくらはすっかり元気になりました。
もともと元気いっぱいのさくらなので風邪の治りも早いのでしょう。
そうなるとお腹の虫がぐーぐー鳴り出します。
今日は朝ごはんもあまり食べなかったし、お昼も病院に行っていて食べられなかったので無理もありません。
はやく、はやく!と小狼のズボンの裾をひっぱって催促を始めました。
さくらの元気な姿を見て、小狼も一安心です。

「さくら、元気になったんだな。よかった・・・待ってろ、すぐにご飯を作ってやる」

今日始めての笑顔を見せながら、台所に向かいました。
しばらくすると、さくらの前においしそうなおかゆが出てきました。

(わーいっ、いっただっきま〜す!ぱくっ!もぐもぐ・・・おっいし〜〜〜!!!)
「おいおい、そんなにがっつくなよ。もっとゆっくり食べなきゃだめだぞ?」
(だってお腹がすいてるんだもん。ゆっくり食べてなんかいられないよ。それに小狼くんのご飯、とってもおいしいんだもん!)

よほどにお腹が空いていたのでしょう。
少し多めによそってあったおかゆはあっという間になくなってしまいました。

「これならもう大丈夫だな。本当に良かった・・・・・・ん?」

お皿を片付けようとした小狼は、お皿の上にピンク色の小粒が残っているのに気づきました。
月城病院のお医者さんにもらった薬です。
食事に混ぜて飲ませてあげてください、と言われていたのでおかゆに混ぜておいたのですがさくらは薬だけ器用により分けて残したようです。
こいつ、いつもは不器用なくせに・・・小狼ははーっと脱力のため息をもらしてしまいました。

「さくら、お薬はちゃんと飲まないとダメだぞ。また風邪になっちゃうぞ」

と優しく諭すのですが、

(いや!それ、おいしくない!へんな味がする!)

さくらはぶんぶんと首をふって嫌がります。
なんとか飲ませようとしたのですが、堅く口を閉ざして飲もうとしません。

「まったく、しょうがないな」

頑固なさくらにがっくりと肩を落とす小狼です。
しばらくそのまま何か考え込んでいましたが、何を思ったのか薬を自分の口に含みました。

(?それ、小狼くんが代わりに飲むの?え?小狼くん?あれれ?)

???と思っているうちにさくらは小狼に抱えあげられてしまいました。
そして、さくらの顔に小狼の顔が近づき・・・


ちゅっ


(!?ほ、ほえぇぇ〜〜〜〜〜〜!!!小狼くんとキ、キスしてるよ〜〜〜!!!)

小狼とキス。
これにはさくらもびっくりです。
小狼はさくらが目をぱちくりさせて驚いている隙に、舌でお薬をさくらの口の中に押し込みました。
さすがに小狼から口移しで渡されたものを吐き出すようなことはできません。

こくっ、こくっ

ようやく、さくらはお薬を飲むことができました。

「いい子だ・・・さくら」

そう言う小狼の顔は少し赤くなっています。
さくらの顔もまっ赤ですが、これは風邪がぶり返したわけではないでしょう。

「少し早いけどもう寝るぞ、さくら」
「わぅっ!」

・・・その夜、二人はとても幸せな夢を見ることができました。


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翌朝。

「さくら、行って来るぞ。・・・?さくら?」

昨晩の様子からもう大丈夫だろう、と判断した小狼は今日は学校へ行くつもりでした。
留学生の小狼はあまり学校を休むわけにはいかないのです。
ですが、今朝もさくらは見送りにきません。

(まさか、まだ治りきってなかったのか?さくら!)

あわてて部屋に戻ると、さくらは昨日と同じように台所の床に倒れていました。

「さくら!やっぱり、まだ治ってなかったのか。しっかりしろ、さくら!・・・・・・ん?さくら?」

・・・?
なにか変です。
昨日と違ってご飯のお皿はきれいに空になっています。
ぎゅ〜っと目を閉じてますが、顔色はとてもいいみたいです。
可愛いお耳もピンと立っていますし、しっぽも元気いっぱいふりふりしています。
なによりもお口が・・・

「ちゅー」

の形にとんがって何かを待ってます。

「・・・・・・。さくら・・・お前、ひょっとして仮病か?」
(けびょー?けびょーじゃないよ、さくら風邪だよ〜。小狼くんがキスしてくれたら治るよ〜〜〜。はやく、はやく〜〜〜)


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「おはよう李くん」
「あぁ、おはよう山崎」
「昨日は休んでたけど大丈夫?なんか今日も顔が赤いけど」
「(かぁぁぁ〜〜〜!)は、走ってきたんだよ!遅刻しそうだったからな!」
「ふ〜ん?そうなの」

さくらの「キスおねだり攻撃」をどのようにかわしてきたのか・・・?
それは神のみぞ知る・・・

END


本作品はかけるんworld(翔様)のさくらいぬシリーズから原案を頂いています。
自分はさくらいぬシリーズが非常に好きだったのでなんとかさくらいぬの話を書いてみたいと思っていました。
さくらいぬシリーズ、是非とも翔様のサイトでご覧になってください。

この話、もともとは昨年のチェリーダンス用に考えたものだったのですが、投稿作品の題材を他のサイト様から拝借するのもおかしいかと思って送らなかったものです。
今回、翔様の許諾を得られましたので掲載しました。
翔様、ありがとうございました。

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