『さくらと初夢』


※注意
本作はパラレルものです。

小狼−高校生
さくら−小狼に拾われた子犬

という設定です。


「さくらちゃん、あけましておめでとうございます」
「わん!」
「ふふっ、今年もよろしくお願いしますわね」
「わぅ!」

わ〜〜い、お正月だ〜〜。
よくわかんないけど、おめでたいなあ〜〜。
知世ちゃんのお部屋はとっても大きくて、オモチャもいっぱいあるし。
知世ちゃんはやさしいし。
おうちの人もみんなさくらにやさしくしてくれるし。
食べ物もとってもおいしいし。
知世ちゃんはさくらといっぱい遊んでくれるし。
ほんとにお正月はおめでたいなあ〜〜。

これで小狼くんがいたら言うことなしだったんだけどね……。

でも、しょうがないよね。
小狼くんは今、小狼くんの本当のお家に帰ってるんだもん。
知世ちゃんが教えてくれたの。
小狼くんの本当のお家はとっても遠いところにあって。
小狼くんはそこから一人でこの町に来てるんだって。
こーかんりゅうがくせいって言ってたっけ。
よくわかんなかったけど、とっても頭がよくないとなれないんだよ。
やっぱり小狼くんはすごいなあ。
すごいって言えばお家をはなれて一人で遠いところに住んでるっていうのもすごいよね。
小狼くんのほんとうのお家には小狼くんのお母さんとお姉さんもいるって言ってたけど。
小狼くんはお母さん、お姉さんとはなれて一人で住んでるんだよ。
すごいよね。
わたしはぜったいにそんなのできないよ。
小狼くんとはなれて一人っきりになるなんて絶対無理。
去年のお正月がそうだったもん。
去年のお正月も小狼くんがお家に帰るから知世ちゃんのお家にいたの。
最初はみんなが遊んでくれてとってもうれしかったんだけどね。
夜になっても小狼くんが迎えに来てくれなくて。
次の朝になってもやっぱり小狼くんが迎えに来てくれなかった時、悲しくて泣いちゃったの。

「うぇ〜〜ん、小狼くん、小狼く〜〜ん。小狼くん、どこ行っちゃたの? 小狼く〜〜ん」
「あらあら、さくらちゃん。よしよし。泣かないでくださいな、さくらちゃん」
「知世ちゃ〜〜ん。小狼くん、どこ行っちゃったの〜〜? なんでさくらを迎えに来てくれないの? さくら、小狼くんに嫌われちゃったの?」
「そんなことありませんわ。さくらちゃん、李くんがさくらちゃんを嫌いになるなんてあるわけないでしょう?」
「でも〜〜」
「李くんは今、李くんの本当のお家に帰られてますわ」
「わぅ? 小狼くんの本当のお家?」
「そうです。李くんの本当のお家はとっても遠いところにあるのです。李くんはそこから一人でこの友枝町に来られてるのですわ」
「遠いところから一人で?」
「そうですわ。李くんの本当のお家には李くんのお母様やお姉様もいらっしゃいます。李くんはお母様、お姉様とずっと離れて過ごしていらっしゃるのです。お正月くらいは一緒にしてさし上げませんと」
「わぅ〜〜」
「さくらちゃん、お正月くらいは李くんをお母様、お姉様におあずけいたしましょう。心配しなくても明後日には帰られますわ」
「明後日かあ〜〜」
「待ちきれませんか? ふふっ、そう心配なさらなくても李くんもさくらちゃんの声をお聞きしたいでしょうから。きっと、もうすぐ電話がかかって来ますわ」
「わん!」

知世ちゃんが言ったとおり、その後すぐに小狼くんからお電話があってね。
小狼くんのお声が聞けたんだよ。

「さくら。元気にしてるか」
「わん!」
「元気そうだな。でも、あんまり元気すぎて大道寺のやつに迷惑かけてないだろうな」
「わ、わん!」
「明後日まで帰れないけどガマンしてくれ。すまないな」
「わん!」
「よし、いい子だ。また明日も電話するから。いい子で待ってるんだぞ」
「わん!」
「李くん、心配なさらなくてもさくらちゃんはお元気ですわ。でも、李くんに会えなくてちょっぴり寂しそうですけど」
「大道寺もすまないな。悪いけど、さくらのやつをよろしく頼むよ」
「はい。おまかせくださいな」

去年はそんなことがあったの。
今年も小狼くん、お正月はお家に帰ってるよ。
でも、もう今年は泣いたりしないんだから。
小狼くんはすぐに帰ってきてくれるってわかってるから。
それに、小狼くんはお母さん、お姉さんとずっとはなれて暮らしてるんだもん。
さくらだって、少しくらいガマンしなくちゃ。
ちょっぴりさみしいけどね。

「さあ、さくらちゃん。さくらちゃん用におせち料理を用意しましたわ。めしあがれ」
「わん!」

知世ちゃんもいるもん。
少しぐらいガマンできるよ。
明後日には小狼くん、帰ってくるし。
それに、知世ちゃんのお家は面白いオモチャがいっぱいあるもんね。
知世ちゃんのお家はオモチャ屋さんなんだって。
だからめずらしいオモチャがいっぱいあるんだよ。
小狼くんはあんまりオモチャ買ってくれないからなあ。
さ〜〜て、今日はどのオモチャで遊ぼうかなあ〜〜。

―――――――――――――――――――――――――――――――――

ふぅ。
今日も一日、よく遊んだなあ。
お料理もいっぱい食べたし。
ちょっと食べすぎちゃったかな?
知世ちゃんのお家にくるとお料理がすごいいっぱい出てくるんだよね。
小狼くんは太るからってあんまいいっぱい出してくれないからついつい食べちゃう。
ふぁぁ〜〜ぁ。
食べたら眠くなってきちゃった。
むにゃむにゃ。
今日はもう、おやすみしようかな。

「あら、さくらちゃん。もうおやすみですか」
「わぅ!」
「今日も一日元気でがんばりましたものね。よく眠れそうですわね」
「わん!」
「そうそう、さくらちゃん。初夢というのをご存知ですか」
「わぅ?」
「文字通り、年の初めに見る夢ですわ。年の初めに見る夢はその年の運勢を示していると言われてますの」
「わぅ〜〜?」
「いい夢を見ればその年は一年、いい年になるそうですわ。さくらちゃんもいい夢が見られるといいですわね」
「わん!」

いい夢かあ。
どんなのがいい夢なのかなあ。
あ、そんなのきまってるか。
小狼くんの夢だよね!
よ〜〜し、がんばって小狼くんの夢を見るぞ〜〜。
むにゃむにゃ……

………………………
………………
………

―――――――――――――――――――――――――――――――――

………うぅ、ん?
あれ?
ここ、どこかな。
公園、だよね。
いつも小狼くんに連れてきてもらってる公園。
だけど、なんか変だなあ。
どこかおかしいような?
あ、わかった。
高さがちがうんだ。
高いところから見てるからだ。
小狼くんにだっこされてる時みたいな感じ。
でも、今わたし、だっこされてないよね。
自分の足で立ってるもん。
ん? 足?
あれ?
あれれ?
わたし、足で立ってる?
人みたいに?
そういえばなんか、体になにかついてるような。
これ、お洋服?
わたし、お洋服着てるの?
人間の女の子みたいに?
それにこのおて手……これ、人間のおて手だよ!
ほ、ほぇぇぇ〜〜っ!
わたし、人間の女の子になってる〜〜。
なんでぇ〜〜??

「さくら」

あ、小狼くん!
わたし、人間になっちゃったよ〜〜どうしよう〜〜って、あ、あれ?
小狼くん……だよね?
小狼くんがちっちゃい!
小狼くん、こどもになっちゃってるよ〜〜。
なにこれ〜〜。
いったい、どうなってるの〜〜??

「お話。東京タワーのこと終わったら教えてくれるお話って。なぁに?」

わたし勝手にしゃべってるし〜〜。
いったい、何を言ってるの??
東京タワーとかなんのことなの?

「おれ……おまえが……」

小狼くんもなにか言おうとしてるよ。
ちっちゃい小狼くんってなにか不思議な感じ。
背の高さはわたしとおんなじくらいかなあ。
ちっちゃくてもカッコいいのは変わらないけど。
でも、小狼くんすごい真剣なお顔してる。
こんなに真剣な小狼くん見たことがないよ。
なにかとっても大事なことを言おうとしてるんだね。
わたしも真剣に聞かなきゃ。

「おまえが……好きだ」
「…え……」

え? え? えぇぇ〜〜!?!?
しゃ、小狼くんがわたしのこと好き?
ほ、ほぇぇぇぇぇ〜〜〜〜〜っ!!!

「おれがいちばん好きなのは……おまえだ」

小狼くん!
さくらも小狼くんが一番好きだよ!
わたしも言わないと。
さくらが一番好きなのは小狼くんだって。

「言いたかったことはそれだけだ……気をつけて帰れよ」
「小狼くん……」

ど、どうしたの、わたし!
なにやってるの〜〜!?
小狼くんが好きだって言ってくれたんだよ?
わたしも小狼くんが好きって言わないと!
なんで何も言わないの〜〜?
ほら、早く!
あ〜〜、小狼くんが行っちゃうよ〜〜。
なにやってるの、わたし〜〜。
追いかけないと〜〜。
ほら、早く〜〜。
はやく、はやく〜〜………………

………………………
………………
………

―――――――――――――――――――――――――――――――――

………う、うぅん。
うぅ、ここは?
今度はどこ?
お部屋の中?
見たことのないお部屋みたいだけれど。
わたし、また人間の女の子になってるみたい。
お布団の中にいるみたいだけど。
どこだろ。

「さくら!」

あ、小狼くん!
小狼くんだ!
今度はいつもの小狼くんだよ。
でも、ちょっと感じが違うような?
お洋服がボロボロで体中傷だらけ。
いったいなにをしてたの?
それになんかとっても心配そうなお顔をしてる。
どうしてそんなお顔をしてるの。
わたしならそんなに心配しなくても大丈夫だから。
すぐに起きるからね。
よいしょっと。
心配させてごめんね小狼くん。

「あなた……だあれ?」

ほ、ほぇ?
な、なに言ってるの、わたし〜〜。
だれって、小狼くんじゃないの。
ねぼけちゃてるの〜〜??
あ、小狼くん、今すごく悲しそうなお顔した。
当たり前だよ。
はやくあやまらないと。
ごめんね小狼くん。

「サクラ姫はじめまして。ファイ・D・フローライトと申します」

もう、誰なのよ〜〜。
あぁ、行っちゃう、小狼くんが行っちゃう〜〜。
早く追いかけて小狼くんにあやまらないと〜〜。

「眠ってる間誰かがにぎっててくれたのかな。手……すごく……あたたかかった」

そんなのだれかなんてきまってるよ。
小狼くんだよ!
小狼くんがさくらのこと心配してずっと握っててくれたんだよ!
小狼くん、さくらが寒がるといつもギュッてしてくれるもん!
なんでそんなことがわからないの〜〜。
ほら、早く小狼くんを追いかけないと。
追いかけてあやまらないと。
ほら、早く〜〜。
はやく、はやく〜〜………………

………………………
………………
………

―――――――――――――――――――――――――――――――――

う、う〜〜ん。
ここは……知世ちゃんのお部屋、だよね。
戻ってこれたんだあ。
あ〜〜よかった。
それにしても。
さっきのはなんだったんだろう。

「さくらちゃん、お目覚めですか」

あ、知世ちゃん。
おはよう知世ちゃん!

「はい、おはようございます。ふふっ、どうでしたさくらちゃん。いい初夢は見られましたか」

夢? 初夢?
え〜〜っとぉ〜〜。
あ、そうか。
さっきのあれは夢だったんだ。
そっかあ。
うん、そうだよね。
わたしが人間の女の子になるなんてあるわけないし。
やっぱりあれは夢だったんだ。

「その様子ではいい夢が見られたようですわね」

う〜〜ん、いい夢だったのかなあ。
小狼くんが出てきたからいい夢だったような気はするけど。
う〜〜ん、でも〜〜。
夢の中のわたしは人間の女の子だったんだけどね。
小狼くんに好きだって言われてもお返事ができない子だったの。
もう一人のわたしはね。
小狼くんがすごくわたしのこと心配してくれてたのに、小狼くんのこと知らないとか言っちゃう子だったの。
わたし、どっちのわたしも小狼くんのことが好きなんだってわかったよ。
それなのにどっちのわたしも小狼くんに好きだって言えない子だったの。
なんでかなあ。
わたしだったら絶対にわたしも小狼くんが大好き! って言ってたのに。
あれで大丈夫なの?

「心配なさらなくても大丈夫ですわ。さくらちゃんはさくらちゃんですもの。きちんとご自分の本当の気持ちを見つけられますわ。たとえどの世界であっても。李くんがいらっしゃいますもの」

そうかなあ。
うん、そうだよね。
なんとかなるよね。
だって、どっちのわたしにも小狼くんがいてくれたもん。
小狼くんがいてくれれば絶対に大丈夫だよ!

「そうそう。さきほど李くんからお電話がありましたわ。なんでも予定よりも早く帰ってこられると。今日の夜にはこちらに着くそうですわ」

え、本当!
わ〜〜い。
うれしいなあ〜〜。
小狼くんが帰ってきたら小狼くんにも教えてあげなきゃ。
夢の中のさくらと小狼くんのこと。
ふふっ、小狼くん。
夢の中でもさくら、小狼くんといっしょだったんだよ。
夢の中の小狼くんはね……

END


季節ネタその2。
なんといいますか、クリアカード編がはじまったのはいいものの、クリアカード編における小狼の立ち位置が未だによくわからない状況なので本編にそったお話はどうにも書きにくいです。
なのでパラレルものになってしまいます。

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