『さくらと不思議な羽2』



「サクラ〜〜、サクラ姫〜〜」
「サクラちゃ〜〜ん」
「サクラ〜〜、サクラ〜〜、どこ〜〜??」
「けっ。この白まんじゅうが。ま〜〜だ、まともに世界を渡れねえのかよ。ったく」
「そんなことないもん! モコナ、ちゃんと世界を渡れるもん」
「修羅の国の時もそうだったろうが! あの時もお前がちゃんとしてればなあ」
「まあまあ黒さまも落ち着いて」
「ふぇ〜〜ん、ファイ〜〜」
「モコナはがんばってくれてるよ」
「それにしてもどうしてサクラだけはぐれてしまったんでしょうか」
「そうだね。そこはオレも少し気になってるんだけど。モコナ、なにかわからない?」
「それがね。この世界に来るまではサクラも一緒だったの。だけどね。この世界についたらなにかすごい力がサクラを連れてちゃったの」
「すごい力? いったいなにが」
「わからない。だけど、あんまり悪い感じはしなかったよ。う〜〜んと、なんか前にもどこかで感じたような気もする〜〜」
「前にも感じた力?」
「どこかの世界で出会った誰かってことかな。まあ、悪い感じはしないそうだからとりあえずは大丈夫そうだね。この世界も平和みたいだし」
「そうですね。でも、早く探さないと」

………………………
………………
………

小狼く〜〜ん、小狼く〜〜ん、小狼くん、どこ?
うぅっ、やっぱりちょっと歩きにくい。
ふらふらしちゃう。
お目目の位置が高いせいかな。
おっとっと。
気をつけないと。
それにしても小狼くんは。
小狼くん、小狼く〜〜……、あっ!
いた!
見つけた!
小狼くんだ!
小狼く〜〜ん!

「あっ、サクラ!」
「サクラちゃん!」

小狼くん、わたしのことがわかるの?
よかったあ。
小狼くんがわたしのことわからなかったらどうしようかと思ってたよ。
やっぱり小狼くんだね。
小狼くんにはさくらのことなんでもわかっちゃうんだ。
小狼く〜〜ん、行くよ〜〜!!

「サクラ発見! ぷぅっ」
「やれやれ。ようやく見つかったか」
「サクラ! 無事でよかった。サク……」

ばふっ

「さ、サクラ?」
「わぅ!」

小狼くん! 小狼くんだ!
うん、お顔が小狼くんと同じ高さにある。
あの夢の時とおんなじだ!
わたし、人間の女の子になってる!
でも、あの夢と違って自由に動ける。
お手手もちゃんと動かせるよ。
こうやって。

むぎゅ〜〜〜〜

「うわわっ? さ、サクラ?」

あぁ、この感じ!
小狼くんだあ。
わたし、小狼くんをぎゅ〜〜ってしてる!
夢にまで見たこの感じ。
って、あの夢ではできなかったんだけどね。
だけど、今は!
これが小狼くんのお体なんだ。
思ってたとおり、とっても気持ちいいよ。
気持ちよくてあったかい。
でも、思ってたよりちょっと固めかなあ。
まあ、それはそうかあ。
小狼くん、いつも熱心に稽古してお体をきたえてるもんね。
お体が硬くなるのも当たり前だよ。
かっこよくなるしね。
お手手はわたしよりも少し大きいかな。
すらっとしてキレイな指だよ。
この指でいつもわたしの頭を撫でてくれてるんだね。
そうだ!
この前見たテレビでやってたあれ。
今ならあれもできるよ。
こうやって……

「さ、サクラ!?」

えへへ〜〜。
ほっぺすりすり。
テレビでワンコにほっぺすりすりしている人よく見るけど、小狼くんはやってくれないからね。
うん、小狼くんのほっぺは思ったとおりの柔らかさだよ。
柔らかくてとっても気持ちいいなあ〜〜。
さくら、幸せ!

「うわ〜〜。今日のサクラちゃんはずいぶん積極的だねえ」
「サクラ、積極的!」
「あほか! おい、どうした姫。おかしなものでも食ったのか。なんか変だぞ」
「そういえばそうだねえ」
「たしかに。よく見たら着ているものが変わってますよ。前の世界を出る時はいつもの服だったはずです」
「前にもこんなことがあったが、あの時は酔っ払ってたからな。今は酒の匂いはしねえ。酔っ払ってるわけじゃねえようだが」

もう、うるさいなあ。
さっきからなんなの、この人たち。
さくら、これから小狼くんといっぱい遊ぶんだから。
邪魔しないでよ。

「う〜〜〜〜。わん! わんわん!」
「わ、わん?」
「なんだあ?」
「あれれ〜〜。これはさすがにちょっとおかしいね」
「ちょっとじゃねえだろ! 本当にどうした」
「なにかよくないものに取り憑かれているんでしょうか」
「そういう気配は感じないね。なにかに憑かれてるってわけじゃなさそうだよ」
「それじゃあ、いったい?」
「うぅ〜〜。わぅぅ〜〜〜〜」
「とりあえず場所を変えようか。ここだとちょっと目立ちすぎるからね」
「そうですね。サクラ、行くよ。ほら」
「わん!」

………………………
………………
………

ふふ〜〜ん、ふふ〜〜ん♪♪
小狼くんといっしょ〜〜♪♪
こうして小狼くんと並んで歩けるなんて、夢みたいだあ。
うれしい〜〜

「ここは公園みたいですね」
「ここなら大丈夫かな」
「わぅ! わぅ、わぅ!」
「あ、サクラ。どうしたんだ」
「わぅ〜〜〜〜」
「どうやらシャオランくんとそこで遊びたいみたいだね。面白そうなものも色々あるみたいだし、ちょっとサクラちゃんと遊んであげたらどうかな」
「サクラ。あそこで遊びたいのか?」
「わん!」
「そうか。それじゃいこう、サクラ」
「わん!」

―――――――――――――――――――――――――――――――――

「今日のサクラちゃんは本当に元気いっぱいだねえ。あんなに楽しそうなサクラちゃんはひさしぶりに見るよ」
「のん気なこと言ってる場合か。早く姫がああなった原因を見つけねえとどうにもならねえぞ」
「でも、サクラすごく嬉しそうだよ。サクラここのところずっと悲しそうなお顔ばっかりだったもん。サクラが元気でモコナも嬉しい!」
「いろいろあったから無理もねえのはわかるが。にしてもちと、はしゃぎすぎじゃねえか」
「あ、戻ってきたみたいだよ。遊び疲れたのかな。サクラちゃん、楽しかった?」
「わぅ!」

うん!
小狼くんといっぱい遊べてとっても楽しかったよ。
もう少し遊んでいたいけど、ちょっと疲れちゃった。
ふぅ。
よっこいしょっと。

「めきょっ!」

ほ、ほぇ?
お目目が急におっきくなったあ〜〜。
さくら、びっくり。
なんなの〜〜この子〜〜??

「羽根! サクラの羽根があるよ!」

羽?
羽ってさっきの羽のこと?
でも、あれはなくなっちゃったけど。
どこにもないよ?

「サクラの羽根!? どこに!」
「そ、それが〜〜」
「どうした白まんじゅう。姫の羽根はどこだ!」
「そこなの〜〜」
「そこ? そこってどこ?」
「そこ。そのサクラの中〜〜」
「はぁ? どういう意味だ。姫の羽根が姫の中にある? んなわけねえだろ」
「でも〜〜たしかにサクラの中から羽根を感じるの〜〜」
「サクラの羽根がサクラの中にあるって。いったい?」
「ああ、なるほど。そういうことだったのかあ〜〜。小狼くん、羽根はそのサクラちゃんの中だよ」
「ファイさん?」
「サクラちゃん、いっぱい遊んだからもういいよね。羽根を返してもらうよ」
「わぅ?」
「小狼くん、そのサクラちゃんの中から羽根を取り出してあげて」
「は、はい。サクラ、ごめん。ちょっと我慢しててくれ」

ほえ?
羽?
取り出す?
あ、あれれ??
小狼くんのお手手がわたしのお腹にすいこまれて?

ぴかぁぁぁ〜〜〜〜

こ、これって。
この光ってるのはさっきの羽?
わたしのお腹の中にあったの?
あ、あれれれ?
は、はぅぅぅ〜〜〜〜
なんか力がぬけてく〜〜〜〜
はぅぅぅぅぅ〜〜〜〜………………

しゅぅぅぅっぅ〜〜〜〜〜〜〜〜………………

きゅぅ。

「な、なに!?」
「い、犬?」
「サクラがワンコになっちゃったぁ〜〜」
「まあ、そういうことだよ。あのサクラちゃんはこのワンちゃんが羽根の力で変身した姿だったんだよ」
「本物のサクラじゃなかった? で、でもあの姿は」
「あぁ。まさに姫そのものだったぜ。これまでも羽根の力で変身したやつは何度か見てきたが大抵はそいつがなりたい姿になってた。なのになんでこいつは見たこともねえ姫の姿になったんだ? おかしかねえか」
「なるんじゃないかな。この子がサクラちゃんならばね」
「そ、それはつまり……。この犬がこの世界の……?」
「サクラちゃん、なんだろうね。魂は同じ異なる存在。こういう在り方もあるんじゃないかな」
「なるほど。小僧にべったりだったのはそのせいか。ってぇことはつまり。この世界にも」

「さくら〜〜、さくら〜〜」

「あの声! シャオランの声!」
「来たみたいだね。この子のシャオランくんが」
「おれは隠れた方がよさそうですね」
「そうだね。あっちのシャオランくんに見つかるとちょっと面倒なことになりそうだから、外していてくれるかな」
「はい」

―――――――――――――――――――――――――――――――――

「さくら! あぁ、こんなところに」
「この子は君の家の子かい」
「はい。どうもご迷惑をおかけしたみたいで。申し訳ありません」
「いやいや。こっちも楽しかったよ。ずいぶんはしゃぎ回っていたけど遊び疲れたのかな。寝ちゃったね」
「本当に申し訳ありませんでした」
「サクラちゃん、っていうんだね。君にとってとっても大切な子、かな?」
「はい。おれの大事な家族です」
「そう……。それじゃあお返ししないとね。サクラちゃん、またね」
「うぅぅ、わぅぅ〜〜。むにゃむにゃ」
「まったく……。本当にどうもありがとうございました」

―――――――――――――――――――――――――――――――――

「あれがこの世界のオレですか」
「シャオランにそっくり! ぷぅ!」
「ふむ。しかしなんだな」
「どうかしましたか、黒鋼さん」
「いや、あっちのお前は形も中身もお前そのものって感じだったぜ。それに比べると姫の方は見た目はともかく、中身はずいぶん違ったと思ってな。魂は同じじゃなかったのかよ」
「ははっ、たしかにね。あのサクラちゃんはすごい積極的だったからね〜〜。オレもちょっと驚いたよ」
「いえ……。あれはまさにサクラ……オレの知ってるサクラです」
「そうなの?」
「えぇ。羽根を……記憶を失う前のサクラはまさにあんな感じの女の子でした。サクラに抱きつかれた時、オレ思っちゃったんです。記憶が戻ったのか、オレのことを思い出してくれたのかって。そんなこと、あるわけないのに」
「シャオラン……」
「ふぅ〜〜ん。ってことはひょっとして、オレたちが思ってる以上に二人の仲は進んでたのかなあ〜〜?」
「そ、それはともかく。早くサクラを見つけましょう。モコナ、サクラの居場所はわかるかい?」
「ぷぅ! 大丈夫! この羽根がサクラと呼び合ってる! サクラはあっち!」
「それじゃあ行こうか。オレたちのサクラちゃんを迎えに」
「はい!」

―――――――――――――――――――――――――――――――――

う〜〜ん、むにゃむにゃ。
はっ!
うん?
あ、あれ?
ここ、どこ?

「やれやれ。やっと眼を覚ましたか」

あ、小狼くん!
あれ?
わたし、小狼くんにだっこされてる?
ってことは〜〜。
そ〜〜〜〜〜。
あ。
やっぱり。
お手手がもとに戻ってる。
わたし、ワンコに戻っちゃったんだあ〜〜。
あ〜〜あ。
せっかく小狼くんとおんなじになれたのに〜〜。

「まったく。いったいどうやって部屋から出たんだ。よその人にも迷惑をかけて。本当にしょうがないやつだな」

う〜〜ん?
あれ〜〜??
わたし、人間の女の子になって小狼くんといっぱい遊んだよね。
小狼くん、おぼえてないの?

「もうこんなことしちゃダメだからな」

やっぱりおぼえてないみたい。
ってことは〜〜。
あれはやっぱり。
夢……だったの?
そっかあ。
夢、かあ。

そうだよね。
ワンコが人間になるなんて、やっぱりできないんだよね。
やっぱりワンコはワンコなんだよね。
小狼くん……

ぎゅ〜〜〜〜

「どうした。やっぱり寂しかったのか? 今日は甘えん坊だな」
「わぅ〜〜〜〜」

うん。
小狼くんは人間の男の子でわたしはワンコ。
でも、わたしはワンコでいいの。
だって。
ワンコでもこうしてからだいっぱいで小狼くんに、ぎゅ〜〜ってできるんだから。
人間の女の子じゃなくっても、小狼くんのことぎゅ〜〜ってできるから。
大好きだよ、小狼くん……

END

おまけ?


さくらと不思議な羽でした。
ツバサとのリンク話は書きたいとは思っていましたが、クリアカード編とツバサとの関連がイマイチ不明なためなかなか書けません。
なので、こちらでリンクさせてみました。
書いてて思いましたが、このシリーズのさくらはツバサの第1話に出てきたサクラに近い気がします。

サクラを連れ去った謎の力とは? おまけ編に続きます。
まあ、あの人しかいませんが。

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