『ごはん・小狼』



風呂の後は飯を作ってやった。
犬用のご飯なんか作ったことがなかったんで手間取ったが、こんなものだろう。
調べてみると犬にいいもの、悪いものがけっこう出てくる。
これは、もう少しきちんと調べる必要がありそうだ。

「できたぞ」

ベッドの上に寝かせてたあいつに声をかけたら、耳をぴんと立てて飛び起きた。
すでに匂いで気づいていたのか目をキラキラさせてこっちを見てる。
やはり、かなりお腹をへらしているみたいだ。
無理もない。
あんな箱の中に閉じ込められてろくなものも食ってなかったんだろう。
可哀想にな……と思ったその瞬間。

「わぅっ!」

あいつはベッドに置かれたお皿に向かって物凄い勢いで飛びかかったのだ。
あわや、というところだったが、お皿をひっくり返される前になんとか抱え込むことができた。
これにはさすがに驚いた。
さっきまであんなにプルプル震えていたのに。
おれの魔力を吸ったとはいえ、たいした回復力だ。
それとも、思ったよりも食い意地が張ってるのか?
む〜〜っとこちらに不満そうな顔を向けてくる。
少し待ってろ。
すぐに食わせてやるから。

スプーンで一口分をよそって息を吹きかけて冷ましてやる。
よく猫舌というけど、犬もあんまり熱いのはよくないだろう。
十分に冷ましてから口元に持って行ってやると

ぱくっ!

と食いついた。
いい食いっぷりだ。
実に美味そうに食ってくれる。

「わぅ! わぅわぅ!」

あぁ、わかってるって。
こんなもんじゃ足りないよな。
もっと食べさせてやるぞ。
まだいっぱいあるからな。

ぱくっ。
ぱくっ。
ぱくっ。

ふふっ、本当に美味しそうに食べるな。
どうだ、うまいか。
そう聞いたら、あいつは

「わん! わんわん!」

尻尾ふりながらすごくうれしそうな顔でこたえてくれた。
そうか、うまいか。
よかったな。
お前のうれしそうな顔を見てると、おれもうれしくなるよ。
あぁ。
いったい、いつ以来だろう。
こんな気持ちになったのは。
これもお前のおかげか。
やはり、お前がカードが選んだおれの相手なんだな。

持ってきた一皿分はあっという間になくなった。
たいした食欲だ。
その後はミルクを飲ませてやった。
抱きかかえてカップを口元までもっていってやる。

こくっ、こくっ

これもまた実に美味そうに飲んでくれる。
そんなに美味そうに飲んでくれると、こちらも用意した甲斐があるというものだ。
ミルクもあっという間に飲み干してしまった。
けっこうな量だったと思うのだが、こいつはまだ少し物足りなさそうな顔をしている。
これじゃあ足りないモノなのか?
それともこいつ、やっぱり食い意地がはってるのか?
どちらにしても一度にたくさん食べさせるのはあまりよくないだろう。
体によくないから今日のところはここで我慢するんだぞ。
そう言い聞かせてやったら納得したのか。
また、ごろんと横になった。
うつら、うつらしている、と思って見てたらすぐに眠りに落ちてしまったようだ。
すーっ、すーっ、と気持ちよさそうな寝息をたてはじめた。
これもまた、実に気持ちよさそうに寝てる。
やれやれ。
こいつはけっこうな大物かもしれないな。
物怖じするってことを知らない。
思ってた以上にやんちゃみたいだし。
こいつはこの先、手がかかりそうだ。

さてと。
寝てくれたのならちょうどいい。
やれるうちにやることをやってしまおうか。

NEXT……


続きます。

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