『クリスマス・プレゼント』

(アニメ版61話「さくらとカードとプレゼント」より)


何かを忘れている気がする。
とても大切なこと。
でも、何を忘れてるんだろう。

お父さんのプレゼントはお兄ちゃんと買ったし
カードさんたちとケロちゃんには聖歌をプレゼントしたし
知世ちゃんのプレゼントは用意したし・・・

あ!

『鏡(ミラー)!』

「なんやなんや。さくら、いったい何やっとんのや?」
「ゴメン、ケロちゃん。大事なこと思い出したの。ちょっと出かけてくる」
「出かけるってこんな時間にか?どこ行くんや」
「ちょっとね。すぐ戻るから。ミラーちゃんもう一度お留守番お願い。『翔(フライ)』!」

――――――――――――――――――――――――――――――

そろそろ寝ようかとベッドに入ろうとした時、その気配に気がついた。
強い魔力の気配。
それが近づいてくる。
一瞬、緊張したがすぐにそれがさくらの魔力だとわかった。
だけど、こんな時間になんで?また何かあったのか。
そう考えているうちに窓の外にさくらが降りて来た。
パジャマの上にジャンパーを羽織っただけの寒そうなかっこうをしている。

「小狼くん!よかった、まだ起きてた」
「さくら!こんな時間にどうして。また何かあったのか」
「ううん、ちょっと小狼くんに聞いてもらいたいものがあるの」
「聞いてもらいたいもの?」
「うん、これ。ラジカセ借りるね」

さくらはそう言って部屋に入るとラジカセをゴソゴソやりだした。

♪♪ 〜 ♪ 〜 ♪♪♪ 〜〜〜

これは・・・聖歌か。
ピアノ演奏の聖歌。
どこかぎこちない、それでも何か優しい気分になれる、そんな演奏。

「この演奏、ひょっとしてお前が弾いてるのか」
「うん!」
「これをオレに・・・でも、どうして?」
「えへへ〜〜〜」

さくらの演奏はうれしいけどなんでオレに?
と思ったら、さくらはふいにピン!と背筋を伸ばして喋りはじめた。

「李 小狼さま。いつもわたしがピンチの時に助けてくれてありがとうございます。わたしを助けてくれる人たちに感謝の気持ちをこめて弾かせてもらいました。これからもよろしくお願いします」

感謝?
キョトンとするオレにさくらはさらに続けた。

「ホントはね、カードのみんなになにかプレゼントしなきゃって思ってね。それでエリオルくんに手伝ってもらって演奏したの」
「カード達にプレゼント、か」
「うん!カードさんたちいつもわたしを助けてくれるのに、わたし今まで何のお礼もしてなかったことに気づいたの。それで何かカードさんたちにプレゼントできるものはないかなって考えたの」
「さっき公園で言ってた『気がついたこと』ってそれか」
「うん。でもね!カードさんたちにプレゼントしたら思い出したの。小狼くんもいつもわたしを助けてくれるのに何にもお礼を言ってないなって。だから小狼くんにもこの聖歌、聞いて欲しかったの。小狼くん、いつもありがとう!」

本当にこいつは・・・どうして、そういつも人のことばかり考えていられるんだ。
オレはようやく理解した。
なぜさくらがカードの主に選ばれたのかを。
強い魔力を持っているからじゃない。
カード達を本当に大切に思ってくれる、だからこそカード達に選ばれたのだと。
たとえオレがさくらより強い魔力を持っていてカードの主になったとしても、カード達に感謝のプレゼントという発想は出来なかったろう。

魔力の大小じゃない。
カードを思う心。
それがクロウカードの主に求められるものだったんだ。

そんなさくらだから
そんな優しい心の持ち主だから
オレはこいつを『好き』になったんだ。

「えっと、ちゃんとしたプレゼントはクリスマスの時に渡すよ!その、今日はどうしても小狼くんにお礼が言いたかったの」
「お礼を言うのはオレのほうだ。さくら、いつもありがとう」
「ほえ?ありがとうって、わたし小狼くんに助けられてばかりでお礼を言われるようなこと、何もしてないけど」
「いや、お前はいつもオレに大切なことを教えてくれるよ。本当に。ありがとう、さくら」
「ほえ???」

――――――――――――――――――――――――――――――

『翔』を使って帰っていくさくらを見ながら、もう一度カセットを聞いた。
さくらがカード達のことを思って弾いた聖歌。
聞いているだけで暖かい気持ちになれる。
伴奏が柊沢というのが少しだけ気にいらないけど。

『翔』の羽が夜空に輝くのが見える。
本当に天使みたいだ。

空から降りて来た天使がくれたプレゼント。
今までで最高のクリスマスプレゼントだ。

END


DVDを見直して思いついたクリスマス話。来年まで覚えていないと思うので今のうちに追加。
年末年始は忙しいくて更新できないのでまとめて更新です。

戻る