『ポッキーゲーム』



ポリポリポリ・・・

夕焼けに染まる5年2組の教室。
向かい合った二人の少女の口元から洩れるかすかな破砕音。
それに全神経を集中させながらオレは考えていた。

大丈夫だ。
まだ10本以上残ってる。
オレに回ってくるまでになくなったりはしない・・・


☆・・・☆・・・☆・・・☆・・・☆・・・☆・・・☆・・・☆・・・☆・・・☆・・・☆・・・☆・・・☆・・・☆


今日は11月11日。
「ポッキーの日」だ。
まあ、それはどうでもいい。
そんなお菓子メーカーの販促目当てのエセ祝日に興味は無い。

オレが気にしているのは片想いの相手「木之本桜」が興じている遊びとその手の中にあるポッキーの本数だ。
「ポッキーゲーム」という遊びらしい。

二人が向かいあって1本のポッキーの端を互いに食べ進み、折らずに食べられればOK!という遊びだそうだ。
何が気に入ったのか、さくらはさっきから周りの友達とそれを繰り返している。
だけどなかなか成功しない。

ポキッ

「はぅ〜、また折れちゃった〜。なかなか上手く食べられないね」

いや、それは違うと思うぞ。
相手がわざとポッキーを折ってるんだと思うぞ。

オレが察するにこのゲームは何かの罰ゲーム、もしくは恋人同士でやるものなんじゃないのか?
だって、上手く食べ切れたらお互いの口がくっついて・・・その、なんというか・・・あれだ。

“キス”

ってやつになっちゃうじゃないか。
そんなの恋人同士じゃなきゃできないよな。
たとえ恋人同士だって人前じゃ恥ずかしくてできないぞ。
だからこれはパーティの余興か、もしくは恋人たちが二人っきりの時にムードを盛り上げるためにやるものなんじゃないのか?

これまでさくらの相手をした佐々木や三原も多分、わざと折ってるんだと思うぞ?
いくらなんでも人前で、それも「女の子同士」でキスってのは恥ずかしいよな。
「天然」なさくらにはそこら辺がよくわかってないみたいだ。

・・・そして、そこにこそオレのつけ込むスキがある。

「天然」なさくらは相手が女の子だろうと男の子だろうとお構い無しだ。
何度やっても成功しなければ、成功しそうな相手を物色するだろう。
男女の区別無く。
その時こそオレの出番だ。

ごくぅっ!

さあ、さくら。早くオレのところに来い!
オレは絶対に途中で折ったりしない。
誰よりも上手くポッキーを食べてやる。
さあ、来い!

「あらあら。面白そうなことをしていらっしゃいますのね」

!!
だ、大道寺!?
まだいたのか?
もう帰ったのかと思ってたのに!

しまった!こいつがいたのか!
こいつの頭には「恥じらい」などという単語はインプットされていない!
この恥ずかしい「ポッキーゲーム」を完遂するのに何の躊躇いもあるまい。
しかも相手がさくらだ。
たとえ大地が砕けようとポッキーを折らないだろう。

「あ、知世ちゃん。まだいたんだ。そうだ!知世ちゃんとならば上手く食べられるかも」
「おほほほ。ポッキーゲームですの?私もさくらちゃんとならば上手く食べられると思いますわ」

ばか、よせ!
そいつが食べたがってるのはポッキーじゃない!
お前だ!

「それじゃあ行くよ!」
「はい、さくらちゃん」

ぱくっ。

ポリポリポリ・・・

折れろ〜〜〜!
折れろ、折れろ、折〜れ〜ろ〜〜〜!
神様、今始めてあなたにお願いします!
どうか、あのポッキーを折ってください!

ポキッ!

オレの願いが天に届いたのだろうか?
二人の唇が触れるまであと少し、というところでポッキーは砕けた。

「あ〜また折れちゃった。あと少しだったのに。惜しかったな〜〜〜」
「ほんとうに惜しかったですわね」

ふぅ。
危ういところだった。

さあ、さくら。
大道寺でもダメなことがわかったろう。
それをお前とやり遂げられるのはオレしかいない!

「知世ちゃんとでもダメか〜〜〜。あと残ってるのは・・・小狼くん!」

そう、オレだ!
さあ、今こそ来い!
オレの元へ!!!


「・・・は真面目だからこんなことしないよね」


え?


「あ、奈緒子ちゃ〜〜〜ん、ポッキーゲームやらない?」

え?
えぇっ??
えぇぇぇっ!??

すたたたた〜〜〜・・・・・・

さ、さくらぁぁぁぁぁぁ〜〜〜〜〜〜!!!

オレの無常の叫びは当然届かず、さくらは教室の隅で本を読んでいた柳沢のところに駆けていった・・・

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

今、自分がどんなに情けない顔をしているのか・・・
それはオレを見る大道寺の顔を見ればわかる。
なんて優しい瞳でオレを見ているんだ・・・
こいつがこんなに優しい視線をオレに向けたことがあったか?
なんて深い哀れみと同情に満ちた瞳をしているんだ・・・

大道寺だけじゃない。
三原も佐々木もこれ以上ないというくらいに優しい瞳でオレを見ている。

とてもかわいそうなモノを見る目でオレを見ている。

やめろ〜〜〜
見ないでくれ〜〜〜
哀れみの視線をオレに向けないでくれ〜〜〜!
そんな生暖かい目でオレを見ないでくれ〜〜〜!!!

・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・
・・・・・・


☆・・・☆・・・☆・・・☆・・・☆・・・☆・・・☆・・・☆・・・☆・・・☆・・・☆・・・☆・・・☆・・・☆


「そ、そんなことあったっけ?」
「あったよ。オレはよく覚えてるぞ。あれは2年前の今日だったな」
「あ、あははは・・・。それで今日呼んだのはひょっとして?」
「そうだ。あの日の続きだ」
「(はぅ〜〜〜。そんな前のことを〜〜〜)」
「さあ、行くぞ」
「もう、強引なんだから。じゃ、行くよ」

ぱくっ。

ポリポリポリ・・・

(うぅ、あの時はなんとも思わなかったけど・・・相手が小狼くんだと・・・ドキドキしちゃうな・・・)

ポリポリポリ・・・

(あ、今度こそ折らずに食べれらそう・・・うん、うまくいった・・・?)


ちゅっ!


「しゃ、小狼くん!?」
「ようやく成功したな」
「成功したなって・・・今、キスしたでしょ!」
「なんだお前。まだ気づいてなかったのか?これはそういうゲームなんだよ」
「そういうゲームって?」
「二人でキスをするためのゲームってことさ」
「え、えぇぇぇ〜〜〜???」
「さ、ドンドン行くぞ。ポッキーはまだいっぱいあるからな」
「いっぱいあるって、まだやるの〜〜〜???」
「当然だ。あの時お前がやり直した回数分はやるからな!」
(ほ、ほぇぇぇぇ〜〜〜〜!心臓が持たないよ〜〜〜!!!)

END


超思いつき話。
週間アスキー連載の「ハニカム」を見て思いつきました。
それにしてもハニカム最後の一文、

「ポッキーゲーム・・・美男美女のみが集う飲み会という荒行を条件にこのゲームは実在する!」

って・・・。

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