『お薬?(パラレル版)』

※注意
本作はパラレルものです。

小狼−大学生
さくら−中学生

年齢以外は原作に準じる
という設定です。



「男の人ってみんな『狼』なんだって〜」
「『なんにもしないから』なんて言われても男の人の部屋に入っちゃいけないんだって〜」

かしましい話をしているのは奈緒子だ。
よくある「ヤング向け情報雑誌」で仕入れた情報を披露しているらしい。
聞き役はさくら、千春、利佳の3人。
よく考えるとそれぞれ彼氏のいるさくら達が聞き役で、未だに特定の相手のいない奈緒子がしゃべり役というのも変な話だが奈緒子は気にしていない。

「特に『今日は家族がいないんだ』なんて言ってる時が危ないんだって〜。千春ちゃん、山崎くんなんて特に危ないんじゃないの?」
「山崎くん?山崎くんは・・・う〜んと、どうかな?どっちかって言うと私が山崎くんの家に行くよりも、山崎くんが私の家に来る方が多いのよね〜。山崎くん、家にいつも家族の人がいるからあんまり家に呼びたがらないみたいなのよ」
「ふ〜ん、千春ちゃんは大丈夫そうね。利佳ちゃんは?」
「え?私?寺、じゃない良幸さんはあまり家に呼んでくれないの。男の人の部屋に未婚の女性があまり来るものじゃないって」
「利佳ちゃんの相手の人って紳士なんだね〜。残るは・・・さくらちゃん!」
「ほえ?」
「さくらちゃんがお付き合いしている人って、たしか大学生よね?」
「そうだよ」

さくらがお付き合いしている相手は李 小狼。
香港からの留学生で今年大学2年生になる。
だが、それは表の顔。
真の姿は魔道の宗家、李一族の当主で一族の始祖クロウ・リードの残したクロウカードを集めるために日本に来た魔道士だ。
出会った当初は幼いさくらをカードの主と認めずいろいろと騒動があったが、今ではお互いをもっとも大切な相手と認め合う仲になっている。

「さくらちゃんはどうなの?お付き合いしている人のところによく行くの?」
「小狼のところ?よく行くけど?」

「大丈夫なの?男の人と二人っきりになったら、女の子の力じゃ抵抗できないんだから!」
「大丈夫だよ。小狼はとっても優しいしそんなことないよ」
「それが危ないのよ!安心させて油断させてから・・・ガバッってくるんだから!」
「ガバって・・・そんな」
「それに最近のマンションは防音設備がすごいから、どんなに悲鳴をあげたって誰も助けに来てくれないのよ!」
「ほ、ほえええ〜〜〜」


☆・・・☆・・・☆・・・☆・・・☆・・・☆・・・☆・・・☆・・・☆・・・☆・・・☆・・・☆・・・☆・・・☆


「・・・なんて言われちゃったの」

学校からの帰り道、さくらは親友の知世に奈緒子たちとの話をしていた。
もっとも奈緒子の言うことはあまり気にしていない。
さくらは小狼に絶対の信用を置いている。
小狼に限ってそんなことはないと信じている。
しかし、知世はそう考えていないようだ。

「さくらちゃん・・・もっとご自分を大切になさった方がよろしいのでは」
「知世ちゃ〜ん、知世ちゃんまで小狼を疑うの?」
「そういうわけではありません。でも・・・」
「でも?」
「李さんも男の人、それも私達よりもずっと大人の男の人ですわ。男の方には女性にはわからないいろいろな欲望があると聞きますわ」
「男の人の欲望?」

さくらは男性に対してあまりにも無防備すぎるところがある。
それは幼いころに母親を失い、父と兄に囲まれて育ったという家庭環境のせいかもしれない。
あるいは、これまで側にいた男性が藤隆、桃矢、雪兎と女性に優しい理想的な男性ばかりだったためか。
とにかく、さくらはあまりにも男性に対して警戒心を持たなすぎるのだ。
今も『一人暮らしの男の部屋に通う』という行為に何の危険も感じていない。
それが知世には心配だった。

「さくらちゃん!さくらちゃん、これから李さんの家に行くつもりですのね?」
「そのつもりだけど」

さくらはこのところ頻繁に小狼のマンションに通っている。
成長途上にある魔力が不安定になっていないかを確認するためだ。

「さくらちゃん!魔法の鍵とカードはお持ちですの?」
「魔法の鍵?いつも持ち歩いてるよ」
「いいですか、さくらちゃん。李さんの部屋では絶対に魔法の鍵とカードを手放してはいけませんわ!女の子の力では男の人に太刀打ちできませんから」
「そんなの考えすぎだよ知世ちゃん」
「いいえ!それに食べ物や飲み物にも十分に注意なさってください」
「食べ物?どうして?」
「お薬ですわ。魔道士といえばアヤシイお薬はつきもの。眠らせてしまうお薬か、それともお体の自由を奪う薬とか・・・」
「眠らせてどうするの?」
「眠っている間にさくらちゃんのお洋服を剥ぎ取って、いやらしいお写真をいっぱいとって、それをネタにしてさくらちゃんを・・・あぁっ、さくらちゃんがそんな酷い目にあわされるなんてたまりませんわ!!!」
「知世ちゃ〜〜〜ん(汗)」


☆・・・☆・・・☆・・・☆・・・☆・・・☆・・・☆・・・☆・・・☆・・・☆・・・☆・・・☆・・・☆・・・☆


「今日は遅かったな」
「うん、ちょっと知世ちゃんと話してたら遅れちゃったの」

なんだかんだあったが結局さくらは小狼の部屋に来ていた。
奈緒子や知世の話は気になったが、小狼に会いたいという思いの方が勝ったのだ。

「そうか。まあいい。すぐに魔力の検査を始めるぞ」
「うん!」

魔力の検査はお互いの両手を繋ぎ、繋いだ手から魔力を流し合うことで行う。
左手からさくらの身体に魔力を流し、右手でさくらの体を通ってきた魔力を受け取って魔力の質を確認する。

さくらはこの儀式が好きだった。
小狼と手を触れ合うことができる。
小狼の魔力が自分の身体を通っていく。
小狼の存在を何よりも身近に感じられる。
それがとてもうれしかった。

だが、今日はいつもと少しばかり勝手が違う。
奈緒子と知世の話が頭の隅にこびりついて離れない。
どうしても握り合った小狼の手に意識が向いてしまう。
自分の手をすっぽりと包み込んでしまう大きな手に。

「どうした、今日は何かあったのか」
「え、どうして?なにか変かな」
「いつもより気が乱れているぞ」
「そ、そうかな?(す、鋭い・・・)」

ダメ、検査に集中しなきゃ!と思うのだが、あらためて指摘されるとさらに恥ずかしさが増してくる。
自然と小狼の身体に目が向いてしまう。

一見スリムに見える小狼の身体。
だが、それは鍛えられた身体を隠すために小狼が服装に気を遣っているためだ。
服の下に隠された肉体がどれほどのものか、これまでの事件の中でさくらも何度か目にしている。

無駄な脂肪など1gも存在しないのでないかと思えるほどに引き締まった身体。
美術室の彫刻モデルやボディビルのそれとは違う、実用性一辺倒で鍛え抜かれた筋肉。
同級生の男の子たちなど比較対象にすらならない、完成された『男の肉体』。
この腕に、脚に、身体に何度危ないところを助けられてきたか。
それがどれほど強靭な力を秘めているか。
誰よりもさくらが一番知っている。


この手がもしも自分に伸びてきたら?
この身体がもしも自分を求めてきたら?
小狼に押し倒されて悶える自分の姿が頭に浮かぶ。

(はう〜〜〜集中できないよ〜〜〜)

・・・・・・・・・・・・
・・・・・・
・・・

「さくら」

妄想で目をぐるぐる回していたさくらは小狼の声で現実に引き戻された。

「え?なに?もう終わりなの?」
「さくら、今日はいったいどうしたんだ。魔力がものすごく乱れている。なにかあったんじゃないのか?」

(ほぇぇぇ〜〜〜!!!)

かあぁぁぁ〜〜〜っ
一気に顔がまっ赤になる。
だが、まさか小狼に押し倒されるところを想像していました、などとは口が裂けても言えない。

「なにもないよ!えっと、あ!今日は体育の授業でマラソンがあったの。だから呼吸がちょっと乱れてるのかな?ホントになんでもないよ!」
「本当か?なんだが少し顔が赤いみたいだけど」
「ほんとに大丈夫だよ!」
「そうか?ならいいんだけど。まぁ、今日はここまでにしておこうか」
「ご、ゴメンね小狼(あんなこと恥ずかしくて小狼に言えないよ〜〜〜)」

繋いでいた手を離す。
いつもよりも熱いように思えるのは気のせいか?

(・・・もしも小狼が知世ちゃんが言ってたみたいなこと考えてたら・・・もしも小狼が・・・もしも・・・)

「さくら」
「え!?あ、なに?小狼」
「今日は隣の人にもらったケーキがあるんだ。食べていくか?」
「え、ケーキ?わーい、ちょうだい!」

ケーキと聞いてさっきまでの妄想はどこへやら、さくらの顔に満面の笑みが浮かんだ。
やはりお子様のさくらにはまだ性欲よりも食欲が上のようだ。

「ふふっ、さくらは食いしん坊だな」
「いいでしょ!育ちだかりなんだから。」

しばらくして小狼が持ってきてくれたのは苺のショートケーキと紅茶のセット。
赤い苺がとても美味しそうだ。

「わぁ、おいしそう!いっただっきま〜す」

・・・が。
フォークを握った瞬間に知世の声が頭の中に響いた。

『食べ物や飲み物にも十分に注意なさってください』
『魔道士といえばアヤシイお薬はつきもの。眠らせてしまうお薬か・・・』

お薬?
眠らせてしまうお薬?
眠ってしまったら?

『さくらちゃんのお洋服を剥ぎ取って、いやらしいお写真をいっぱいとって、それをネタにしてさくらちゃんを・・・』

(ほ、ほええええええっっっ〜〜〜!!!)

「ん?どうした。紅茶が熱すぎたか?」

フォークを握ったまま固まってしまったさくらを不思議がって小狼が声をかける。

「あ、ううん、ちょうどいい熱さだよ」

紅茶・・・ひょっとして薬が入れられているのは紅茶の方か?
そう思うと紅茶にも手が出せない。
紅茶もケーキも今まで何度もごちそうになってきたよ!大丈夫だよ!とは思うものの一度気になるとどうしてもその考えから抜け出せない。
それに

『安心させて油断させてから・・・』

ガバッとされるのが今日だったら?
さっきの妄想が再び頭の中に浮かび上がる。
眠りに落ちて完全に無防備な姿をさらす自分。
そんな自分に小狼の手が伸び、一枚一枚服を剥ぎ取っていく。
やがて最後の一枚も剥ぎ取られ生まれたままの姿があらわにされる。
そして・・・

(もしも・・・もしもそれが小狼の望みだったら・・・これ、飲まないとダメなのかな・・・でも・・・でも、怖いよ・・・)

さくらとて「そういうこと」に興味がないわけではない。
そして「はじめて」の相手は絶対に小狼と決めている。
だが、それと「怖い」という感情は別だ。
小狼が望んでいるならば・・・
でも怖いものは怖い・・・
さくらは二つの相反する感情に挟まれて身動きができなくなってしまった。

・・・・・・・・・・・・
・・・・・・
・・・

「さくら、本当に今日はどうしたんだ」

さくらの挙動があまりにもおかしかったのか、ついに小狼から質問されてしまった。

「え?いや、あのえっと」
「『なにもなかった』はもう通じないぞ。今日はずっと変だ。いったい何があったんだ」
「そ、その・・・」
「オレには言えない事なのか?」

真剣な顔で聞かれてしまう。
さくらは小狼のこの顔に弱い。
この顔で尋ねられたら隠し事は出来ない。

「あ、あのね。知世ちゃんからね・・・」

さくらは観念して知世たちから聞いた話をしてしまった。


☆・・・☆・・・☆・・・☆・・・☆・・・☆・・・☆・・・☆・・・☆・・・☆・・・☆・・・☆・・・☆・・・☆


話を聞き終わった小狼ははーっとタメ息をついた。
まさか自分がそんな目で見られていたとは思いもよらなかったのだ。

「まったく。何を気にしているのかと思ったら・・・」
「ゴメンなさい!小狼がそんなことしないってわかってるんだけど、どうしても気になっちゃって」

小狼はしばらく呆れ顔でさくらを見つめていたが、やがてケーキと紅茶の乗った盆を手にしてキッチンの方に引き上げてしまった。

「(はぅ〜〜〜ばかばかばかばか、わたしの馬鹿!小狼を怒らせちゃったよ〜〜〜)」

親切に魔力の検査をしてくれてケーキまで出してくれたのにあんなトンデモない疑いをかけたのでは怒って当然だ。
なんとかして謝らなくちゃ・・・と考えていたら小狼がお盆を持って戻ってきた。
お盆にはさっきと同じケーキと紅茶が乗っている。
冷めた紅茶を淹れ直してきたらしい。

(紅茶、淹れ直してくれたんだ。やっぱり小狼はやさしいな〜。バカなこと考えてゴメンね。・・・?あれ?)

さくらは小狼が持ってきたお盆にさっきまで無かったものが乗っているのに気がついた。
小さな紙包みのようなものだ。

「砂糖は2つでよかったよな」
「うん。(あれ、なんだろう?)」

???となるさくらの前で小狼は紅茶に砂糖を入れてかき回す。
それが終わると紙包みを開いた。
中に入っていたのは白い粉末。

「小狼?それ何?なにかお薬みたいだけど」

さくらの問いに小狼は答えを返さない。
無言のまま紙包みを紅茶の上で傾ける。

サラサラサラ・・・

中身の粉末が紅茶に注がれていく。
そして注ぎ終わると再びティースプーンをとってかきまぜた。

「さあ、どうぞ」
「え?今入れてたのなんなの?お薬みたいに見えたけど?」
「よく眠れるようになるおまじないだよ」

眠れるようになるおまじない?
まさか?

「今日は疲れてるんだろう?ぐっすり眠れるぞ」

やっぱり睡眠薬だ!
これを飲んだら・・・!?
あわてて小狼の顔を見る。
いつもと同じ優しい笑顔。
だけど目だけは笑っていない。
まるで獲物を見つめる獣のような目をしている。
これまでさくらには見せたことのない冷たい目だ。

「どうした、さくら。早く飲まないと冷めるぞ」
「うん・・・」

小狼に促されてさくらはカップを手にとった。
湯気をたてるカップを口の前に運ぶ。
これを飲んでしまったら・・・
絶対に飲んではいけない。

でも。

飲まなかったら小狼に嫌われるかもしれない。
小狼に嫌われるくらいなら・・・

こくっこくっこくっ

さくらはためらいながらも紅茶を飲んでしまった。
熱い紅茶を一息に飲み干す。
いつもと同じ上品な味とかすかに感じる薬の違和感。

(あ・・・)

飲み終わった途端に強烈な睡魔が襲ってきた。
意識がもうろうとしてくる。
ここで眠ってしまったら小狼のなすがままにされてしまう・・・
そう思ってもさくらは睡魔に抵抗する気になれなかった。

「おやすみ。さくら」
「しゃ・・・おら・・・ん・・・」

そしてさくらの意識は深い闇に堕ちていった。


―――――――――――――――――――――――――――――――――


・・・
・・・・・・
・・・・・・・・・・・・

「!?」

どれくらい時間がたったのか。
さくらは目を覚ました。
ソファーの上に横になって毛布をかけられている。
あわてて毛布を剥ぎ取るが、その下に見えたのはさっきと同じ服を着たままの自分の体。
なにかをされた形跡はない。

そこへ、

「お姫様はようやくお目覚めか」

さくらの気配に気づいたのか、机に向かっていた小狼が振り返りながら声をかけてきた。

「お洋服、ちゃんと着てるよね・・・?どうして?小狼、なにもしてないの?」
「なにかして欲しかったのか?」
「(かぁぁぁ〜〜〜っ!)だ、だって小狼、睡眠薬で眠らせて・・・あの、その・・・え、エッチなことするつもりじゃなかったの?」
「睡眠薬?こいつのことか?」

ポイっと小狼が投げてきた箱をつかまえて目をやると、そこに書かれていたのは

『風邪薬(小児用)』

の文字。

「これ・・・風邪薬?でも、さっき本当に眠くなったよ?」
「お子様用だからな。飲んだら眠くなることがあるって書いてあるだろ。まさか本当に眠っちゃうとは思わなかったけどな」

あわてて箱の説明書きを読むとたしかにそう書いてある。

風邪薬・・・
それも子供用・・・
ひょっとして・・・小狼にからかわれた?

ホッとすると同時になぜか悲しくなってきた。
奈緒子や知世から聞かされた男の人の欲望。
大人の男は誰でも女性に対して強い欲望を持っているのではなかったのか?
今、自分は完全に無防備だった。
どんな行為も思いのままだったはずだ。
なのに何もされていない。
いや、今日だけではない。
これまでも小狼がそのような行為を要求してきたことは一度も無い。
今まではそれが小狼の優しさだと思っていた。

でも違うのでは。

自分は小狼に「一人の女性」として見てもらえていないのでは。

小狼にとって自分は、「かわいい妹」程度の位置づけなのでは。
年の離れた姉に囲まれて育った小狼にとって、自分は初めてできた「年下の姉妹」くらいの意味しかないのかもしれない。
それとも単に「クロウカードの後継者」か。
李家の当主としてクロウカードの保持者を守る義務がある、ただそれだけのことか。

そう考えたら悲しくて涙が出てきた。

「おいおい、泣くなよ。からかって悪かったよ。お願いだから泣かないでくれ」
「小狼。小狼にとってわたしは何なの?」
「え?」
「小狼はわたしのことどう思ってるの?ただの子供?弱い子供だから守ってくれるの?」
「さくら・・・?何を言ってるんだ」
「それともわたしがクロウカードの後継者だから?カードの後継者は守らなきゃいけないから?」
「そんなことはない!オレはさくらが・・・さくらが好きだから守りたい、そう思ってるよ」
「『好き』ってどんな好きなの?小狼の言う好きってなんなの?お父さんも知世ちゃんもケロちゃんもさくらのこと好きって言ってくれるよ。小狼の好きってどんな好きなの?」

もう自分が何を言ってるのかもわからない。
しゃべればしゃべるほど涙が出てくる。
小狼の前でみっともない。
情けない。
でも、知りたい。
小狼が自分をどう思っているのかを。
小狼の『好き』の意味を。

――――――――――――――――――――――――――――――

「オレの『好き』の意味か」

泣き続けるさくらを見て何かを決心したのか、ようやく小狼が口を開いた。
はっとして顔を上げるとそこにあったのは小狼の顔。
え?と思う間もなくそのまま唇に柔らかいものが押し当てられる。

(しゃ、小狼!?小狼とキ、キスしてる!?小狼と・・・ん?んん〜〜〜!?)

キスだけではない。
そのまま小狼の舌が唇を割って侵入してくる。
そしてさくらの舌を強い力で絡めとる。
友達同士の冗談で行うそれとは全く違う、深いキス。
恋人同士のキス。

(これって奈緒子ちゃんが言ってた恋人とするキス?わたし、小狼と・・・)

ようやく解放された時には頭の中が真っ白になっていた。

「オレの『好き』はこういう意味だ」

そう言う小狼の顔も少し赤くなっている。
小狼も興奮してる・・・?
自分は今、小狼から「性」の対象として見られている・・・?
そう思ったら体の奥が熱くなった。
これが大人のするキス・・・?
このキスの先には何があるの?

「本当はさくらにもっとスゴイことをしたいと思ってるよ。でも今はダメだ」
「どうして?わたしが子どもだから?」
「そうじゃない」
「じゃあ、どうして・・・?」
「さくらが本当にオレを求めてくれるなら今すぐにでもそうしたい。けど今のさくらは違う。お友達の言葉に惑わされてるだけだ」
「惑わされてる?」
「さくら、よく考えてみてくれ。本当に今、オレと『そういうこと』がしたいと思っているか?」

そう問われるとすぐに返事が出来なかった。
小狼ともっと深い関係になりたいという気持ちは本当だ。
でもやっぱり怖い。
でも・・・

「わからない・・・でも!小狼がそうしたいならわたし・・・」
「本当にそう思ってるか?さっきのさくら、もの凄く怖がってたみたいだけど」
「ガマンするよ!怖くても、痛くてもガマンするから!」

それは今のさくらにとっては精一杯、背伸びしたつもりの答え。
でも、小狼には通じなかったようだ。

「そう言ってくれるのは嬉しいよ。でもオレはさくらに我慢なんかして欲しくないんだ。さくらが本当にオレを求めてくれるまで待ってちゃダメか?」
「小狼・・・」


☆・・・☆・・・☆・・・☆・・・☆・・・☆・・・☆・・・☆・・・☆・・・☆・・・☆・・・☆・・・☆・・・☆


帰り際に小狼はもう一度キスをしてくれた。
今度はおでこへのキス。
お子様相手のキス。
やっぱりなんだかうまく誤魔化されたような気がする。
わたしがまだお子様だから?
でも小狼は「待っててくれる」って言ってくれた。
いつかわたしが本当に「小狼を求める」ようになるまで。

本当は「小狼を求める」っていうのがどんなことなのかよくわかっていない。
やっぱりわたしはまだまだ子供だ。
どんなに背伸びしても小狼には届かない。
それでも少しずつでも小狼に近づきたい。
だから待っててね小狼。
いつかわたしが小狼に追いつく日まで。

END


チェリーダンスに送った「お薬?」の別バージョンです。
「お薬?」はチェリーダンスの時にどんな話にするかいくつかバリエーションを考えたのですが、これはその時に没にした案の一つです。
没にした理由は、他のサイト様で小狼−大学生、さくら−中学生のパラレルものを連載されているところがあったことに気がついたためです。投稿作品はあまり他のサイト様の作品と被らないようにしたかったので避けました。
(香港物語は他のサイト様とかなりネタが被ってますが、あれは定番のメイドものということで大目に見てください)

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