『もしも(裏)』

「!!ッ」

小狼はベッドから跳ね起きていた。
まだ深夜だ。部屋は暗黒に沈んでいる。
汗をかいていたようだ。
片手で額を拭う。
そして荒い息を吐きながら思い出していた。
今しがた見ていた邪悪な夢を・・・

夢の中では少年が少女を苛んでいた。
抵抗する術をもたない無力な少女を、少年は非道な術で思うままに弄ぶ。
小狼を恐れさせたのは少年の顔だった。
邪悪な笑いを浮かべた顔。
他者を支配する欲望に醜く歪んだ貌。
人の顔がこうまで醜悪な表情を浮かべるものなのか。

(あれが・・・あれが俺の本性なのか・・・あれを・・・あんな顔をさくらに見られたら・・・)

さくらが自分を拒絶する絶望的な光景が脳裏に浮かぶ。
小狼は身じろぎもせずにわだかまる闇を見続けた・・・



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それから数日後。
全てが解決した日の夜。
ベッドで横になった小狼は心の底から安堵していた。
もう、邪悪な欲望は何も感じない。
今日からよく眠れる。
安心して目を閉じた。


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「!?ッ」

小狼はベッドから跳ね起きていた。
もう朝だ。部屋はすっかり明るくなっている。
・・・よだれを垂らしていたようだ。
あわてて口元を拭う。
そしてため息をつきながら思い出していた。
今しがた見ていたの〜てんきな夢を・・・

夢の中では少年が少女といちゃついていた。
黄色いぬいぐるみ?がいたら「どこのバカップルや!」とつっこんだろう。
小狼をあきれさせたのは少年の顔だった。
安心しきって緊張を解いた顔。
少女に甘えきってゆる〜んだ頬。
人の顔がこうまでなさけなく締まりを失うものなのか・・・?

(あれが・・・あれが俺の本性なのかぁ!?あれを・・・あんな(マヌケな)顔を母上に見られたら・・・)

香港へ強制送還まちがいなし。
苺鈴と姉たちにバカにされる絶望的にあほらしい光景が脳裏に浮かぶ。

小狼はぼーぜんとして昇るお日さまを見つめていた・・・

えんど。

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