『北風と太陽・β』


世界迷作劇場その4改怪 北風と太陽・β

Part1
キャスト
北風:知世
太陽: 山崎くん
旅人:小狼
犬:さくらいぬ

―――――――――――――――――――――――――――――――――

むかしむかしのその昔。
あるところにあまりたちのよくない太陽と北風さんがおりました。
二人はいつもしょうもないことを思いついては実行し、旅人を困らせていました。
今日もまたなにやらしょーもないことを考えているようです。

「おほほ。今日の勝負は脱衣ですわ」
「脱衣?」
「お洋服を脱がせることですわ」
「またなんでそんなお題を」
「おほほほ。最近やったゲーム(アキバズトリップ)の影響ですわ。次に通りかかった旅人の服を脱がせた方が勝ちとしましょう」
「ふ〜〜ん。わかったよ。負けないよ」
「わたしこそ。おほほほ〜〜」

なんともはた迷惑な連中です。
さて、そうは言っても荒野の一本道、そうそう人が通るわけではありません。
かな〜〜り時間が経ってからようやく現れましたのは道を急ぐらしい一人の若者。
……と犬。

「わぅ〜〜ん、わん、わん!」
「ご機嫌だな、さくら」
「わんわん! だって小狼くんと一緒にお散歩だもん! さくらうれしい!」
「お散歩ってわけじゃないんだけどな。まあいい。まだけっこうある。先を急ぐぞ」
「わん!」

待望の旅人に太陽さんは大喜びですが。
北風さんは。

「来たね。さあ、まずは北風さんから」
「……」
「ん、あれ? 北風さん?」
「……あぁ、なんて……」
「え?」
「なんて可愛らしいわんちゃんなのでしょう! 素敵ですわ〜〜 可憐ですわ〜〜 可愛らしいですわ〜〜!! あぁ! あまりの可愛さに目眩が……」
「き、北風さん?」
「あぁ、ダメですわ! あんな可愛らしいわんちゃんに風を吹きつけるなんて! わたしにはできませんわ! あぁ!」
「じゃ、じゃあ北風さんは不戦敗だね。それなら僕の番だ。よ〜〜し……」

ボコォッ!

「な、なな!? き、北風さん?」
「あんな可愛いわんちゃんに何をなさるおつもりですか!」
「な、なにって。服を脱がせるゲームじゃ……」
「あなたの殺人光線をあの可愛いわんちゃんに当てるつもりですか! そんなこと、天が許してもこのわたしが許しませんわ!」
「で、でもそれが今日のゲームのルールじゃ……」
「あなたには人の心というものがないのですか! あなたのような悪鬼はこうです! えいっ! えいえいっ!」
「わ、わわわ〜〜〜〜!」

ドカバキドカバキドカバキドカバキ、ズガッ、ドカッ、ドゴォッ、バシッ、ガン、バンッ、ガッ・・・・・・

ボキィッ!

「がくっ」
「あぁっ、可愛らしいわんちゃん。あなたはこの知世がお守りいたしますわ〜〜」

………………………
………………
………

「いい風だな。だけど日が翳ってきたみたいだ。急ごう」
「わん!」
「よし、いい子だ」
「わんわん!」

「あぁ! 可愛いですわ〜〜 素敵ですわ〜〜 最高ですわ〜〜!! あぁ、知世、幸せ!」

こうして旅人は冷たい風に吹かれることもなく、強い日差しに照らされることもなく快適な旅をおくれたそうです。

このお話の教訓:
犬は人類の友

Part2
キャスト
北風:小狼
太陽:山崎くん
旅人:さくら
仕立て屋:知世

―――――――――――――――――――――――――――――――――

昔々、あるところにとても仲の悪い北風と太陽がおりました。
二人はいつも、些細なことで大喧嘩をして周りの人たちを大層困らせていました。

「今日こそおれの真の力を見せてやろう」
「それはこちらの台詞だよ、李くん。今日こそ負けないよ!」

今日も朝から意味もなくいきり立つ二人。はた迷惑な連中です。

「今日の勝負は、ここを通る旅人の服を脱がせることだ」
「またなんでそんなけったいな勝負を」
「なんかそういう神話がどっかにあるって聞いたんで。とにかく! 次に誰かがここに通りかかった時が勝負だ」
「わかったよ」

しょーもないことを言い合う二人。
と、そこへちょうど道の向こうから一人の旅人が歩いてくるのか見えてきました。

「よし、あれをターゲットにするぞ」
「よ〜〜し、負けないぞ」

いきりたつ二人でしたが。

「ん? なんか……」
「う〜〜ん、なんていうかな〜〜。なんかちょっと……」

旅人が近づくにつれ、それは困惑に変わるのでした。
それもそのはず。
今日の勝負のキモの『旅人の服』がなんかちょっと違うな〜〜という感じだったからです。
可愛いお洋服なのはたしかです。
これも可愛い旅人さんによく似合っています。
しかし、なんでしょう。
なんといいますか、なんか普通のお洋服とは違う感じがします。
その辺のダ〇エーでは売っていないような感じです。
なにやらピラピラしたのもいっぱいついています。
どう見ても、「普通のお洋服」ではありません。

「なんかちょっと違う気がするんだけど」
「ま、まあいいだろう。見た目はちょっと変だけど。勝負には関係ない。よし、おれから行くぞ!」

びゅおぉぉぉ〜〜〜っっ!

「きゃぁ!」

旅人に吹き付ける強烈な風!
風速にして50mは出ています。伊勢湾台風並です。

「なんなの〜〜。さっきまでいい天気だったのに、なんで急にこんな風が……?」

旅人は必死でお洋服の裾をおさえます。
物凄い風に旅人のお洋服はあわれにも……と思えたのですが、意外にもそうはなりません。
ピラピラしたのがついていて、いかにも風に飛ばされそうな感じなのですが、いくらふきつけても飛ばされることはないです。

「はぁ、はぁ。くそ、意外に丈夫だな」
「そこまでだよ、李くん。今度は僕の番だ。いっくよ〜〜」

ここで選手交代。
なかなかお洋服を剥げない北風に代わって太陽が出てまいりました。

ピカァァァ〜〜〜〜!

太陽から発せられた強烈な光が旅人を照らします。
先ほどまでの風はどこへやら、旅人の周りは一気に真夏の鳥取砂丘のようになってしまいました。
とんでもない暑さです。
これには旅人もひとたまりもない、と思われましたが。

「ふぅ〜〜。今度はまた急に日差しが強くなってきたな〜〜。あ〜〜暑い暑い。でも、知世ちゃんが作ってくれたこのお洋服は気持ちいいなあ」

ぴらぴらな見た目に反してこのお洋服、風通しの方はよいらしいです。
旅人は服を脱ごうとしません。

「だ、だめだぁ〜〜〜。ここまでやっても脱がないなんて」
「くそっ、これだけやっても脱げないなんて。あの洋服、いったいなんでできてるんだ?」

疲れ果てハァハァやってる太陽と北風をよそに旅人さんは先を急ぎます。

………………………
………………
………

「知世ちゃん、ただいま!」
「あぁ、さくらちゃん。お待ちしていましたわ。道中なにもありませんでしたか」
「うん。あのね。途中ですごい風に吹かれたり、すごい日差しで暑くなったりしたんだけど、この知世ちゃんが作ってくれたお洋服のおかげで快適だったよ」
「おほほほ。当然ですわ! それは大道寺財閥特性のスペシャル素材をこのわたくしが手がけた逸品! 科学の粋を集めたスーパーナイロン繊維にこのわたくしの技術が合わされば完璧ですわ! さくらちゃんの旅に不愉快な思いなどさせません!」
「ありがとう知世ちゃん。また次のお洋服もお願いするよ」
「まかせてくださいなさくらちゃん!」

こうしてとびっきりの仕立て屋さんのおかげで旅人さんは迷惑な北風と太陽の妨害にも負けず、快適な旅を続けられるのでした。

このお話の教訓:
コーディネイター大勝利!


祝! マチ姉さんのポンコツおとぎ話アワー単行本化!
わたしの願いがぶんか社を動かしたと思いたい。

戻る