『金の斧・番外編』


世界迷作劇場その10 金の斧・番外編

キャスト
正直な木こり:さくらいぬ
泉の精:知世

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昔々のその昔。
あるところにさくらいぬというとても可愛いワンコがおりました。
さくらは飼い主の小狼くんに可愛がられてとても幸せに過ごしていました。

「わんわん! 小狼くん、お腹へったよ! ごはん、ごはん!」
「もう少し待ってろ。今すぐ作ってやるから」
「わんわん! もう待てないよ〜〜! はやく、はやく〜〜」
「やれやれ。さくらはほんとうに食いしん坊だな」
「わん!」

ちょっと食い意地がはってるのがたまにきずですが。
ま、しょうがないですね。
育ちざかりの仔犬ですので。

そんなある日。
さくらは小狼くんにたのまれておつかいに出かけました。

「おつかいおつかい〜〜♪ さくら、小狼くんのためにがんばるもん!」

本当のところはテレビで「はじめてのおつかい」を見たさくらが、小狼くんにせがんでおつかいをさせてもらったのですけれど。

「わんわん! お買いものだよ」
「さくらちゃん、いらっしゃい。今日はおつかいかな。えらいね」
「わん!」
「うん、いい子のさくらちゃんにはおまけにこのマックナゲットをつけてあげようね」
「わ〜〜い」

可愛いさくらは街でも人気者。
店の人もよく飴とかお菓子とかいろいろなものをくれます。
おとぎ話にマックナゲットは出てこないような気もしますが……

さてその帰り道。

「ふふ〜〜ん、♪♪〜〜♪」

マックナゲットをくわえてごきげんのさくらが帰り道の橋にさしかかった時のこと。
ふと下の方を見たら、なんとそこにもマックナゲットをくわえたワンコがいるではありませんか。
しかもそちらのマックナゲットの方が美味しそうです。
これには食いしん坊のさくら、黙っていられるわけがありません。

「あ〜〜こっちのよりおいしそう! とりかえて〜〜わんわん!」

とつい声を上げてしまいました。

ぽろっ

当たり前ですが口を開けばくわえてたマックナゲットは落ちます。

ぽっちゃ〜〜ん!

そのままマックナゲットは泉に落ちてしまうのでした。
ぼーぜんとなるさくらともう一匹のワンコ。
そ〜〜です。
もう一匹のワンコとは水面に映ったさくら自身なのでした。
欲をかいたばかりにせっかくもらったマックナゲットがだいなしです。

「ふえ〜〜ん、お肉落としちゃったよ〜〜。食べられないよ〜〜。ふえ〜〜ん」

自業自得とはいえ、ちょっとかわいそうですね。
そんなさくらを可哀想だと思ったのでしょうか。

ぽわわ〜〜ん

と怪しげな演出とともに姿を現したのはこの泉の女神さまです。

「可愛いワンちゃん。あなたが落としたのはこの骨付き肉ですか。それともこちらの高級松坂牛ですか」

女神さま、左手には美味しそうな骨付きマンガ肉、右手にはこれも美味しそうな高級松坂牛をたずさえての登場です。
なんかもう、いろいろと童話がごっちゃになってるような気がしないでもないのですが。
マックナゲットとか松坂牛とかどう考えてもイソップ童話に出てきそうもないあたりも気になりますけど、スルーして先に進めましょう。
気にしてるときりがありませんので。

女神さまの問いかけに正直者のさくらはもちろん、違いますと答えます。

「わんわん! 美味しそうなお肉だよ〜〜! わんわん! どっちも美味しそ〜〜 どっちがいいかな〜〜 わん!」

………………。
まあ、しかたないですよね。
育ちざかりの仔犬ですから。
お頭、ちっちゃいですし。

「そっち! そっちのお肉だよ! あ、やっぱりこっちかな? わんわん!」

さくら、自分が落としたのはマックナゲットだったことは完全に頭から消えちゃってるようです。
この答えに泉の女神さまは当然、激怒!
かと思いきや。

「あぁっ、なんて(自分の欲望に)正直なワンちゃんでしょう! 素敵ですわ〜〜超絶可愛いですわ〜〜! 可愛いさくらちゃんにはみ〜〜んな差し上げますわ!」

骨付きマンガ肉も高級松坂牛もついでにマックナゲットもみ〜〜んな渡してくれるのでした。
う〜〜ん、この女神さまもなんといいますか。
これまた自分の欲望に正直なお方だったようです。

「わ〜〜い、うれしいな〜〜。でも、さくらこんなにいっぱい持てないよ。どうしよう?」
「そこは心配ご無用。さくらちゃんのためにリヤカーを用意してますから。これでひっぱっていけばいいですわ」
「わ〜〜い、女神さまありがとう〜〜」
「あぁっ! なんて素敵な笑顔! 知世、感激! 幸せ絶頂ですわ〜〜!」

なんとも用意のいい女神様ですね。
ちょっと過保護な気もしますけど。

こうして骨付きマンガ肉に高級松坂牛についでにマックナゲットも手に入れて意気揚々とお家に帰ったさくらいぬ。
待っていた小狼くんは荷物の多さに吃驚です。

「どうしたんだ、さくら。そのお肉は」
「わんわん! あのね、泉の女神様がね、さくらがいい子にしてるからくれたの。わんわん!」
「泉の女神様? そういえばあの泉に最近、不審者が住み着いたとは聞いてたけど」
「おにく、おにく〜〜♪ お肉がいっぱいでうれしいなあ〜〜わん!」
「いや、これはさすがに多すぎだろ。最近のお前は少し食べすぎだ。今日は少しにしておくんだぞ」
「えぇ〜〜?? やだよ〜〜いっぱい食べたいよ〜〜わん!」
「ダメだ。おデブちゃんになってもいいのか」
「はぅ〜〜〜〜」

まあ、そう言いながらもその夜、小狼くんは少し多めにお肉を焼いてくれました。
やさしい小狼くんといっぱいの美味しいお肉に囲まれて幸せいっぱいなさくらなのでした。

今回の教訓:「可愛いは正義!」

END


金の斧でした。
実は最初に書いたのはこれで、最初はよくばりないイヌだったのですが、途中でなぜか金の斧に変わりました。

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