『金の斧・改』


世界迷作劇場その10 金の斧・改

キャスト
正直な木こり:小狼
泉の精:知世

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昔々のその昔。
あるところに一人の木こりが住んでいました。
この木こりさんは真面目で働き者のうえにとても正直な若者でした。
ルックスもよくて町での人気の上々なのですが、ちょっと運が悪いところがあります。
この間もどこぞの泉でなにやらとんでもない目にあったそうです。
そんなところもこの若者のいいところでもありましょうか。

さてそんなある日。
若者はある泉のそばでカッコンカッコンと元気に働いていたのですが、どうしたはずみか手を滑らせて斧を泉に落としてしまうのでありました。

「しまった」

運の悪いことは続くものです。
あれほど気をつけていたのにと後悔してもはじまりません。
途方にくれる若者です。
そこへ

ほわわ〜〜ん

と謎の効果音とともに現れたのは泉の女神様。
驚く若者に女神様は優しく声をかけます。

「あらあら。こんなところでいったいどうされたのです」
「はい。実はこの泉に斧を落としてしまいました」
「それはお困りでしょう。わかりました。わたしが見てまいりますわ」
「ありがとうございます」

渡る世間に鬼はなし。
女神様の温情に喜ぶ若者です。
しばらくすると泉から再び女神様が浮かび上がってきました。

「あたなが落としたのはこの斧ですか」

そう言って女神様が差し出したのは光り輝く金の斧。
正直な若者は

「いいえ。わたしが落としたのはそのような立派な斧ではありません」

と答えます。
それならばと再び泉に潜って行く女神様。
しばらくの後にまた斧を持って若者の前に姿を現します。

「あなたが落としたのはこの斧ですか」

今度女神様が差し出したのはこれも豪華な銀の斧です。
正直な若者はこれにも同じ答えを返します。

「いいえ。それもわたしの斧ではありません」
「そうですか。それでは」

そう言って女神様は三度泉へと姿を消します。
それを見送る若者の顔は。
う〜〜ん、なんかイマイチ釈然としないものを感じているようですね。
まあ、それも当然といえば当然ですが。
そもそも金の斧とか銀の斧って普通、ないでしょ。
斧をわざわざ金で作ったりします?
しませんよね。
たとえあったとしてもそんなもんで本当に木を切ろうとするやつなんかいませんよね。
ましてやそんな貴重品をうっかり泉に落とすなんて絶対ないでしょ。
ちゅーか、どう考えたってさっき落とした斧とは違いすぎです。
どこをどう間違えたらあれを金や銀の斧と間違えるのか。
若者の顔が微妙になってしまうのも無理はありません。
まあ、イソップの原典もそうなのでそこに突っ込んでもしょうがないですけれど。
そうこうしているうちにまた浮かび上がってきた女神様、今度という今度はようやく若者が落とした斧を持っているのでありました。

「あたなが落とした斧はこれですか」
「そうです! おれが落としたのはその斧です。あぁ、ありがとうございます」

落とした斧を取り戻して大喜びする若者。
そんな若者を見る女神様の頬にも微かな笑みが浮かびます。
これまたなんと言いますか。
一見、穏やかで優しい微笑みなのですが。
どこか真意を包み隠した造りものの笑みに見えるのは気のせいでしょうか?
女神様、笑みを浮かべたまま優しげに若者に話しかけます。

「あなたは本当に正直な方ですのね」
「いえ、それほどでも」
「ふふっ、そんなところも立派ですわ。わたくし感心いたしました」
「そ、そうですか」
「うそのはびこる今のご時勢にあってあなたのような方は希少なもの。そんなあなたにわたしからの贈り物。この斧を受け取ってくださいな」
「よいのですか、そのような高価なものを」
「よいのです。さあ、こちらへ」
「はい」
「ふふふ……さあ、お受け取りくださいな……その体で!」

ずわぁっ!
近寄った若者の脳天に振り下ろされる金の斧!
凄まじい斬撃が若者を襲う!
哀れな若者は真っ二つ!
……かと思いきや。

ガキ〜〜ン!

若者は受け取ったばかりの斧で見事、女神様の一撃を防ぐのでした。
思いがけぬ若者の技に女神様は驚愕を隠せません。

「な、なぜ!? 完璧なタイミングでしたのに」
「前にも似たような目にあってな! 用心してたんだ」
「くぅ!」
「今度は何だ。お前も泉に斧が投げ込まれるのを恨んでる口か!」
「ふふふ……。いいえ、違います。わたしの狙いは李くん……最初からあなた一人ですわ!」
「!? なんでおれの名を? お前、いったい?」

女神様の言葉に今度は若者が驚く番です。
そんな若者をにらみつけながら女神様は言葉を続けます。
その瞳に宿る昏い炎。
まさに殺意の炎です。

「魔法の鏡が教えてくれましたの。李くん、あなたは近い将来大きな罪を犯す……」
「おれが罪だと? なんだ、それは!」
「わたしの大切なさくらちゃん……。可愛い可愛いさくらちゃん……そのさくらちゃんをあなたは!」
「お、おれがどうするっていうんだ」
「あなたはたぶらかして連れ去ってしまうのですわ! あぁ、わたしのさくらちゃんを!」
「はぁ? なんだ、それ。そのさくらってやつがお前よりおれを選ぶってだけじゃないのか? なんでそれが罪なんだよ」
「その無自覚さがまさに罪! この世にあって許しがたき大罪ですわ!」
「アホか! お前のそのいかれた頭の方がよっぽど罪だ! そもそもそいつがお前じゃなくておれを選ぶのもその辺に理由があるんじゃないのか」

なんか魔法の鏡とか別のお話とごっちゃになってる気もしますが。
それはさておき。
正直な木こりさん、今回もまたこれ以上はないというくらいな正論をのたまってしまいます。
これまたなんといいますか。
木こりさんの言っていることはまったくその通りだとは思います。
ですがこういう場合、正論ほど人の神経を逆なでするものはありません。

「言わせておけば! もう、堪忍なりませんわ!」

案の定、女神様はブチギレ。
怒りでスーパーコンボゲージは一気に満タンへ。
金と銀、両手に構えた二丁の斧から炎のようなオーラを噴き上げながら若者に切りかかります。

「喰らいなさい! ダブルトマホーク!」

ガキ〜〜ン!

若者も負けてはいません。
斧と隠し持っていた剣を組み合わせて女神様の猛攻をしのぎます。

「なんの! ソードトマホークブーメラン!」

ガキ〜〜ン!
ガキ〜〜ン!

「や、やりますわね」
「当たり前だ! そうそう毎回やられてばかりいるものか!」
「いいえ、それがこの世界の理。逃れることのできぬ運命……。さあ、この宇宙から消えてしまいなさい!」
「そうはいくかよ!」

ガキ〜〜ン!
ガキ〜〜ン、ガキ〜〜ン!

女神様と木こりさん、壮絶な戦いはいつ果てるともなく続きます。

今回の教訓:
「落し物に注意」

おしまい


ダブルトマホークランサー!

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