『機会(ジーフィー)』

※例によってツッコミ禁止


日本迷作マンガ劇場 その6 グ○ップラー刃○

キャスト
劉海王:偉
烈小龍:苺鈴

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黒龍江省
白林寺―――

噴(フン)ッ 破(ハ)ッ 
噴ッ! 破ッ! 

この世で一番オタクの喜ぶコンテンツですか。
ニコ動、有線放送……いろいろございますなあ………………
ただ―――
たった一つだけというならやはり………………

テレビアニメ化でございます。

噴ッ! 破ッ! 
噴ッ! 破ッ! 
噴ッッ!!
破ァッ!!!

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幾多の修行僧が修行に励むその寺の奥で。
その老人は静かに椅子に身をもたれかかせていた。
老人、と言ったが正確な年齢は判別し難い。
60をわずかに超えたばかりとも、80を大きく超えているようにも見える。
不思議な雰囲気を纏った男である。
座する椅子、身につけた衣装いずれも派手さはないが一目で高級とわかる逸品でそれがまたよく似合う。
周囲に頭を垂れてひざまずく男たちを見てもわかるようにかなり高い地位にある男のようだ。
男たちの中の一人が老人の前に手をつき何かを報告し始める。

「……弐十年……」
「……新作……」
「……弐千拾捌年肆月……」

何を喋っているのかよく聞き取れないが、老人にとってそれは嬉しい報告であったようだ。
知的なその相貌にかすかに喜色が浮かぶ。

「そうですか。ついに」

報告を終えた男が下がると老人はゆっくりと立ち上がった。
かなりの長身である。
一見、やせて見えるが上着の端からかすかにのぞく引き締まった上腕筋、そしてなによりこのような場所で男たちに傅かれるという立場から、老人が卓越した拳法家であることは容易に想像がつく。
それもかなり上位の立場にあるのだろう。
周囲の男たちが老人に向ける視線には皆、ただならぬ崇敬の意がこもっている。

「二十年……なごうございましたな」

立ち上がった老人は静かに歩き出す。
その先にあるのは水をたたえた石棺だ。
横幅2m、長さは10mほどもあろうか。
その縁には龍の文様を象った印が押されている。

「その間、いろいろなことがございました。翼、運命……。行住坐臥全てをささげて皆、ひたすらに待ち続けた……。それがついに……」

石棺の前に立った老人がその拳を石棺の縁にあてる。
拳をあててそのまま動かず、ふっと一呼吸。
その刹那。

「破ッ!」

含(ガン)ッ!

鋭い気合一閃。
老人はわずかにも身を動かさなかったにも関わらず石棺と拳の間から凄まじい激突音が響いた。

ざざざざざ……

石棺の上に張られた水の上を波が渡っていく。
老人の拳が起こした衝撃によるものであろうが、拳の衝撃だけでこれだけの波を起こすとはやはりこの老人、只者ではない。
なによりも老人は衝撃の瞬間にも体を動かさず、拳は石棺に密着したままだったのだ。
これが中国拳法の奥義、寸勁であろうか。

ざざざざざ……

老人の立てた波が石棺の半分も通ろうかとしたその時。

「破ァッ!」

含ッ!

石棺の反対側から老人のものに負けぬ鋭い気合と衝撃音が上がった。
何者かが老人と同じように寸勁を放ったのだ。

ざぁ……

これも老人のものに見劣りせぬ波が湧き上がり石棺の上を走っていく。
寸勁を放った者。それは……

「苺鈴!」
「幽閉されていたはずッッ」
「不義(プイー)ッッ」

一人の少女であった。

ざざざざざざざざ…………
……
ドガッ!

「うわっ!」
「………………ッッ」

老人と少女、二人の起こした波の激突が石棺の中腹を破壊する。
飛び散る石の破片、流れ落ちる水。
それを前にして少女が叫ぶ。

「偉(ウェイ)ッッ! なぜ私に…………ッッ」
「なぜ私に新シリーズへの出演をッッ」
「なぜ私に機会(ジーフィー)をッッ」

先の気合をも遥かに凌ぐ少女の叫びが響く。 

「偉! なんで私に機会を与えてくれないのッッ!」
「控えんか未熟者!」
「偉老師になんという暴言だッ」

取り巻きの男たちの制止の声に少女は冷笑をもって応える。

「未熟者? あら。それは貴方たちエンドクレジットに名前も出ないモブキャラと比べてのことかしら」

あまりにもな暴言であるが、男たちはこれで声を失った。
少女の言葉がもっともなものだったからである。
色を失った男たちに冷たい一瞥を与えてから少女は再び老人と向かい合う。

「偉。教えてちょうだい。私に出演の機会を与えない理由をッッ」

血を吐くような少女の叫びにも老人は無言。
が、ふいにくるりと背を向け

「ついてきなさい」

の一言。
歩き出した老人の後をついて少女も歩き出す。
しばらく歩いた先にあったのは倒れ伏す数名の男と叩き破られた扉。

「おうおう。ブ厚い樫の扉を素手で叩き割り、武器を持つ警備兵を倒してのけたというわけですか。立派なものですな。李 苺鈴」

老人の賞賛にも少女は応えず、ただジッと老人をにらみつけるのみ。
それが嬉しいのか好々爺ともいえる笑みを浮かべながらなおも老人は進む。

ズチャ…… ズチャ……

歩むうちに二人は寺のかなり奥深いところまで進んでいたようだ。
薄暗いその通路は長いこと人が来たことはないと思わせる誇りにまみれている。

「この寺にこんな場所があったの?」
「わたしも20年ぶりになります。ここに降りてくるのは……」

やがて……
どれだけ歩いたかもわからぬほどの深い闇の先にあったもの。
それは、太い木の閂(かんぬき)で厳重に閉ざされた扉であった。

「苺鈴様。貴方の新シリーズ出演への道を閉ざす理由―――それはこの扉の向こうにあります」

バンッ
ミシッ……
ミシッ、ミシッ……

両の手を扉にあて、力で強引に扉を押し開けようとする偉。
加えられる力は如何ほどのものなのか、頑丈な閂がミシミシと音をたてて曲がっていく。
見た目によらぬ凄まじいばかりの膂力である。

……いや、これ閂(かんぬき)を抜けば普通に開くんじゃね? っていうか閂ってそういうもんじゃね? という実に一般的な意見を苺鈴は喉の奥に飲み込んだ。
ここはツッこんだら負けだと本能が告げている。

ミキ……
メキ……メキ……
ベキベキ、バキバキ……
ベキィッ!

偉の怪力によりついに開かれた扉。
飛び込んだ苺鈴がそこに見たものは……!

「キャラクター……人気投票?」

壁にでかでかと張り出された

『カードキャプターさくら キャラクター人気投票結果』

であった。

「今を遡ること20年、劇場版『封印されたカード』公開前に行われた人気投票です」

連ねられる名、名、名。
1位 さくら
2位 小狼
3位 知世
4位 ユエ
5位 ……
6位 ……
…………
10位まで張り出されたその結果の中に苺鈴の名は……ない!

「な、ない? わたしの名が!」
「おわかりになられましたかな」
「う、偉、これは」
「苺鈴様。あなたが新シリーズに出演できないのは原作準拠の設定ゆえではありません。人気こそが問題―――あなたの人気が低い、それだけのことです」

「低いッッ このわたしが!!」

逃れようのない厳然たる事実を見せ付けられ苺鈴はがっくりと膝をつく。
うなだれたその顔には絶望が深く刻みつけられている。
それを見つめる偉の視線はこの男にしては意外なほどに冷たい。

(残伝でしたな苺鈴様。ま、ぶっちゃけたところあなたは旧作で少々、目立ちすぎたのですよ。あれでは原作準拠の新シリーズでは使いにくい。よほどの需要がないかぎり出演は無理というもの……しかしっっ)

くわっ!

(カード集めにもストーリーにもほとんど絡まなかったわたしならば話は別! 小狼様のお付として無理なく出演できるというもの。アニメ版旧作と新シリーズの橋渡しとしてわたしほどふさわしい者はいない! 新シリーズへの出演はこの爺がいただきますぞ苺鈴様!)

新シリーズへの出演を確信してか、偉の頬に不敵な笑みが浮かぶ。
たしかにストーリーにほとんど絡んでこなかった偉ならば新シリーズへの出演もさほど難しくはないようには思える。
偉の自信にもうなずけるというものである。

だがっ!

そんな偉も一つ見落としていることがある。
それは。
小狼、さくら、二人がもはや小学生ではないということ。
いちゃつきたいざかりの中学生であるということ……。

いちゃつきたいバカップルとって彼氏の保護者など邪魔者以外の何物でもない。
ただでさえ彼女側にお邪魔虫の多いこのカップルにとってこれは死活問題とすらいえる。
また、ラ〜ブラブな展開を期待している視聴者にとってもそれは同じである。
ある意味、偉は苺鈴以上に新シリーズに求められない存在なのだ。

李苺鈴。
偉望。

二人に新シリーズ登場への機会(ジーフィー)はあるのか……?

END


元ネタは「機会」「ジーフィー」でググればでてきます。
まあ、元ネタ知らないで最後まで読む人もいないでしょうが。

きっかけになったのは最近買った苺鈴をメインにした珍しい同人誌。
3巻特典のDVDを見る限り、新シリーズはアニメ版の設定はちゃらにして原作準拠になるみたいです。
そうなるとアニメ版オリジナルキャラの苺鈴はどうなるのか?
なんとなくいなかったことにされてしまいそうな気がしますが。

個人的には苺鈴よりも偉さんの方が気になりますが。
偉さん、アニメ版の最終回では実にいい味出してました。
是非とも新シリーズにも出てほしいところですが、さてどうなることか。

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