『無惨編・番外・オチ』



「うっ……ぐ……」

さてその翌朝。
ベッドの上の小狼様、なにやら苦しげなご様子です。
うんうん唸って悶えています。
体が思うように動かせないようです。
まあ、これはしかたのないことでしょう。
昨夜はちょっとはっちゃけすぎでした。
全身がこれ以上はないというくらいに疲弊しています。
まるで体中に鉛が詰められたかのようです。
おまけに頭がガンガンして目の前がクラクラします。
エッチはともかくとして、その上に魔法は使うはカードは使うはとさすがにやりすぎでした。
頭痛は飲めもしないお酒をガバガバ飲んだせいでしょう。
カッコつけもたいがいにしておかないとこういうことになります。
自業自得ですね。
体力も魔力もすっからかん。
とうてい動けそうにありません。
月の光を浴びていれば無敵の小狼様も朝になればこんなもの。
これは一人ではどうにもならんと思った小狼様、ベッド脇のメイド呼び出しボタンを押しました。
押してからしまった、と思いました。
呼び出しボタンがつながっているのは当然ですがさくらの部屋。
昨夜、まさに小狼様のお相手をしたさくらを呼ぶためのボタンなのです。
自分ですらこの有様。
その相手をしたさくらが動けるとはとうてい思えません。
呼んだところで来るはずもなし。
別の者を呼ぶか、しかしこの有様を見られるのもと逡巡する小狼様でしたが。

「お呼びでしょうか小狼様」

さくらがいつもと同じように部屋に入ってきた時、小狼様はさらにしまった、と思うのでした。
どうやらさくらのタフネスぶりは小狼様の想像を超えていたようです。
いつもと全く変わった様子がありません。
それどころか、いつもよりもお肌がつやつやしているように見えます。
声にも張りがあり、まるで生気を充填したかのような。
その生気のもとが自分があ〜〜んなことやこ〜〜んなことをしてさくらに注ぎ込んだ精かと思うと小狼様、情けないことこの上ありません。
自分がこんな様では情けなさも倍増しです。
思わずこう言ってしまうのも無理のないところ。

「あ、いやなんでもない。すまないな。ちょっと間違えて押してしまった」

なんでもないかのように立ち上がり、いつも通りの冷徹な表情で通したのはやせ我慢とはいえお見事。
足は生まれたての子鹿のように震えてますが。
まあ、小狼様がこんなやせ我慢をしてしまうのもこれまたしかたのないことですね。
なにしろ昨晩、

「こっちのお口はずいぶんと正直じゃないか」

とか

「なにが欲しいんだ? 上手におねだりできたらくれてやるぞ!」

とかやった相手に翌朝、身動きできないところをかいがいしく看護されたとあっては男の沽券もへったくれもあったものではありません。
小狼様としてはなんとしても弱みを見せられないところでしょう。

「そうでしょうか。お顔の色がすぐれないように見えますが」
「いや大丈夫だ。なんでもない。大丈夫だから」
「ですが」
「本当に大丈夫だから。朝から呼び出してすまなかったな」

なんとかさくらを部屋から追い出すことに成功した小狼様。
ドアの鍵をかけたところでバッタリと倒れてしまいました。
この辺がやせ我慢の限界だったみたいです。
薄れ行く意識の中で、干からびた自分の上でステップを踏むさくらと知世嬢の幻を垣間見てしまう小狼様なのでした。

おしまい


オチ。
やはり最後はこうなります。

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