『生誕の日・純情編』



「小狼様。お誕生日おめでとうございます。わたしからのささやかなプレゼントです。どうぞ、この卑しいさく らの肉を存分にお楽しみください・・・」

病床の兄を助けるため、そして、己の秘めたる想いに殉じるため・・・
悲壮な覚悟で身を捧げる少女。

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・・・・・・

ですが。

(あれ? 小狼様?)

当の小狼様はいつまでたっても何の反応も見せません。
おかしいなと思って顔を上げたさくらの目に映ったのは・・・


トマトのようにまっ赤ッ赤


な小狼様の顔でした・・・

「さ、さく・・・おま・・・・・・!!」

小狼様、口をぱくぱくさせて何か言おうとしてますが、うまく言葉が出てきません。
純情な彼にはちょ〜っとばかり刺激が強すぎたようです。


かぁぁ〜〜〜っっ!!


おぉっと。
あまりにもウブすぎる小狼様の反応に、つられてさくらもまっ赤ッ赤になってしまいました。
まぁ、無理もないですね。
ここで小狼様が

「なかなか気の利いたプレゼントだ(棒読み)」

とか

「お前にもようやくメイドのお仕事がわかってきたようだな(棒読み)」

とかやってくれたら、さくらも恥ずかしくなかったんですけどね〜〜。
小狼様みたいにマトモな反応をされてしまうと、自分だけアホみたいな格好してる気になっちゃいます。
実際、かなりイタい格好してますし。

「はぅぅぅ〜〜 見ないでください〜〜」

おっぱいを隠そうと、背中を向けてうつぶせになるさくら。
しかし、これはあまり賢い選択とは言えません。
胸ばかり気にして忘れてるのかもしれませんが、芙蝶達にはパンツもとられちゃってます。
なので下もスッポンポンです。
この状態で後ろを向いてしまうと、かわいいお尻を小狼様に突き出してる格好になってしまいます。

胸を隠してお尻隠さず。

目の前でぷりぷりとした真っ白いお尻が揺れまくるという、インパクト極大のスーパーコンボ
こんな破壊力絶大な攻撃に小狼様が耐えられるわけがありません。

「!?#$%?¥%&???〜〜〜!!」

ブブーーッッ!!!

ばたっ

小狼様、盛大に鼻血を噴き出してぶっ倒れてしまいました。

「ほぇぇ?? 小狼さま〜〜」
「う、う〜ん・・・」

床にぶつかったショックで1度は目を覚ました小狼様。
ですが、今度は駆け寄ったさくらのおっぱいが目の前でぷるんぷるんするという、超絶なハイパーコンボが炸裂。

「〜〜〜ッッ!! がくっ」

再び失神。

「ほえぇぇ〜〜〜小狼さま〜〜! しっかりして下さい、小狼さま〜〜 誰か〜〜誰か来て〜〜〜・・・って誰か来たら裸、見られちゃう! で、でも! 誰か〜〜、誰か来てぇぇぇ〜〜〜!!」

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「ダメだったみたいね」
「そのようね」

さて、こちらはお姉さま方。
壁の穴に目をくっつけながら、情けなさそうにタメ息をついています。
どうやらお隣の部屋から二人をノゾキ見していたようです。

わざわざノゾキ穴なんか使わないで隠しカメラでも使えばいいだろ! と言いたいところですが、この辺はデバガメの様式美というやつでしょうか。
やんごとなき身分のお姫様達のお考えになることはわかりません。

「まったく、小狼はもぅ〜〜。まさか、あそこまでウブだったとはね」
「ホントに。お姉さまがここまで段取りしてあげたのに。しょうのない子ね」

あの〜。
なんと言いますか、その〜〜。
小狼様の純情さを考慮すると、段取りの方法に重大な欠陥があったような気がしてならないのですが。

「どうする? ほっとく?」
「ほっときたいところだけどね。当主が鼻血で失血死、っていうのも世間体が悪すぎるわ」
「やれやれ」
「こんなことじゃ、いつになったらうまく行くことやら」

ですから、その〜〜。
お姉さま方が何もしなければ、お誕生日らしいイベントの一つや二つあって、二人の仲も少しは進展したんじゃないかという気がギュンギュンするんですけど・・・
この方達には何を言っても無駄ですかね〜〜。


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一夜明けて翌朝・・・のメイド控え部屋。

「おはようございます!」
「おはよう、さくら。今日は早いね」
「はい! 今日も1日、よろしくお願いします!」
「じゃあ、早速これを・・・」
「あ、さくら! 今日はこっちはいいからすぐ小狼様のところに行って」
「え・・・(小狼様のところに? かぁぁ〜〜〜) わ、わかりました!」

すたたたた〜〜〜

「ちょっと! こっちの仕事も溜まってるのよ。さくらにも手伝ってもらわないと」
「バカね、聞いてないの? あの子、小狼様の手がついたらしいのよ。もう、『お部屋様』なのよ!」
「えぇっ! ホントなの?」
「ホントよ。昨日の夜、あの子、小狼様に呼ばれて戻ってこなかったんだって」
「まぁ!」
「しかも、今朝その部屋を掃除した子に聞いたら、床に血の跡があったって言うじゃない」
「血の跡って言うと・・・やっぱりあれ?」
「そうとしか考えられないわよ! まぁ、あの子くらい可愛かったら小狼様も抛ってはおかないわよね」
「きゃ〜〜〜! でも床の上でって・・・小狼様ってやっぱり、S?」
「当たり前じゃないの! あぁ、さくら可哀想に・・・。きっと小狼様に床に押し倒されて無理やり・・・ きゃ〜〜!!」

きゃーきゃーとかしましい猥談に花を咲かせるメイドさん達。
鬼畜」「」「」「調教」等と、かなりデンジャラスな単語が飛び交ってますが、聞こえなかったことにしたいと思います。
あと、さくらが可哀想、可哀想を連呼してるのに、全然可哀想に思ってるように聞こえないとか、
わたしも小狼様に代わってさくらを調教したいわ〜〜とか聞こえるのも、とりあえず無視したいと思います。


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そんでもって、その小狼様のお部屋。

「おはようございます」
「お、おはよう」
「小狼様・・・あの・・・」
「な、なんだ」
「いえ、その・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・」

朝っぱらからメッチャ気まずい雰囲気で黙り込んでしまう二人。
これはしょうがないところでしょう。
なにしろ、一方はすっぽんぽんのところを見られちゃってますし、一方は鼻血ぶーたれて失神したところを見られてます。
好き合う二人に隠すものなどないとは言いますが、ちょっとばかり隠さなすぎです。

(はぅぅ〜〜恥ずかしいよ〜〜小狼様にお、おっぱい見られちゃったよ〜〜〜)
(うぅ・・・さくらにあんな恥ずかしいところを・・・あ〜ね〜う〜え〜〜恨みますよ〜〜)

見ている方が恥ずかしくなってしまうほどの初々しさ。
とても
鬼畜御主人様

調教メイド
のコンビには見えません。

さてさて。
このこっ恥ずかしい沈黙を先に破ったのは

「あの!」

さくらの方でした。
こういう時に先手を取って場を治めるのができる男というものなのですが。
小狼様、まだまだ修行が足りませんね。

「小狼様! 昨夜のことは・・・その・・・」
「わかってる! どうせ姉上たちに無理やりやらされたんだろ! 兄貴のことで脅かされでもしたのか」
「は、はい。でも! わたし・・・それだけじゃないんです」
「なんだ。まだ他に何かあるのか」
「わたし・・・小狼様に喜んでいただきたくて・・・その・・・」
「おれに?」

思いつめた表情で言葉を紡ぐさくら。
昨夜のあまりにも恥ずかしい体験がさくらの心のタガを吹っ飛ばしてしまったのでしょうか。
潤んだ瞳で小狼様を見つめながら、秘め隠した想いを吐露しています。

「わたし、小狼様にだったら・・・小狼様になら・・・」
「さくら?」
「わたし・・・わたし・・・小狼様のことが・・・す・・・」

コンコンコン

「!? 誰だ!」
「わたしです。小狼様」
「偉か。どうした」
「お出かけの時間になりましたのでお迎えにあがりました」
「え? あ、もうこんな時間!?」

あらあら。
小狼様、恥ずかしさに気を取られて時間が経つのを忘れてたみたいです。
今日は大事な会議がある日でした。

「小狼様? ご用意が終わっていらっしゃらないのですか」
「いや、今すぐ行く! さくら、お前もすぐ用意しろ」
「は、はい」

ドタバタと慌しく出かける準備を始める小狼様とさくら。

(せっかく小狼様に告白できるチャンスだと思ったのに〜〜とほほほ〜〜)
(おれだったら何なんだ、さくら! す・・・の後は何なんだ、さくら! くそ、偉! いいところで邪魔するな!)

すったもんだの末、結局何の進展もなし。
この二人らしいと言ってしまえばそこまでですけど。

こうしてまた、二人の新しい1日が始まります。

えんど


生誕の日、阿呆編。
香港では側室を『お部屋様』などとは呼ばないのでは? という気もしましたがいい呼び方がわからなかったので適当に呼んでます。
(実際には子供を生まないと『お部屋様』とは呼ばないらしいですが)

おまけ編につづく・・・かも

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