『香港物語・7』



エピローグ
―――女当主と執事―――

「そうですか。小狼は自分を抑えることができましたか」
「はい。一時はどうなることかと思いましたが・・・」
「ならば、もうそろそろ良いのかもしれませんね」
「何がでしょうか。夜蘭様」
「あの子を普通の生活に戻してもいいのではないか、ということです」
「!?それは少し早すぎはしませんか」
「そんなこともないでしょう。それほどに激昂しても尚、自分を抑えきれるのであればこの先もそうそう暴走することはないでしょう。それに・・・」
「それに?」
「桜さん、あの娘がいます。あの娘の力・・・あれが小狼を抑えてくれるでしょう」

夜蘭の答えに偉はやはりそうだったのか、と胸の奥で呟いた。
さくらが小狼付のメイドに選ばれた理由は李家の中でも謎とされていた。
さくらは夜蘭が自ら探し出して小狼に与えたという経緯がある。
単に閨の世話をさせるだけならば、わざわざ当主自ら手間をかけて選ぶ必要など無い。
夜蘭が直々に選出したというのには何か深い意味があるのではないか?と偉も考えたことがある。
どうやらそれは当たっていたようだ。

さくらには不思議な力がある。
それは小狼や夜蘭の持つ力とは異なる力。
周囲の者に安らぎを与えてくれる不思議で優しい力。
おそらくは、さくら本人も気づいていない力。
それが夜蘭がさくらを選んだ理由だったのだろう。

それに納得する偉ではあったが、もう一つ気にかかることを夜蘭に聞かずにはいられなかった。

「その点は了解いたしました。しかし、夜蘭様。よろしいのでしょうか。その、なんといいますか小狼様は・・・」
「桜さんを気にかけすぎている。これ以上、あの二人を近づけているといつか小狼はあの娘に心を奪われてしまう・・・そう言いたいのでしょう」
「仰るとおりです。たしかに桜さんの力は小狼様にとって必要なものです。しかし、生涯の伴侶として選ぶとなりますと話は別かと・・・」
「良いのではありませんか」
「夜蘭様!?」
「良いではありませんか。あの子が自分で選ぶというのであれば」
「し、しかし・・・」
「偉。李家の血も少し、古くなりすぎたとは思いませんか?この辺りで少し新しい血を迎えるというのも良いでしょう」
「ですが、それで一族の方々が納得していただけるでしょうか?」
「無論、小狼は一族を納得させるだけの力を見せる必要があるでしょう。しかし、偉。己の伴侶も自分で選べないような男に一族が統べられると思いますか?」
「それはそうですが・・・」
「私はあの子を信じています。それに桜さん。あの娘と一緒であればきっと・・・」

それきり夜蘭も偉も沈黙した。
小狼とさくら。
二人がどのような選択をするのかは誰にもわからない。
ただ、あの二人であれば誤った未来を選びはしまい。
それだけは夜蘭も偉も確信しているのだった。


END


香港物語、出会い編エピローグです。
ぶっちゃけ偉さんが書きたかった、ただそれだけだったりします。
偉さん、いい味出してますよね。
テレビ版ではさくらと小狼を除けば最後に登場した人物です。
あの最後に小狼にぬいぐるみを渡すところは「偉さん、グッジョブ!」と言いたくなります。

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